ホワイトデー特別編4 本当に申し訳ありませんでした!
似たようなことは言ったが、かなり改変されている。
どれだけ都合のいい耳をしているんだ、とアーロンは呆れたように、大きく溜息を吐いた。
「んな顔してねえよ、キメ顔で言うんじゃねえ!どんだけ都合のいい耳してんだお前はぁ!」
真似をしているつもりなのか知らないが、いらっときた。
一部分だけ聞き取って曲解しないでほしい。かなりややこしくなっている。
「全然違ぇよ、まず付き合うっていうのは――」
「何が違うんですか、先輩に抱き着かれてた癖に!めちゃくちゃいい雰囲気だったじゃないですか!あのまま先輩をお持ち帰りするつもりだったんじゃないですか!?」
「しねぇよ!?つーかんなに最初から見てたのかよ!」
一番見られたくないところを見られていた。
何と説明すればルークは納得できるのだろうか。
「初めからずーっとみてましたよ、お2人がラブラブデートするところを!アーロン先輩が俺の先輩寝取ったぁー!」
「寝てから言えや!ヘンリーも止めろよ、コイツが暴走すんのわかってたろ!?」
ルークの相手が面倒になり、アーロンはヘンリーの方に目線を向ける。
1人ならともかく、ヘンリーが一緒なら止められたはずだ。
「オレも最初は違うと思うよって言ってたんだけど……。手繋いだりしてたから、あ、これ黒だなって思った。」
「紛れもなく白だわ!お前ならわかるだろうが!」
ゆっくりと首を傾げたヘンリーは、アーロンに怪しむような目を向けた。
「いや、兄貴ならワンチャンあるなって。」
「ねぇよ!」
ドン引きしたような目で見てくるヘンリーは、言わなくても「サイテー。」と言いたいのがよくわかる。
「だって顔は好みなんでしょ?付き合いたくはなくても、兄貴ならちょっと暇だからひっかけるとか全然……。」
「やめろ!ルークが怖ぇからとりまやめろ!」
実際似たようなことをしたことはあるので、そう言われると何も言い返せない。
ただブレアで、となるとルークが物凄く怖いので、やめてほしい。
「違うなら、結局何してたのか説明してあげてくださいよ。ルークくん泣いちゃいますよ?」
「そんなしょうもないことで泣かないで。」
はあっと溜息を吐いたブレアは、ルークに近寄り、目の前で立ち止まる。
ルークがわざと表情をきつくするが、それには目もくれていない。
無言でルークのネクタイに手をかけ、するすると解いていく。
「え……なんですか先輩!?……ここ外ですよ?」
「うん、本当は部屋で渡すつもりだったんだけど、見つかっちゃったからいいかなって。」
頬を染めて微妙に気持ち悪い反応をしているルークだが、ブレアは気にしていないようだ。
外したネクタイを紙袋に入れ、変わりにさっき買ったものを取り出した。
「……僕、ネクタイ結ぶの初めて。」
「え、自分のどうしてたんですか!?」
手の動きに注目していたルークだが、驚いてブレアを見た。
女体の時はリボンだが、男体の時はネクタイだったはずだ。
「リアムに結んでもらってた。歪んでたら勝手に直してくれるし。」
「リアム先生、すごい世話焼きですね……?」
当然のようにいいながら、ブレアはルークの首元にネクタイを結んでいく。
確かリアムはこうしていたっけな、と思いだしながら、見様見真似でやってみる。
「……!できたかも!」
ちゃんと結べたようで、先を引きながらぐいと結び目を上へ滑らせた。
「ぐぇっ、首絞まりますって!」
「ああ、ごめん。ちょっと嬉しくて。」
形を整えたブレアは、すぐに数歩離れる。
じっとルークの姿を見ると、満足そうに少し笑った。
「いいね。似合ってるんじゃない?」
「え、ええ!?あの、これ何ですか!?」
ルークはブレアから視線を外し、ようやく自分の姿を見下ろした。
ブレアが外してしまった学校指定のネクタイの代わりに、上等そうな、黄色いネクタイがつけられていた。
「ネクタイだよ。」
「違う、そうじゃない(です)。」
さらりと答えるブレアに、兄弟は声を揃えてツッコむ。
兄と完全に被ったことが気まずかったのか、ヘンリーは不機嫌そうに黙ってしまった。
「あげる。」
「いいんですか……?」
ブレアがこくりと頷くと、ルークはもう一度ネクタイを見下ろして、またブレアを見る。
「これを買うために、アーロン先輩と?」
「そ。僕1人じゃ選べる自信なかったから。」
恥ずかしそうに目を逸らしたブレアを見て、ルークの表情がみるみる明るくなっていく。
感極まったように唇を引き結び、ぎゅっと手を握ると――しゃがみ込んでしまった。
「え、どうしたのルークくん!?」
驚いたヘンリーが心配して声をかける。
謎行動すぎるが、ルークは顔を伏せたまま答えた。
「……抱き着きたい衝動を必死に抑えてる……!」
「そんなに嬉しかったんだ。」
困ったように笑うブレアだが、嬉しいに決まっている。
ブレアから物をもらうのも嬉しい。
ブレアが自分のために、あんなに真剣に選んでくれたことが嬉しい。
デートじゃなくて嬉しい。
「そりゃあもう、めちゃくちゃ嬉しいですよ、安心しましたし……!」
