2月22日特別編3 じゃあ、撫でてくれないの?
部屋に戻ってきた――というよりルークによって半強制的に戻されたブレアは、部屋に入るなりベッドに寝転んだ。
強化魔法はいまいち効かないし、撫でられると変な感覚がしたし……とにかく疲れた。
「……ほら、早く戻して。」
ブレアがルークの方に目を向けると、ルークは気まずそうに目を逸らした。
戻してよ、とブレアは不満そうに眉を寄せる。
「そのことなんですけど、その……も、戻したくないなあなんて、あはは……。」
「にゃあ?意味わかんにゃいんだけど。」
申し訳なさそうに言うと、ブレアはますます嫌な顔をした。
は?と言いたかったのだろうが、にゃあ?になっていて可愛い。
「先輩が戻りたいのは重々承知してるんですけど、あまりにも可愛すぎると言いますか、もうちょっとだけ堪能したいと言いますか……だから――」
迷うように視線を彷徨わせていたルークは、意を決したように大声を出した。
「満足するまで戻したくないですっ!!」
「にゃあぁ!?絶対いつまでも満足しにゃいパターンにゃんそれ!嫌だ、ダメ、戻して!」
勢いよく起き上がったブレアが訴えるようにルークを見た。
怖い。一生戻れない気すらする。
「いつかはしますよ!?流石に月曜には戻します!」
「
間近にきたブレアはルークの腕を掴んで、キツく睨んでくる。
顔近い、可愛い……などと言える雰囲気ではないが。
ルークだってブレアを悲しませたいわけではない。
が、すぐに戻してしまうのはちょっと惜しい。
本当に嫌がられたら戻すつもりだが、ダメ元で言ってみた。
やっぱり嫌なら戻すかな、と思っていると、ブレアがそっと目を逸らした。
「……
「え……何って撫で――駄目ですすぐ戻しますね!?」
何だか本気で脅したみたいになってしまい、ルークは慌てて術式を唱えようとする。
と、ブレアが掴んでいたルークの手を移動させ――頭の上に乗せた。
手のひらに髪が、指先にふわふわした猫耳が触れ、ルークは固まった。
可愛い、何で、可愛い、無理してないだろうか、可愛い、と何度も同じ思考がぐるぐると回る。
その結果――
「――大好きですっ!!」
ようやく出た言葉がこれだった。
自分でも意味がわからないが、混乱してこうなった。
そんなこととうに知っている、とでも言いたそうなブレアは、少し頬を赤くして首を傾げた。
「……もう、満足しちゃったってこと?」
「え?っと、撫でてもいいなら撫でたいですけど……先輩が嫌なら全然戻します!」
焦って早口で答えると、さっきと真逆のことを言ってしまった。
ブレアは小さく首を横に振ると、ルークの手を頬に移動させ――そっと頬擦りした。
「――っ!?!?」
「……君は、もう僕の助手じゃにゃいわけだし……
可愛い!!と叫びそうになって、感情が爆発しすぎて叫び声さえでなかった。
ね?と首を傾げたブレアを見て、ルークは顔を背ける。可愛すぎて直視できない。
「そんなこと考えなくていいんですよ?俺は先輩に喜んでもらいたくて魔法練習したわけですし。」
「それでも気ににゃるの。そもそも満足したいって言ったの君でしょ?」
「冗談というか、ちょっと言ってみただけなんですよ……。」
申し訳なさそうにルークが答えると、ブレアは「ふーん。」と短く返事をした。
「じゃあ、
「撫でます。」
どっち。と呆れたように顔を顰めつつ、ブレアはルークの手を離した。
自由にしていいよ、という意味で受け取っていいのだろうか。
「失礼します……。」
「ん。」
一言断ってから、そっとブレアの頭に触れる。
柔らかい耳の付け根に触れると、ぴくりと動いた。
本当にいいのかな、と思いながら、ゆっくりと手を動かしてみる。
「みゃ……。」
小さく鳴き声(?)を漏らしたブレアは、きゅっと唇を引き結んだ。
声を出さないようにしているのだろうが、我慢されるとよくないことをしている気分になるのでやめてほしい。
近い、可愛い、猫耳、撫でてる。
でただでさえドキドキするのに、非常に危ない。
「触り心地もリアルですね……!」
目を輝かせて言うと、ブレアは気持ちよさそうに目を閉じた。
尻尾が機嫌よくゆっくりと動いている。
暫く無言で撫でていると、リアムにしていたように頬擦りをしてきた。可愛い。
「にゃん……。」と甘えるような声が漏れて、ごろごろと喉が鳴り始める。
「……猫ってリラックスしたらごろごろ言うんでしたっけ?」
リアムにはよく撫でられているが、ルークが撫でても気持ちいいと思ってくれているのだろうか。
そう考るとちょっと嬉しくなり、試すように聞いてみた。
「にゃっ!」
ハッとしたように目を丸くしたブレアの顔が、どんどん赤くなっていく。
「…………ストレスでも
「今のはストレスの鳴り方じゃなかったんじゃないですか?」
嬉しそうにルークが聞くと、ブレアはぷいと顔を逸らした。
ルークに甘えたことか、年下に甘えたことが恥ずかしかったのだろうか。
「ストレス!ストレスにゃ!」
「ストレスなんですか!?」
あんなに気持ちよさそうだったのに!?とルークはショックを受けている。
大きな声で言ったブレアは、立ち上がってルークに背を向けた。
ピンと立った尻尾が小さく揺れている。
「ストレスだよ、うん、絶対。」
過剰なまでに否定してくるが、そんなに嫌だったのだろうか。
そんなことより尻尾が気になる。
猫に詳しかったら、どういう心理かわかったりするのだろうが。
などと思いながら、ルークはそっと尻尾を掴むように撫でてみた。
「み゛ゃあ゛ぁ゛っ!?」
びゃっと肩を跳ね上げたブレアは、振り返ってルークを抗議するように見た。
顔が更に真っ赤になっていて、引き結んだ唇を小さく震わせている。
ゾクッとした。ぞわっとかもしれない。
初めに耳に触れた時の何倍も変な感覚。嫌悪感しかない。
驚いて見上げてくるルークに近寄り、ブレアは力強く言った。
「早く戻して。」
「すみません!」
低い声で言われたルークは、早口に術式を唱え始める。
可愛かったから少し残念だが、完全に怒らせてしまった。
解除したら、滅茶苦茶謝ろう、と思った。
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