2月22日特別編1 嘘でしょ、どうにゃってるの……

 平日は、毎朝ルークがブレアを起こすのだが、休日はそっとしている。

 流石に正午を回れば起こすが、なるべくゆっくり寝かせてあげようと静かにしているのだ。


 大抵いつも11時過ぎくらいに起床するのだが、今日は起きない日のようだ。


「せんぱーい?起きてください、お昼ですよー?」


 12時を回っても起きなかったので、そっと声をかけてみる。

「んに……ゃぁ。」と唸って、ブレアが少し蠢いた。


「おはようございま――!?」


「んん、おはよ……?」


 身体を起こしたブレアに挨拶をしようとして……ルークは驚いて言葉を止めた。

 ぐっと身体を伸ばしたブレアは、不思議そうな顔でルークを見る。


「……どうかした?」


「先輩可愛……?どうしたんですかそれ?」


 緩んだ口元を隠すように手で覆って、ルークはじっとブレアを見る。

 その視線からは困惑と、それ以上の好機を感じるのだが、ブレアにはまったく心当たりがない。

 むっと怪訝そうに眉を寄せ、ルークのことを見返した。


にゃに?」


「え、喋り方まで可愛い!どうやってるんですか!?」


 キラキラと目を輝かせて聞いてくるルークに、ブレアはますます眉を寄せた。

 何の話だ。ブレアは何もしていない。


「だからにゃんの話してるの。」


「……あれ、自覚ないんですか?」


 ルークはようやく察したようで、困ったように苦笑した。

 それから真っ直ぐブレアの方を、細かく言えば、ブレアの頭の上を指さす。


「可愛い耳みたいなの、生えてます。」


「……え。」


 ブレアは手を頭の上に移動させ、頭頂部から、髪を撫でるように触れる。

 するとなんだか柔らかい、謎の突起があった。


 ふわふわしていて、先に触れると――ゾクッとした。

 気持ちがいいのか悪いのかはさておき、慣れない感覚。触覚がある……?


「……にゃにこれ。待って、喋り方も変じゃにゃい!?」


「可愛いですよ先輩!」


 異常事態なのだが、どうしてルークは嬉しそうなのだ。

 じっとルークを睨んでから、魔法で目の前に鏡を出す。

 少し大きめのそれで、自分の姿を確認した。


「嘘でしょ、どうにゃってるの……。」


 ――耳が、生えていた。

 ルークの言う通り、ふわふわとした三角形の、猫のような耳が。


「え、にゃにこれ!?にゃんか動くし、感覚あるんだけど!」


「ちなみに尻尾も生えてますよ。」


「んにゃっ!?」


 ばっと身体を捻って後ろを向くと、確かに長い、これまた猫のような尻尾が生えていた。

 猫のような声をあげるブレアに、ルークは可愛い!と叫びたい気持ちを必死に堪えている。


「……本当に、どういうこと……?君にゃんかした!?」


「俺は何もしてませんよ!?にゃにも……ふへっ。」


「笑わにゃいで!」


 堪えきれなくなったルークが笑いを漏らすと、ブレアはむっとして怒鳴った。

 混乱すると声が大きくなる先輩、可愛い。とルークは全く関係ないことを考えているのだが。


「本当にしてにゃいの?」


「してませんよ!そもそも俺そんな魔法使えませんし。」


 慌てて否定すると、ブレアは「確かに。」と素直に納得する。

 目を閉じたブレアは、顎に指を添えて原因を考え始めた。


 ブレアの性転換以外で姿を変えられる魔法は稀。そしてかなり難しい。

 ただ耳と尻尾を付け足しただけとはいえ、これも中々高度な魔法だろうと思われる。

 となると、この学園に使える者は殆どいないだろう。尚且つブレアに干渉できる人となると――


「――絶っっ対リアムだ!リアムのとこ行こ!」


 リアムだ。リアムしかいない。100%リアムだ。

 勢いよく立ち上がったブレアは、さっと靴を履く。


「待ってください先輩!」


「どうしたの、はやく行くよ?」


 一刻も早く元に戻りたいブレアが、立ち上がる気のないルークを睨む。

 余程焦っているんだな、と思いながら、ルークは気まずそうに指摘した。


「先輩、すぐ行きたいのはわかるんですけど……とりあえず着替えましょう?」


「あ、あー……忘れてたにゃ……。」


 ブレアは今起きたばかりなので、勿論部屋着だ。

 着崩れたまま治していないため、上着がずれて肩から二の腕が露出している。


 自信の姿を見下ろして少し考えたブレアは、困ったようにルークを見た。


「この姿だと、魔法使い辛いんにゃけど……このままじゃダメかにゃ?」


「駄目に決まってますえっちなんですから!!」


 ブレアとしては全然出歩ける服装だと思うのだが、ルーク基準では駄目らしい。

 ブレアは仕方がなく戻ってきて、ベッドに腰かけた。


 少々疲れるが魔法で着替えるか、慣れないし時間がかかるだろうが普通に着替えるか……。

 ……着替えさせて、と言ったら、流石に怒られるだろうか。

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