第128話 俺はその100倍くらい先輩のこと大好きですけどね!
放課後、ルークはブレアを迎えに来たのだが――
「ごめん、先に帰っててくれる?」
と、ブレアにあっさり断られてしまった。
「何でですか!?」
今日はリアムのところにも行かず、予定も特になかったはずなのに。
かなり悲しそうにルークが聞くと、ブレアは困ったように眉を下げた。
「あの子が図書室行きたいんだって。仕方ないから、ついていってあげようかなって。」
「無理に行かなくてもいいんじゃないですか?」
ルークが聞くと、ブレアは「行ってほしくないだけでしょ。」と苦笑した。
確かにそうなのだが、ブレアは図書室に用なんてないではないか。
「無理はしてないからいいよ。用事があるわけじゃないし、リアムの頼みだからね……。」
「でも先輩、頭痛治ってないんじゃないですか?」
小さく溜息を吐くブレアに、ルークは少し遠慮がちに言う。
ブレアは驚いたように、少しだけ目を見開いた。
「わかったんだ?」
「わかりますよ、四六時中先輩のこと見てるので!」
もう出会ってから半年が経とうとしている。同室になってからも、かなり日が経った。
ブレアのことなら、少しの変化でもわかるようになってきた。
感心したようにルークを見ていたブレアは、「キモい。」と短く行って苦笑する。
「まあ、ちょっと痛いだけだから大丈夫だよ。これくらいならたまにあるんじゃないってレベル。」
「ならいいんですけど……。」
行ってほしくない、という気持ち以上に心配だったルークは、ほっとしたように息を吐いた。
少しの痛みでも続くようなら大変だが、ひとまずは大丈夫だろう。
「じゃあ、行ってくるから先帰っててね。」
「ま、待ってください!」
ルークの横を通り過ぎようとしたブレアは、不思議そうに「何?」と聞いた。
ブレアを引き留めたルークは、少し迷ったように目を逸らしてから――真っ直ぐにブレアの方を見る。
「俺も、行ってもいいですか。」
「……いいけど。」
何故か真剣な顔で言うルークに、ブレアはよくわからないまま答えた。
……そんなに勉強したいのだろうか。
「ありがとうございます!」
「うん。じゃあ行こ。」
ブレアが今度こそルークを通り過ぎると、ルークは少し嬉しそうについてくる。
「……何か張り切ってるね……?」
「はい!」
エリカがブレアのことを好いているのは、確定とみなしていいだろう。
となるとルークは着いていかなければいけない。
(先輩に変なことしてたら止めないと……!)
腕を組まれたり、手を握られたりしても何も言わなかったのをみるに、おそらくブレアは何も言わない。
よくない。非常によくない。心配だし、個人的に嫌だ。
ならば、ルークがブレアの代わりに止めるまでだ。
「そんなに魔導書に興味あったっけ。読みたいなら、僕が気に入ってるの教えるよ?」
「いいんですか!?是非!」
魔導書が読みたくて張り切っていたわけではないのだが、ブレアはそう解釈したようだ。
読みたかったわけではないが、ブレアのおすすめなら読みたい。
「わかった。もっとはやく言ってくれてもよかったのに。」
「言いましたよ最初に!」
出会ったばかりの時に魔導書の話を振ったことがあるのだが、ブレアは当然忘れたのだろう。
あの時は冷たい顔で無視した癖に、今は真逆のことを言っている。
「そうだっけ?」
「そうですよ!思い出すと、先輩と確かな関係が築けているのを感じます……!」
「微妙に気持ち悪いんだよなぁ……。」
うっとりとしたように言うルークに、ブレアは呆れたように眉を下げた。
嬉しくなったルークが笑うと、ブレアは困ったように首を傾げる。
「図書室行くの初めてなんですよねー!広いんですか?」
放課後や休み時間はずっとブレアのところに行っていたため、図書室は使ったことがなかった。
ブレアが行っているのもみたことがないが、入学したばかりの頃なら、行っていたりしたのだろうか。
「うーん、かなり広い方なんじゃないかな?でも自習スペースも多いから、冊数は先生の家の書斎とあんまり変わらないかも。」
「それはリアム先生の家がすごすぎるんじゃないですか?」
顎に指を添えて考えたブレアに、ルークは目を丸くする。
確かにリアムはよくブレアに本を貸している。
何冊持っているんだろうとは思っていたが、想像を超えていた。
「そうかも。殆ど魔導書だから居心地よくて、一日中僕が使ってたなあ。部屋と書斎の行き来しか動いてなかった気がする。」
「今とあんまり変わらないんですね……。先生に怒られなかったんですか?」
ルークは興味深々といった様子だ。出会う前のブレアのことなど、気になりすぎる。
今もそんな感じだが、学校に行けとか、食事を摂れとか言われなかったのだろうか。
「『食事の場くらい顔を出してほしい』とは言われたけど、怒られはしなかったかな。僕が行かなかったら持ってきてくれて、結局そこで2人で食べてた。」
「食べてはいて安心しました……。」
もしかしたらその時から食べてなかったんではないかと思っていたルークは、ほっとしたように息を吐いた。
流石に食べる。でないとリアムが怒る。
「書斎に行くようになるまでは部屋に籠ってたし、ご飯も食べなかったから、先生も安心しただろうね。……先生は家族と一緒に食べなくてよかったのかな。」
書斎に行くように勧めてきたのもリアムだと思えば、ブレアの行動はリアムの思惑通り、と言えるだろう。
結果は少し極端すぎるかもしれないが、ああしていなければ魔法への興味すら薄れていたかもしれない。
「リアム先生はよくはなかったと思いますけど……それくらい先輩のことが大好きだったんじゃないですか?」
ルークだってそうする。ブレアが大好きで、誰よりブレアと一緒にいたいからだ。
ブレアは少し丸くした目でルークの方を見た。
じっとルークのことを見て、目を細めて柔らかく微笑む。
「……そうだね。」
「俺はその100倍くらい先輩のこと大好きですけどね!」
ルークがここぞとばかりに言うと、ブレアは呆れたように「そうだね?」と答えた。
リアムの何倍かは知らないが、否定はしない。
リアムはそれくらい、ブレアを好いていてくれたというのに、あの時の自分は――
「……こんな話してたら、あの子と初めて会った時のこと思い出したよ。」
「どんな感じだったんですか!?俺より印象強かったですか?」
何気なく言うと、ルークが何故か切羽詰まったような顔で問い詰めてきた。
ルークより印象が強ければ、流石に忘れないと思う。
いや、そういえばルークのことも1度は忘れたのだった。
「普通かな。特に特筆することはないよ。……強いていうなら、変なことを聞いてくる子だな、って思ったかも。」
「何聞かれたんですか?彼氏いますかとかですか!?」
妙に食いついてくるルークだが、そんなにエリカのことが気になるのだろうか。
細かく覚えているわけでもないし、特段面白い話ではない。
それに――ブレアの答えをルークに知られるのは、少し困る。
「うーん……秘密。」
「ええー、気になるじゃないですか!?」
もう一度内緒、と返すと、ブレアは前方を指さした。
少し先の教室、プレートに書かれているのは“図書室”という文字。
そしてそのすぐ近くに、エリカが待っていた。
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