第131話 先輩と雪遊びしたいです……!

 登校時、何気なく寮の廊下で窓から外を見ると――外が一面、真っ白に染まっていた。

 今日は一段と寒いと思っていたが、ようやく気温の原因に納得がいく。


「……せ、先輩っ!雪ですよ!?雪ー!」


「うん、そうだね……?」


「適当に返事しないでくださいよ!絶対見てませんよね!?」


 布団に潜ったまま返事をするブレアに、ルークは不満そうに言う。

 外を見てから返事をしてほしい。本当に雪が積もっていることを把握しているのだろうか。


「何でそんなにテンション高いの。朝から元気だね?」


「だって雪ですよ、テンション上がるに決まってるじゃないですか!」


 ルークはキラキラと目を輝かせて外を眺めている。

 声だけでも相当はしゃいでいるのがわかって、ブレアは呆れたように息を吐いた。


「雪が降ったくらいでそんなに……先週も降ったじゃないか。」


「積もらなかったじゃないですか!今めちゃくちゃ積もってますよ!」


 ルークが抗議するように言うと、ブレアが「そうなの?」と驚いたように言う。

 やっぱり把握していなかった。


「そうですよ、見てください!」


「えぇ、嫌だ。寒い。」


 ルークが呼びかけても、ブレアに布団から出てくるつもりはないらしい。

 確かに寒いが、そんなに寒がらなくてもいいと思う。


「綺麗ですよー?放課後なら雪で遊べますかね?」


「できるんじゃないかな。そう簡単には溶けないだろうし。」


 ずっと外を見ていたルークが、ばっとブレアの方を振り向く。

 嬉々とした様子でブレアに声をかけた。


「じゃあ授業終わったら外行きましょうよ!雪遊びしましょう!」


「嫌だ。」


 子供っぽいなと思いながら、ブレアはきっぱり拒否する。

 何故そんなにはしゃいでいるのだろうか。


「何でですか!」


「嫌だよ、寒いもん……。弟さんお友達とかに遊んでもらいなよ。」


 面倒そうにブレアが答えると、ルークはがっかりしたように項垂れた。

 本当に彼は高1なのだろうか。初等学生に見える。


「先輩と雪遊びしたいです……!」


「雪なんかでそんなにはしゃいで……誰としても変わらないでしょ。」


 少しだけ顔を出したブレアが息を吐くと、ルークは「変わりますよ!」と強めに反論する。


「先輩が一緒なら楽しさ倍増です!先輩と1から10まで全てのことをしたいんです!あわよくばえっt――」


「君を雪に埋める遊びならするかも。」


「是非!」


 ぎゅっと拳を握って言うルークを見て、ブレアはドン引きしたように顔を顰める。

 一応冗談だったのだが、ルークは嬉しそうに表情を明るくした。


「やらないよ。」


「本気で期待したのに……。」


 しゅんとしているルークを見て、ブレアは気まずそうに布団に潜った。






 いつもの如くぎりぎりに教室に来たルークは、何だかしゅんとしていた。

 まあブレア絡みで何かあったのだろうな、エリカと関係があるのかな、とヘンリーが声をかける。


「ルークくーん、どうしたの?」


 ひらひらと手を振ってヘンリーが聞くと、ルークは唸るように声を出す。


「……先輩と雪遊びがしたいー……っ!」


「よく積もってるもんねー。ユーリー先輩は、あんまり興味なさそうなイメージだけど。」


 神妙な声色で言うルークに、ヘンリーか苦笑する。

 あまり雪だとはしゃぐタイプには見えないが、どうなのだろうか。


「勿論断られた!ヘンリーに遊んでもらえって!!」


「オレも嫌だよ?マフラーしたら眼鏡曇るし。」


 ヘンリーがさり気なく断ると、ルークは大きな声を出した。


「遊べよ!?先輩に振られた可哀想な俺を慰めてあげようとかないのか!?」


「思わないかな~もう既に。振られるとこまでがテンプレみたいな……?」


 他の友達が振られて落ち込んでいたらどうにかしたいと思うが、ルークと兄に関しては全く思わない。

 また何かしたんだなーと呆れるのみだ。


「そんな悲しいテンプレ嫌だぞ俺は……。辛辣な先輩も素敵だけど、そろそろ受け入れられたい!ああでも先輩に『は?』って言われなくなるのは嫌だな……。」


「そうだねー?つまり何がしたいの?」


 だんっと机を叩いたルークは、顔を上げて叫んだ。


「先輩と雪遊びがしたいっ!!」


「朝から元気ですねぇ?ブレアに何かご用ですか?」


 教室に入ってきたリアムが、大声に驚いている。

「あ、おはようございます!」と慌てて挨拶したルークは、真っ直ぐにリアムの方を見た。


「聞いてください先生!先輩が雪遊び嫌って言うんです!」


「そうですか。それが何か……?」


 それに何の問題があるのだろう、とリアムは不思議そうに聞き返した。


「滅多にできないじゃないですか、だから絶対先輩と雪遊びがしたいんですよ!」


 ブレアは勿論、ヘンリーまで乗り気ではないようだが、ルークはものすごく雪が好きなのだ。


 雪が積もれば毎回ソフィと遊ぶのだが、ソフィの数倍はしゃぐ。

 ソフィが疲れて家に帰っても、1人で夜中まで遊んでいた。

 1度雪にはしゃぎすぎてバイトを忘れたことがある。

 それくらい、ルークは雪が好きだ。


「そんなに騒がなくても、誘えば応じてくれるのでは?」


「断られたから嘆いてるんです!雪なんかではしゃげないって!」


 ルークが大声で言うと、リアムは呆れたように苦笑した。


「ブレアももう高等学生ですからね。昔は羽目を外してしまう程、雪が嬉しかったようですが。」


「先輩が!?どんな感じだったんですか!?」


 ルークは興味津々に聞くルークの横で、ヘンリーが意外そうに目を丸くしている。

 大人びている――というより魔法以外には無関心なイメージしかない。

 勝手にずっとそうだと思っていたが、小さい頃は普通に子供らしい人だったのだろうか。


「そうですねぇ、『魔法の熱でどれくらい溶かせるかやってみたい!』と言って、ご迷惑にならないよう近くの山に登って――。」


 何故か黙りこんでしまったリアムに、ルークは不思議そうに首を傾げた。

 数秒した後、リアムは溜息交じりに苦笑する。


「山火事を起こしかけました。」


「何やってるんですか!?」


 ヘンリーは邪魔しないよう黙って聞いていたというのに、ついツッコんでしまった。

 やっぱりブレアは小さい頃からあまり変わっていないのかもしれない。


「私がついていなかったら燃えていたでしょうね。冬は乾燥しているから燃えやすいと知らなかったんだと思います。」


「先輩は昔からそんなに魔法の才があったんですね!流石先輩、天才、素敵です……!」


「うっとりしないでルークくん!?普通に危ないから!褒められることじゃないからしっかりして!?」


 完全に盲目になっているルークを、ヘンリーは呆れ通り越して心配している。

 変わらないブレアが好きなのだろうが、山火事は断じて素敵ではない。


「ちっちゃい先輩とか絶対可愛いじゃないですかぁ!どんな感じでした?」


「可愛らしかったですよ。冬場は寒いから、と言ってくっついてきたりして。」


 リアムがくすっと笑うと、ルークは悔しそうに目を閉じた。


「俺も先輩にくっつかれたいです……!」


「無理じゃないですかね?」


 リアム先生羨ましい、と嘆いているルークに、リアムは少し得意気に笑った。

 ルークに勝っていることが嬉しかったり、するのだろうか。

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