「喜んでもらえたならよかったよ。」
暫くそのまま会話していたルークは、落ち着いたのかようやく立ち上がった。
嬉しいな、嬉しいな、と思っていると、嬉しすぎて忘れていた疑問を思い出す。
「俺が何か貰えるようなこと、ありましたっけ?」
「え、バレンタインくれたでしょ?だから、お返し。」
「成程~!」
きょとんとしていたルークは、ブレアの言葉を聞いて納得したように声をあげる。
言われて初めて、今日がホワイトデーであることを思い出す。
「今日はホワイトデーですもんね!え、更に嬉しいんですが!……あ、あああああっ!?」
何度か頷いたルークは、ふと肝心なことを思い出して、大声を上げた。
周囲に響く程の大声に3人とも少し顔を顰める。
「どした?まさかお前ユーリーに返すの忘れてた……とか?」
ブレアにバレンタインを貰ったことは、嬉しそうに話されたのでアーロンでも覚えている。
表情を凍らせたルークは、即座にブレアに向かって頭を下げた。
「すみません完っ全に忘れてましたぁ!!」
すっかり忘れていた。
今日がホワイトデーであることを忘れていたどころか、ホワイトデーすら頭になかった。
「ユーリー先輩が買い物に行く理由がわからないってことはもしかして……て思ってたけど、本当にそうだったんだ?」
呆れたようにヘンリーに言われ、ルークはますます深く頭を下げる。
「すみません先輩!これは言い訳なんですが、それどころじゃなかったといいますか……。」
「恋愛脳の癖にホワイトデー忘れるとか、何考えてんだよ?」
ルークなら数日前からブレア以上に悩むか、ブレアに貰えるかどうか考えていそうだと思っていたが、全くそんな様子はなかった。
珍しいなと思っていたが、まさか忘れていたとは。
「本当に申し訳ありませんでした!何か欲しいものありますか?今すぐ……あ、財布持ってきてないので明日以降!高いものでも1か月待ってもらえればなんとかします!」
「じゃあ気になる魔法あるから実験体になって。」
「喜んで何でもかけられます!何十個でも、どれだけ危険なものでも!」
焦っているのか申し訳なく思っているのか、ルークは更に深々と頭を下げる。
この間まで「試させて。」と少し濁していたのに、もうストレートに実験体にするつもりのようだ。
「やった。」
「そんなことでいいんですか!?先輩からバレンタインを頂いたのにも関わらず忘れて嫉妬してた大馬鹿者ですが!」
素直に嬉しそうにしているブレアに、ルークは少し顔を上げて聞く。
誰もそこまで責めていないのだが、ルークにとっては大罪だったようだ。
「んで、なんでホワイトデー忘れてたんだ?」
一生頭を下げ続けそうな勢いのルークに、アーロンは呆れたように聞く。
それどころじゃなかった、と言うが、何があったのだろうか。
「だって……明日、先輩の誕生日じゃないですか。それで、何を贈ればいいのか考えていまして……。」
「あー、うん、確かにそうだね。」
ルークが少し小さな声で言うと、ブレアは思い出したように頷いた。
別に忘れていたわけではないが、ルークに指摘されるとは思っていなかった。
そもそも、ルークに誕生日を教えていない。
「そっちに気を取られて、ホワイトデーのことなんてすっかり忘れてたんですよ……。すみません!」
「2つのこと同時に考えらんねえの?」
しゅんとしているルークに、アーロンは呆れたように言う。
「別にお返しに興味はないし。君がそれだけ真剣に考えてくれてたって考えたら、悪い気はしないかな。」
自分以上に悩んでいたと考えると、気分がいいようだ。
薄く微笑んだブレアは、さり気なくルークの手を握った。
「じゃあ、明日君が何してくれるのか、期待してようかな。」
「……いえ、センスないのであんまり期待しないでください……。」
一気に顔を赤くしたルークは、萎れるように俯く。
ブレアに握られていない方の手で顔を覆って隠してしまった。
「やっぱコイツ、変に頑張らんでも素でこうだよな……。」
「何の話?」
何だか遠い目をしているアーロンに、ヘンリーは不思議そうに首を傾げた。
~~~~
あとがきです。
ホワイトデー特別編は以上になります!
1日お付き合いくださりありがとうございました!
しかしですね、本編はまだ2月です、すみません。
全話とはかなり時間が開いておりますので、実はびっくりな変化を書いてたりするんですけど……ネタバレにならない程度に……(笑)
ブレアの誕生日のお話は本編でやろうかなと思っております。
先になると思いますが、今日はブレアの誕生日だ!って話になったら、「あ、本編も3月15日になったんだなー。」て思ってくだされば嬉しいです。
その時に今話を見返していただくのもいいかもしれません……!
と、いうわけで明日の更新はありません!次回更新は日曜日予定です。
明日は本当にブレアの誕生日なので、もしよければお祝いしてあげてください!
以上です、蛇足失礼しました!
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