第124話 うわぁ、俺今先輩と同じことしてる……!
今日はブレアがリアムのところに行かないらしいので、一緒に帰れる。
一緒に帰って、部屋で一緒に過ごせる。
なのでルークは、かなり機嫌がよかった。
SHRが終わるなり走ってきたルークが、3-Sのドアを開けた。
「失礼しま――あれっ、先輩は!?」
言い終わる前に、ブレアがいないことに気づく。
いつも自席で魔導書を読んで待っていてくれているのに、今日はそうではなかった。
ブレアの席は空席で、教室のどこにも本人の姿はない。
「あー!ルーくんだぁ。ゆりゆりはいないよぉ?」
「どこ行ったのか知ってますか?」
ブレアの席の前できょろきょろしていると、アリサが飛びついてきた。
いないことはわかっている。もしかしたら知っているかな、と思い聞いてみる。
「えぇ~?そりゃあ、デートとかぁ?」
「誰とですか!?」
「知らなーいっ!」
“デート”という単語に反応し、鋭く聞くとはぐらかされた。
もう1度ぐるっと教室内を見回すと、アーロンはいた。よかった。
いや、よくないかもしれない。
相手がアーロンならまだデートじゃないと思えるが、違うなら本当にデートの可能性だって捨てきれない。
「誰に呼ばれたとかわかりますか!?」
「ゆりゆりが誘った可能性は、考えないんだねぇ?」
「先輩に限ってそれはないです。俺でもデートなんて誘われたことないのに!」
自信満々に言うルークだが、別に好かれている自信があるわけではない。
人の名前すらろくに覚えられないブレアが、同級生とルーク、どちらの方が好いているか……と聞かれればルークだろうという希望的観測である。
色々やったのでその他より嫌われている可能性もあるが。
「誰に呼ばれたかわかったりしませんか!?」
「先生だよ~、なんか、リアム先生が用あるらしいから職員室行きなさいって。」
意外とあっさりと教えてくれたアリサに、とりあえず礼を言う。
リアムなら仕方ない。異様に仲がいいので妬けるが、少なくともデートではない。
しかしリアムに呼ばれたのなら、話が始まるのは今くらいからだろう。
となると、ブレアはすぐには帰って来ないということだ。
荷物やら布団やらは置きっぱなしなので帰ってはくるだろうが、いつになるかはわからない。
「……先輩の席、借りて待っててもいいと思いますか?」
「いんじゃない?逆に何でだめなの?」
不思議そうに首を傾げているアリサに離れてもらい、ブレアの席に座る。
そこから教室を見回して、何も書かれていない黒板を見る。
「これが、先輩が普段見ている景色……!」
「そんなことで感動しなくてもー?」
前の席に座ったアリサがクスクスと笑うが、ルークは全く気にしていない。
じーっと黒板を見ていたルークは、突然机に顔を伏せた。
「先輩って、授業中寝てたりするんですか?こうやって寝てます?」
「授業中は起きてると思うよぉ?休み時間は、よくそーしてるけど。」
アリサに聞かれても、アリサはブレアよりも後ろの席なのであまりわからない。
いつも頬杖をついているが、寝てはいないと思う。
「そうなんですか!?うわぁ、俺今先輩と同じことしてる……!寝れそう……。」
「おやすみ~?」
顔を伏せたまま感慨深そうに呟いているルークを、アリサはにこにこと笑って見ている。
ブレアと同じ行動をすることに何の意味があるのかはわからないが、何となく面白い。
「……やっぱり無理だ!先輩がいつもここに座ってるって考えたら興奮してきた!」
「ルーくん変態っぽい~。嫌われるよぉ?」
勢いよく顔を上げたルークに、アリサはパタパタと手を振りながら言った。
変態と聞いてはいたが、想像していたよりガチっぽい。
こんな人と同室とか、大丈夫なのだろうかと心配になってくる。
「先輩は寛容なお方なので嫌われません!多分……。」
「諦められてるだけだろ、ド変態。」
言い切ったルークは、自信がなくなったようでぼそりと付け足した。
アリサが何か言う前に、アーロンがルークの頭を小突く。
少し前なら『元から嫌われてるからだろ。』と答えていたが、最近のブレアを様子を見ていると――どうもそんなわけではない気がする。
「諦めないでくださいよー!俺はどれだけ冷たくあしらわれても諦めてないんですよ!?」
「それは諦めろよ。あと俺に言うんじゃねえ。」
諦めないでほしい気持ちはわかるが、ルークに関してはほぼストーカーだ。
ブレアが許しているから何とかなっているだけで、そうでなければ完全にストーカーだ。
「でも最近、先輩って俺のこと好きなんじゃないかなって思っちゃうんですよ!あんなこと……もしてくれたわけですし!?」
「どんなことだよそれ。……え、マジで何かやったの?ソーユー系?」
目を丸くして聞いてくるアーロンに、ルークはニヤニヤと笑って「秘密です!」と答える。
匂わせるなら教えてくれればいいのにと、アリサもアーロンも思った。
「秘密ですよ、へへへ……。」
「思い出し笑いキメェよ。」
「楽しそうだからいんじゃない~?」
アリサがけらけらと愉快そうに笑うと、ルークは再び机に顔を伏せた。
「頬擦りしたいです……。」
「もうしてるようなもんじゃね?あっ、ユーリー帰ってきた。」
呆れたようにルークにツッコむと、丁度ドアが開いた。
アーロンの言葉とドアの音に反応して、ルークがばっと顔を上げる。
「……君今慌てて顔上げなかった?見てたよ、何してたの。」
「慌てたわけじゃないですよ!?『ああ、先輩の席……!』って興奮してたのは事実ですが!」
弁解して余計に変態っぽくなってしまったルークに、ブレアは呆れたように眉を寄せた。
「気持ち悪い……。未だに部屋で深呼吸してるの知ってるけど、それで満足できないの?」
「俺は先輩とありとあらゆることをしたいので匂いくらいでは一生満足できません!――そんなことより先輩!」
早口に捲し立てたルークが、突然すっと険しい顔になる。
何故ならブレアの隣に――見たことのない女子生徒がいたからだ。
「――誰ですかその女っ!?」
「その台詞前も聞い――うわっ……。」
ルークにツッコもうとしたアーロンは、その女子生徒の姿を見てあからさまに嫌そうな声を出した。
水色の髪を三つ編みに結った、釣り目がちなラピスラズリの目を持つ女子生徒。
じっとルークのことを見ていた彼女は、にこっと微笑を浮かべて――見せつけるように、ブレアの腕に抱き着いた。
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