第127話 私、魔法は結構好きでして
翌日の昼休みも、エリカはは3ーSの教室にやってきた。
ブレアとルークが昼食を食べているところに、迷いなく近づいてくる。
「ブレアくーん!ご一緒してもよろしいですか?」
にこっと笑いかけられ、ブレアは魔導書に向けていた目線を上げた。
「えー……まあ、いいけど……。」
「いいんですか!?」
エリカが礼を言うよりも早く、ルークが大きな声で反応する。
絶対嫌がると思っていた。
ブレアは少し考えてから、小さく頷いた。
「うん、別にいいよ。」
「ありがとうございますっ!」
エリカは嬉しそうにブレアの隣に座るが、ルークはまだ不満そうだ。
ブレアの顔が少し嫌そうに見えるのは、ルークの思い違いなのだろうか。
「ブレアくん、聞いてくださいな。先程授業でお義兄様が――」
“お義兄様”とはリアムのことだろうか。
適当に相槌を打っているブレアは、楽しそう――でこそないが、ルークとしては妬ける。
ルークがこんな風に話して貰えるようになるまで、どれだけかかったか。
全然拒まないし、名前も憶えているようだった。
何年も関わりがあるなら当然かもしれないが、リリカの名前は半分しか覚えていなかったではないか。
「――ブレアくんは、もう食べてしまったのですか?」
ブレアがお弁当を置いていないことに気づいて、エリカは不思議そうに聞く。
首を横に振ったブレアは、ルークの前に置かれた2つのうちの片方を指さした。
「これ。今食べてる。」
「どうしてそんなところに……?」
てっきりルークのお弁当だと思っていたエリカは戸惑っている。
ルークはちょっと自慢のつもりで、中身をブレアの口に運んだ。
ブレアがごく自然にそれを食べると、エリカは「えっ!?」と少し大きな声を出した。
「な、何を……お、お2人は、いつもそうしていますの?」
「うん。僕が食べないから。」
当然のようにブレアが肯定すると、エリカの表情が少し険しくなる。
隠すように笑みを深めたエリカは、ぐいとブレアとの距離を詰めた。
「ブレアくん、まさかその方とお付き合いしている――なんてことは、ありませんよね?」
「断じてないね。」
あっさりとブレアが否定すると、エリカは安堵の息を漏らした。
否定されたことは悲しいが、ルークにはそれ以上に確信したことがある。
(……この人、絶っ対先輩のこと好きだ……!)
好きだ。絶対ブレアのことが好きだ。
でなければあんなこと聞かない。
でなければそんな怖い目でルークを見ない。
きっとずっと前、それこそブレアに出会ってすぐくらいから、好きなのだろう。
「私も食べさせましょうか?」
「遠慮しておくよ。」
「遠慮なさらないでください!」
ルークも人のことは言えないかもしれないが、ぐいぐい行くなーと思った。
いないもののように扱われている気がする。
ブレアに食べさせることを諦めたエリカは、何気なく魔導書に目を向ける。
開かれていたページをじっと見つめて、あ、と声を出した。
「それ、私も読みました!その5ページ程後に載ってる魔法が、面白いと思いましたわ。」
「そうなんだ。」
ブレアはパラパラと5ページ捲り、エリカに言われたページを見る。
ざっと目を通すと、少し驚いたようにエリカを見た。
「確かにわりと珍しいタイプの魔法だけど……わかるんだ。」
「勿論です!私、魔法は結構好きでして。」
得意げにエリカが答えると、ブレアの表情が少し柔らかくなった。
「こっちの魔法も気になりません?」
「それは僕も思った。今度試してみたいなって。」
別のページを開いて話しているブレアは、ちょっと楽しそうだ。
嫌そうな顔をしていないし、さり気なくエリカに手を握られていることも気にならないらしい。
(あれ……俺、勝ち目ない……?)
ルークには魔法の話など、さっぱりわからない。
入りたくても会話に混ざれず、ルークは寂しそうな顔をした。
昼食を食べ終えたルークは、一旦2人のことを置いておいて席を立つ。
置いておきたくないのは山々だが、いても完全に空気なので仕方ない。
そしてルークがどこへ行き、何をするのかといえば。
「……アーロン先輩、エリカ先輩とはどういったご関係なんですか?」
情報収集|(?)だ。
アーロンはエリカと仲が良――いのかはわからないが、少なくとも知り合いではあるようだった。
どんな関係なのかも気になり、聞いてみる。
「あー……それ聞く?」
「聞きます。」
気まずそうに顔を顰めたアーロンに、ルークは真剣な顔で頷く。
この間も2人で何か話していたようだが、何の話をしていたのか気になる。
「言いたくねぇんだが……。」
できれば回避したいようで、アーロンは渋るように目を逸らす。
パックの飲料を飲んでいたヘンリーは、じっとアーロンを見て考えているようだ。
兄が言い辛いと感じる関係と言えば――
「……元カノ?」
「違ぇよ!!アイツはねえ、絶対嫌。」
ヘンリーが首を傾げると、アーロンは裏返った声で否定した。
絶対当たりだと思ったのに違った。
「じゃあ何なの?」
となると何も思いつかず、お手上げとばかりに聞く。
気まずそうな顔をしていたアーロンは、観念したように口を開いた。
「……オレが何でユーリーの写真撮ってたか覚えてっか?」
「売ってるとか言ってなかった?最低。」
ヘンリーが冷めた目を向けると、アーロンは「煩ぇ。」と不満そうに返す。
自分でもヤバいことしてるなと思ったことがないわけではないが、やりたくてやっているわけではないのだから仕方ない。
「その相手がエリカ先輩なんだよ。そもそもオレがんなことしてんのも、あの人に頼まれた……というか脅されたからだ!」
小声で言ったアーロンは、「好きでやってねえからな!?」と強めに否定する。
「何がどうやってそうなったの……?」
遠い目をしているアーロンに、ヘンリーは呆れたように聞いた。
エリカとブレアの方に目を向ければ、写真を欲しがっている理由はわかった。
異様に距離が近い。ルークと同じ感じなのだろう。
「最初ユーリーと同室だったからだろ。アイツすぐぶっ倒れるから、その後もわりと絡んでたし――んで、恨み買ったわけだ。」
1年の時のことを思い出したアーロンは、はあっと溜息を吐いた。
突然恐ろしいほど険しい顔をしたエリカに声を掛けられた時は、本当に驚いた。
「マジでああいうタイプの女は危ねぇ。沸点わかんねえから関わらん方がいいんだが……まあお前は無理だよな?」
「無理ですね!」
心配そうに聞かれるが、ルークは迷いなく答える。
どうしようもないほどブレアが好きなのだ。
今更エリカがいるから、なんて理由で諦められない。
「じゃあもう夜道には気をつけろよとしか……。」
「そんなにヤバい人なの!?」
「流石に冗談だがやりかねん。」
ドン引きしているヘンリーに、アーロンは困ったような顔で返す。
ルークの方を見たヘンリーは、ゆっくりと首を傾げる。
「ユーリー先輩って、よく変な人に好かれるんだねー?」
「俺のこと言ってる!?」
何で!?とでも言いたそうなルークに、ヘンリーは当然のように頷いた。
エリカはどれほどなのかわからないが、ルークは完全に変な人だ。
「とにかく、ユーリーとの距離感とか、気ぃつけた方がいいんじゃね?」
「わかりました……?」
眉を寄せて言うアーロンに、ルークは素直に返事をする。
どう気を付ければいいのかは、全くわかっていないのだが。
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