ホワイトデー特別編1 気づいたら当日で慌ててるとか、そういう?
バタバタ……と騒がしい足音が廊下から聞こえる。
ルークだろうなと思っていると、案の定ルークが教室に入って来た。
「あれ、どうしたの?忘れ物?」
いつもすぐにブレアの元へ飛んでいくルークだが、教室に戻って来たのは初めてだ。
不思議そうにしているヘンリーの前まで来たルークは、力強く肩を掴んだ。
「――出かけるからついて来てくれっ!」
「……うん?どうしたの?」
大きな声で言われたヘンリーは、そっと手を退けながら聞き直す。
どこに行くにしても、ヘンリーよりブレアと行きたいだろうに。
「頼む!一生のお願いだ!」
「えぇぇ?」
顔の前で手を合わせてくるルークに、ヘンリーは困ったような顔をした。
ヘンリーに頼むということは、ブレアに関係のない用事なのだろうか。
それでも「出かけてる暇があるなら先輩と話します!」などと言いそうだが。
「頼む!ついて来てくれ!できれば急ぎたいから早く!」
「わかった、わかったから何するか教えてくれない?」
ルークを落ち着かせようと、ひとまず返事をする。
何をするのかわからないのにお願いは無理があるだろう。
「やった、ありがとう!行くぞ!」
「ちょっと待って!?」
ヘンリーの返事を聞くなり、ルークはヘンリーの腕を掴んで走り出した。
内容を聞いてから行くつもりだったのに、問答無用で連れていかれるらしい。
鞄を教室に置いてきてしまったのだが、後で取りにいけということか。
「買い物?気づいたら当日で慌ててるとか、そういう?」
「違うぞ?買い物ならこんなに慌ててない!」
それもそうだ。
時間がないにしても、ここまで走る必要はない。
かといってここまで急ぐ用事は何だ、と考えても何も思いつかない。
「じゃあどうしたの?そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
足を止めないまま振り返ったルークは、切羽詰まったような、大きな声で答えた。
「尾行!浮気調査!」
「浮気?ユーリー先輩が?」
また何かの勘違いだろう、とヘンリーは軽く考えている。
似たようなことは何度も言っているが、ここまで焦っているのは初めてな気がする。
「俺と特訓する時しか校外に出ない先輩が、男と2人で街!これは完全に浮気だろ!?」
絶対そういうヤツだ、先輩が出かけるとはありえない、俺というものがいながら!と、ルークは大層不満そうだ。
普段なら欲しいものがあれば、リアムにねだるかルークに使いを頼んでいる。
なのにわざわざ自分で、しかもルークではない人を誘って行くなんて――デートに違いない。
「それで、ユーリー先輩達を尾行するんだね?」
「そう!」
全て理解したヘンリーは、しばし考えた後、困ったように眉を下げた。
「……それ、オレいる?」
尾行なら1人でもできるではないか。
なんなら1人の方がやりやすいのではないだろうか。
「いるに決まってるだろ!」
きっぱりと断言するルークに、「何で?」と聞いてみる。
嫉妬に狂ってお相手を殴りかねないルークを止める係だろうか。
「一応聞くけど、何で?」
「そりゃあ、それはそのデート相手が――」
嫌な予感がした。というより、オチが見えた、の方が正しいかもしれない。
絶対それはないだろう、と思いもしたが、案の定。
「アーロン先輩だからだよ!」
「……マジで?」
トラブルの元が兄だった。
相手がアーロンなら、浮気ではないとルークでもわかるはずだが、何故こんなに焦っているのか。
「1回詳しく教えてくれる?」
「いいぞ?俺が先輩を迎えに行った時、廊下でお2人に会って――」
街に出る前に話終えるためか、ルークは少し早口に語り始めた。
ブレアとアーロンは、丁度2人で廊下に出たところらしかった。
2人が教室で待ってないなんて珍しいなと思いながら、ルークは声をかけた。
『先輩ー!どこか行かれるんですか?』
『あ……う、うん、ちょっと買い物しないと、いけなくて……。』
ブレアは小さな声で答えながら、気まずそうにルークから目を逸らす。
買い物に行くことは、そんなに言い辛いことだろうか。
『アーロン先輩もですか?』
『そう、僕1人じゃ不安だから、ついて来てもらうの。』
ブレアが言い辛そうに言うと、アーロンが『つーわけらしい。』と短く肯定した。
ルークではなくアーロンに頼むのか、と、少しもやっとしてしまう。
『不安なら俺が行きますよ?先輩と一緒だと嬉しいですし、勿論お遣いでも!』
少し移動してブレアと目を合わせると、ブレアはばっと顔を背けた。
『気持ちは嬉しいんだけど、ごめん。君はダメなんだ。』
『何でですか!?』
かなりショックを受けながらルークが聞くと、俯いたブレアは微かに頬を染めた。
『えぇと……か、彼にしか頼めない用事なの。僕、急いでるから、じゃあね!』
焦ったように早口で告げたブレアは、アーロンの袖を掴むと早足で行ってしまった。
……振られた。ルークでは駄目で、アーロンでないと駄目なのか。
一体どんな用事だ、と考えると、勿論思い当たるのは――
『――絶対デートじゃないですかぁ!!』
「――と、いうわけなんだ。ヤバいだろ!?尾行しないと!」
「いや……それ多分、というか絶対デートじゃないよ?」
校門を出たところで話が終わり、ヘンリーは即座に否定する。
ブレアがアーロンとそういう関係になるわけがないのは、言うまでもないではない。
「逆にデート以外に何がある!?」
「何でもあるじゃん。ルークくんだってこの間エマ先輩と同じことして――」
「あ、先輩達いた!!」
前方に2人の姿を発見して、ルークはヘンリーを押して近くの店の影に隠れた。
真剣な表情で、顔だけを出して様子を伺っている。
傍から見ればものすごく怪しいのだが、全然気になっていないようだ。
もうヘンリーの話も聞いてくれないだろう。
(仕方ないから付き合ってあげるかぁ……。)
それでルークが納得できるのなら、いいか。
ようやくヘンリーがついていく覚悟を決めると、「あぁっ!?」とルークが大きな声を出した。
「どうしたのー?叫んだらユーリー先輩にバレるよ?」
驚いたヘンリーが聞くと、ルークは悲しそうな顔でこちらを向いた。
悲しそう、というか、最早泣きそうだ。
「……お2人が手繋いでる……っ!」
「え、マジで言ってる!?」
ヘンリーもルークと同じように覗くと、どうやら本当のようだ。
所謂恋人繋ぎというやつで、後ろ姿だけだと完全に恋人に見える。
「マジじゃん……え、うわぁ、兄貴最低……。」
流石に、こんなにルークが好いているのをわかっているのに、手を出したりはしないだろう。
という兄への信頼が、一瞬で崩れ去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます