ホワイトデー特別編2 いつも通りやってりゃ可愛いと思うけどな
逃げるような形でルークと別れたブレアは、階段を下りた辺りでようやく手を離した。
「お前さぁ、嘘下手になった?」
「元々僕は嘘吐くの上手くないよ。嘘は嫌いだからね。」
呆れたように顔を顰めたアーロンに、ブレアは涼しい顔で返す。
「気の利いたことは言えないにしても、真顔で答えるとかできてただろ?さっきのお前、明らか怪しかったぞ。」
「仕方ないじゃないか。」
自分でも怪しかった自覚はあるが、ブレアは既に開き直っている。
ルークにバレぬよう早く出たというのに遭遇してしまい、かなり焦った。
「今頃ルーク泣いてんじゃねぇの?浮気だなんだって。」
「有り得るね。僕そんなに信用ないかなあ。」
納得いかなそうに首を傾げるブレアに、アーロンは「どうだろうな。」と曖昧に相槌を打つ。
ブレアが誰かを好きになることなんてないだろう、と考えれば絶対浮気しないと思える。
しかし最近、クラスメイト等への当たりが柔らかくなったのも事実だ。
ブレアが出かけることなど滅多にないだろうし、デートだと思われても仕方がないかもしれない。
「まあ、それくらい僕のこと好きってことならいいかなって思ったり。」
「スゲー勝手だな……。」
そう?とブレアが肩を竦めると、アーロンは小さく息を吐いた。
そのまま校舎を出て、校門前に着く。
アーロンは一度足を止めると、ブレアの方をみた。
「んで、どこ行くんだっけ?」
ブレアも足を止めると、顎に指を添えて考える素振りを見せた。
「何買うか決めてないから、よさそうなお店を適当に、かな。いいとこ知ってたら教えて。」
「りょーかい。んじゃあまずは……とりあえずアクセでも見るか?」
ブレアが小さく頷くと、アーロンは再び歩き出す。
ついてきたブレアは、ぴったり横に並んだ。
「ねえ、デートってどうやってするの?」
「どうやってって……別に決まってねえが、テキトーにいちゃついてりゃいいんじゃね?」
何を思ったのか、ブレアが特に変わらぬ表情で聞いてきた。
ルークとのことでも言っているのだろうかと、アーロンは簡単に答える。
「そうなんだ。――こんな感じ?」
ブレアは小さく微笑むと、突然、きゅっとアーロンの手を握った。
「馬っっ鹿何やってんだよお前ぇ!?」
「あれ、こっちの方がいいんだっけ?」
びくりとアーロンの肩が跳ねたのも気にせずに、ブレアは手の握り方を変える。
一度力を緩めると、指を絡めるように握り直した。
「恋人繋ぎすんなやめろっ!」
「誰も見てないんだからいいじゃないか。顔赤くない?大丈夫?」
手を振りほどいたアーロンを見て、ブレアは小さく首を傾げた。
「してぇならルークにやってやれよ……。」
「うん。だから、練習。」
にこりと笑ったブレアは、今度はアーロンの腕に抱き着いた。
アーロンは離れるのを諦めたのか、大きく溜息を吐く。
「……オレでやんじゃねぇ……。」
「リアムは何も言わないし、こんなこと聞けるの君くらいなんだって。感想は?」
ぎゅっと更に強く抱き着いてきたブレアを、アーロンは冷めた目で数秒見る。
真顔で見上げてくるブレアから逃げるように、そっと目を逸らした。
「……全然胸感じねぇのスゲーってオモイマシタ。」
「ん、何。死にたいの?」
ブレアが不満そうに言うと、アーロンは「冗談だって!」と慌てて訂正した。
そもそも何と言うのが正解なのだろう。
「どう?ドキドキするかな。デートってこれでいい?」
「まずお前何を目指してんの?」
何故かそわそわしているブレアに、アーロンは一度理由を聞く。
何がしたいのかわからないまま感想を求められても困る。
「……言わなくてもわかって。」
アーロンから離れたブレアは半ば八つ当たり気味に言った。
気まずそうに目を逸らすブレアの頬が、赤く染まっている。
「はー?マジか。へぇ、成程なー?」
ニヤニヤと笑ったアーロンは、記録用魔道具を取り出してブレアを撮る。
即座にブレアが手で隠すと、アーロンは素直に魔道具を仕舞った。
「……で、どうすればいいわけ?」
「どうすればいいわけって……ドキドキさせてえなら不意打ちでやりゃいんじゃねえの?」
いまいち何がしたいのかわからず、適当に答える。
ブレアは不意打ち、がわからなかったようで、小さく首を傾げた。
「別に彼を殺したいわけじゃないんだけど……。」
「物騒だな!?手ぇ握るにしろ抱き着くにしろ、アイツなら驚かせてやった方がきゅんとくるんじゃねえのってことだよ。」
ふーん、と短く言ったブレアは、諦めたのかふっと息を吐いた。
「難しいね?」
「……お前は何も考えなくても、いつも通りやってりゃ可愛いと思うけどな。」
何でもないようにアーロンが呟くと、ブレアは驚いたように少し目を丸くした。
ブレアの反応で自分の発言に気が付いたのか、アーロンはさっと顔を隠す。
「あれ、今僕のこと可愛いって言った?」
「違ぇよ!?ルークなら!ルークならお前はいつも通りで可愛いって言うんじゃねえのって話だ!」
慌てて否定するアーロンを見て、ブレアは楽しそうに薄く笑った。
そんなに強く否定すると、余計に怪しい。
「そうやって女の子口説いてるんだね?」
「誰がお前なんか口説くかよ!?今のは間違えたっつーか、完全に素……それはそれでキモいな!?」
自分自身に呆れたのか、アーロンは額に手を当てて溜息を吐いた。
くすくすと笑ってるブレアを横目で見て、諦めたように苦笑した。
「んーいや、まあ、可愛くなったんじゃねえの?魔法のことしか考えてなかったお前よりかは断然。」
「ありがとう、でいいのかな?」
「いんじゃねーの?」
アーロンが投げやりに答えると、ブレアは機嫌よく笑った。
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