バレンタイン特別編2 もしかして妬いてるの〜?
無事に生チョコもマカロンも完成し、デコレーションも終わり、ラッピング作業に移った。
「2人とも、本当にお料理上手よねー!私1人でこれだけ作ろうと思ったら、何時間かかってたことか……。」
量も多いし、マカロンなどエマだけじゃ絶対作れなかった。
デコレーションも可愛くでき、間違いなくこれまでで1番クオリティが高い。
「2時間かかってないくらいで終わりましたね。……オレ的には、ラッピングが1番の課題なんですが。」
苦笑していたヘンリーが、疲れたように溜息を吐いた。
料理は得意だからいいのだが、今から大量に、しかも可愛くラッピングするとなると……中々大変だ。
「手伝いはしましたけど……俺いいところ無しじゃないですか!?」
切羽詰まった様子のルークが大きな声を出すと、ブレアから「煩い。」と苦情が来た。
騒がしくて寝られなかったので、今はベッドに寝転がって魔導書を読んでいた。
「そんなことないわよ?私1人じゃこんなに綺麗に作れなかったもの。」
「でもほぼヘンリーがやったじゃないですか!飲食店バイトはしたことあっても、スイーツ屋さんはないんですよ~!」
どうやらルークは、ヘンリーに負けたことが不満であるようだった。
趣味特技に料理を挙げるだけあって、ヘンリーはすごく料理が上手かった。
「何だよ絶対目分量でぴったり分量計れる謎特技!もはや特殊能力だろ!?」
「あはは。やってたらそのうちわかるようなってくるじゃん?」
ものすごく驚いているルークに、ヘンリーは何ともないように答える。
確かに大体はわかるようになってくるが、粉状のも液状のもぴったりわかるようになるのはおかしくないだろうか。
「でも、オレセンスないからデコは完全にルークくん任せだったよ?」
「そりゃあちょっとは貢献したけど……エマ先輩絶対オレがいなくても可愛くできたって!だから今から本気出します。」
折角頼られたのに、役に立てないのが悔しいらしい。
ルークは言いながら袋を手に取り、手早くお菓子を詰める。
袋の口を扇状に折るとリボンを掛け、さっさと結んだ。
「どうですか!」
「ええ、すごい!どうやったの!?」
一瞬でリボンを結んだルークを、ヘンリーとエマは感心したように見る。
結ぶのが速いだけでなく、綺麗で可愛らしい。
1本のリボンしか使っていないのに、リボン結びを2つ重ねたような、華やかな結び方だ。
「すごく可愛い!ラッピングにぴったりじゃない!?」
「簡単ですよ!見ててくださいね?まずリボンを掛けて、その後わっか2重に作ってこうしてこうです!」
もう1セット持ったルークは、さっきより少しゆっくり、けれど手早くリボンを結ぶ。
何をしているのか全然見えなかった。
「……ごめん、もう1回やってほしいなー?」
ルークはもう1度お菓子を袋に詰めると、リボンを手に取った。
「いきますよ?まず普通に結んで――」
今度は手順ごとに説明しながら、ゆっくり結んでいく。
エマとヘンリーも、それについていくように真似をする。
「――こうです!」
「えーと、ここまではわかったんだけど、次どうー?」
全然ついていけなかったエマが、「難しい~!」と嘆いている。
こんな複雑なことを一瞬でできるとは、本当に器用だ。
「じゃあもう1回やりますね?」
ルークはもう1セット手にとって、さっきよりもさらにゆっくり、エマに合わせて結んでいく。
難しい顔で試行錯誤していたエマは、ぱあっと表情を明るくした。
「――できた!合ってる?」
「合ってますよ!上手いですね!」
ルークが感心したように言うと、エマはますます嬉しそうに笑った。
少々歪だが、ちゃんとできている。
「ヘンリーくんはできた?」
「オレも一応できましたよ。ちょっとバランス悪いですが。」
ヘンリーは答えながら、結び終わったリボンのバランスを整えている。
その間にもルークがサクサクと次のを結んでいくので、エマも慌てて2つ目に取り掛かった。
談笑しながら作業を続けていくと、30分もかからない間に、全てラッピングできた。
「……終わったー!ありがとう2人ともっ!」
ふぅっと息をついたエマは、嬉しそうに笑って礼を言う。
結局7割くらいルークにやってもらったが、エマもちゃんと頑張った。
「いえいえ!お役に立てたならよかったです!」
「こちらこそありがとうございました。久しぶりに料理できて楽しかったです。」
2人が丁寧に返すと、エマはありがとう、ともう一度笑った。
「おかげですっごく素敵にできたわ!明日みんなに渡す〜!」
「本命はないんですかー?」
嬉しそうなエマに、ヘンリーは茶化すように聞いてみた。
見るからに本命!というようなものはないが、全部友チョコなのだろうか。
