2月22日特別編2 ……話し方まで拘ってるんですね?

 それからちゃんと着替え、仕方がないので軽く昼食を摂った。

 ブレアからすればそんな場合じゃないのだが、「そんなこと言ってたら絶対食べないじゃないですか!」と言われてしまった。


 食べ終えてすぐにリアムの部屋に来たのだが、強化魔法がいまいちかかりきっていないようで、かなり疲れる。

 コンコンコンとドアをノックして、反応を待つ。

 1分もしないうちにドアが開き、リアムが顔を出した。


「ブレア?どうしたんで――本当にどうしたんですか!?」


「どうしたと思う?」


 要件を聞こうとしたリアムは、ブレアの姿を見て驚いている。

 目を丸くしているリアムに、ブレアは不満そうに聞き返した。

 リアムは迷いなくルークの方を向く。


「うちの義妹に変なことさせないでください。」


「俺じゃないですよ!何だと思ってるんですか!?」


 ルークにそんな高度な魔法が使えないことは、リアムだってよくわかっているはずだ。

 少し考える素振りを見せたが、わからなかったのか首を傾げた。


「……コスプレ?」


「そんにゃわけにゃいでしょ!?」


 ムッとして反論したブレアに、リアムはますます不思議そうに首を傾げた。

 不思議そうだが、顔はすごく笑っている。


「……話し方まで拘ってるんですね?」


「だから違うって!」


 クスリと笑っているリアムを、ブレアはじーっと睨んだ。

 義妹の意外な――意外すぎる一面を見た。とか思っていそうだ。


「起きたらこうにゃってたの!だから先生が昨日魔法でも使ったのかと思って……。」


「私はそんなことしませんよ。あなたはよくやってましたけどね?」


 冷ややかな目を向けられたブレアは、気まずそうに目を逸らした。

 ルークだから実験台にしているのかと思っていたが、まさかリアムでもやっていたのだろうか。


「先生じゃにゃいにゃら誰……。はやく戻りたいんだけど。」


「戻りたいのなら、ディアスさんに無効化して貰えばいいじゃないですか。」


 リアムが苦笑すると、ブレアははっとしたように目を見開いた。


「にゃ……確かに……!」


「気づいてなかったんですか?」


 リアムは呆れているが、本当に気が付いていなかった。

 焦りすぎて頭が回っていなかったらしい。


「ディアスさんは気が付かなかったんですか?」


「気づいてましたよ?でも言ったら先輩戻っちゃうじゃないですかぁ~!」


 正直に思っていたことを言うと、ブレアに睨まれた。

 気づいてたならすぐに戻してほしかった、といいたいのだろう。


 しかし今のブレアは非常に可愛い。いつも可愛いのは勿論だが、猫耳可愛すぎる。

 先輩ってちょっと猫っぽいよなーと思っていたら本当に猫になった。

 ゆえに、ルークとしては戻したくない。もう少し――欲を言えば今日1日くらいは堪能させてほしい。


「それにしても、どういう魔法なんでしょうね?変わったのは見た目と話し方だけなんですか?」


「多分ね。」


 リアムはブレアの頭に手を近づける。

 触られるのを見越してか、耳がぴくりと動いた。


「動くんですねこれ。触覚もあるんですか?」


「あるっぽいですよ!すごいですよね!」


 ルークが嬉しそうに答えると、リアムはそっと耳の先を突いた。


「にゃぁめて!?」


「すみません、つい?」


 言いたいことと叫びが混ざって、よくわからない声をあげてしまった。

 くすりと笑ったリアムが、今度はそっと耳の付け根を撫でる。


「猫ってこうやって撫でるんでしたっけ。」


「僕は猫じゃにゃいんだけど。」


 不満そうなブレアに謝りつつ、そっと頭を撫でている。


「……リアム先生、何か楽しんでません?」


「楽しいですよ?動物好きなんですよねぇ、勿論ブレアのことも好きですし。」


 ブレアを撫で続けるリアムはかなり楽しそうだ。

 ……ちょっと、いやかなり羨ましい。ルークだって撫でたい。


「みゃ……触らにゃいでよ……。」


 小さな声で拒否したブレアの尻尾が、ゆっくりと大きく動いている。

 「んみゅ。」と声をあげたブレアは、気持ちよさそうに目を細めて頬擦りした。


「言動と行動が合ってませんよ。」


 可愛いですね、とリアムが苦笑すると、ブレアの喉がごろごろと鳴る。

 本当に猫みたいだ。どこまで猫化しているのだろうか。


「他のところも撫でてあげましょうか?」


「うん……。」


 すっと輪郭を撫でると、ブレアが甘えるような声を出した。

 リアムにぴったりとくっついたブレアの、喉が鳴る音が高くなった。

 見ていられなくなったルークは、2人の間に割り込むようにして距離を作った。


「俺を空気にしてイチャつかないでください!」


「……べ、別にそんにゃことしてにゃいからっ!」


 一気に顔を赤くしたブレアは、飛び退くようにリアムとルークから離れた。

 イチャついてなどいない。ただ少し心地よくて、甘えてしまっただけだ。


「すみません。可愛らしくてつい……。尻尾も触ってみたかったのですが。」


 少し残念そうにリアムが言うと、ブレアはぷいとそっぽを向いてしまった。

 可愛らしくて撫でていたのも本当だが、単純にどれくらい魔法が影響しているのか、もう少し確かめたかった。

 眉を下げて謝ったリアムを、ルークは警戒するように見る。


「駄目です!リアム先生が生徒に手出してましたって職員室で叫びますよ?」


「やめてください。そして言い方。」


 新手の脅し(?)をしているルークだが、言い方を考えてほしい。完全に誤解を招きにいっている。


「先輩!俺にも撫でさせてください!!」


「は?絶対嫌にゃ。」


「可゛愛゛ずぎる゛っ!!」


 ぷいとそっぽを向いたブレアの尻尾がピンと立った。

 ツンデレ猫可愛い。とルークは悶えているが、撫でられないことはいいのだろうか。

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