「ないわよ?あったらもっと楽しかっただろうなぁー!」
「ないんですか。」
あったら面白かったのにな。とヘンリーは少し残念そうに返す。
頬に手を当てて「もしあったら……。」と想像しているエマは、すごく好きな人がいそうな雰囲気だが。
「ルークくんはブレアにでしょ?ヘンリーくんは誰にあげるのー?本命ー?」
ルークのことはわかりきっているので聞かない。
仕返しとばかりに詰め寄ってくるエマに、ヘンリーは困ったように苦笑する。
「いないですよ。とりあえず兄貴にでも押し付けようかなと思ってます。あとは――エマ先輩、貰ってくれませんか?」
「え……いいの?」
少し考えた末にヘンリーが言うと、エマは驚いたように目を丸くした。
「はい。エマ先輩、それ全部誰かにあげるんですよね?ならこれ食べてください。美味しいと思うので。」
「ありがとう!」
ヘンリーが手渡すと、エマは嬉しそうに受け取った。
何だか微笑ましいやりとりをしている2人の横で、ルークがすごく驚いている。
「ヘンリー……そうだったのか……?」
「違う。」
目を丸くしたルークに聞かれ、ヘンリーはぷいと顔を背けた。
違うと言うなら、ちょっとそれっぽい反応しないでほしい。
「じゃあ、私からもあげるね!どうぞ!」
ニコッと笑ってお菓子を差し出してくるエマに、ヘンリーは「え。」と戸惑ったような顔をする。
「数足りるんですか?」
「元々ヘンリーくんにもあげようと思ってたから、大丈夫よ。あげる!」
「そういうことなら、ありがとうございます。」
エマから受け取ったヘンリーは、柔らかく微笑んで礼を言った。
自分が貰えるとは思っていなかったので、少し驚いている。
てっきりクラスの人にだけあげるのだと思っていた。
「ルークくんも――」
エマがもう1つ取ろうとすると、すっと後ろから手を抑えられる。
長い銀髪が肩にかかったので、誰かはすぐにわかった。
「ブレア!起きてたの?」
「君達騒がしいから、寝れなかったんだよ。」
振り返ったエマに、ブレアは眉を寄せて答える。
エマとしっかり目を合わせると、小さく首を横に振った。
ブレアは手を抑えたままエマの耳元に顔を近づける。
「……ダメ。」
目を丸くしているエマから顔を遠ざけ、ブレアは悪戯っ子のように小さく笑った。
唖然としたようにブレアを見ていたエマは、ブレア以上にニヤッと笑った。
「あらー?ブレアってば、もしかして妬いてるの〜?」
「別に。ダメってだけ。」
エマから手を離したブレアは、逃げるようにベッドに戻っていってしまった。
寝転んで、何事もなかったかのように魔導書を読んでいる――が、その顔は少し赤くなっている気がする。
じーっとブレアを見ていたエマは、仕方がないのでルークにはあげないことにした。
「エマ先輩、先輩にはあげないんですか?」
「1年の時に断られてからは、ブレアにはあげてないのよ。」
ブレアの方を見ながら、エマは少し寂しそうに答える。
確かにブレアが断っているところは想像がつくが、エマのも断るのは少々意外だ。
そしてエマが潔く引くのも少し意外だ。
「いつもの調子ならあげるんだけどね。本当に嫌そうだったから、やめておくことにしたの。」
視線をお菓子の方に戻したエマは、ブレアに聞こえないようにするためか、少し声を小さくした。
いつもよりも嫌そうとは、どれだけなのだろうか。
「……ブレア、人からの好意を受け取るのが苦手みたいだから、バレンタインは、ちょっとしんどいんだと思うわ。」
「だから、あげないことにしたの。」と、エマは寂しそうな顔のまま、口角を釣り上げて笑った。
ブレアはエマにとって、大切な友人だ。親友、と言ってもいいほどの。
あげたい気持ちは山々だが、それがブレアの心労になるのなら、あげたくない。
「それにブレア、毎年忙しそうだしね!」
重たくなった空気を誤魔化すように、エマは軽い調子で言った。
エマは十分忙しそうだったが、ブレアも何か忙しいのだろうか。
いまのところ暇そうだけどな、とルークは小さく首を傾げた。
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お知らせ
バレンタイン特別編(前夜祭)はお楽しみいただけたでしょうか?
3以降はバレンタイン当日、つまり明日あげます!お楽しみに!
そしてもう1つお知らせ!
今作の現パロスピンオフ、「TS変身☆魔法少女ゆりゆりっ!」を公開しております。
全7話で完結済みなので、是非そちらもご覧ください!
男子高校生のブレアが、何故かTS魔法少女にされちゃうお話!(?)です。
パラレルワールドとして楽しんでいただければと思います!
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