第123話 ……何も、覚えてないんだけど
ブレアがリアムのところに行ってしまったので、ルークはアーロンとヘンリーと、勉強会をしていた。
テストはまだ先だが、予習復習はしておいて損はない。
それに頭がいい人の方が、ブレアを落とせるかもしれない、とルークは思っている。
――のだが。
「……お前さぁ、集中できねえなら帰れ。」
「すみません!」
ルークは上の空といった感じで、全然集中している様子がなかった。
アーロンだって暇ではない。
部屋に戻ってギターを弾いたり、写真の整理をしたり、街にでたりしたい。
わざわざ時間を割いて教えてあげているのだから、ちゃんと集中してほしい。
「ユーリーと何かあったんじゃねえの?」
「アーロン先輩……心読む魔法的なの使えるんですか!?」
はあっと溜息を吐いたアーロンが聞くと、ルークは心底驚いたように目を見開いた。
そんな魔法ない。ルークが何か考えていれば、ブレアのことだろうと誰でもわかる。
「んなわけねえだろ。んで、今度は何だ?」
「勘違いってわかってはいるんですけど……先輩って、俺のこと好きだったりしますかね?」
「はぁ?」
わかっているなら何で聞くんだ、とは言わず、アーロンはますます眉を寄せた。
今更どういう質問なのだ。
「最初よりは好かれてると思うけど……急にどうかしたの?」
ヘンリーが不思議そうに聞くと、ルークがバンッと音を立ててペンを置いた。
これは、完全に勉強する気がない。
「昨日、先輩がハグしてくれたんだ……!」
「「えぇっ、マジで!?」」
感極まった様子のルークが言うと、2人は揃って大きな声を出した。
リアクションまでぴったり一緒で、兄弟ってすごいなと思う。
「帰ってくるなりハグしてくれて、『抱き返していいよ』って!」
「……幻覚?妄想?それとも夢?」
またおかしくなってしまったのか……とヘンリーは心配している。
疑いの目を向けてくる2人に、「現実!」と大きな声で主張する。
「完全に現実だぞ!?先輩の背中に触ったこととか、先輩の体温とか、匂いとか華奢さとかやわらかさとか鮮明に思い出して興奮できるくらい!」
「キッショお前。興奮するなら昼間に思い出すな。」
その時のことを思い出しているのか、開いた手を動かしながら早口に言う。
「可愛すぎて死ぬかと思った!何しててもえっちなのに肉体的接触はえっちすぎる!」
「ルークくん、1回落ち着こう?」
苦笑したヘンリーが軽く肩を叩くと、ルークは不思議そうに首を傾げた。
「至って冷静に言ってる。先輩はえっちだ。」
「うん。2回くらい落ち着こう。」
1回で足りないなら何回でも落ち着いてほしい。
本当に落ち着いて言っているなら、それはそれで問題がある。
とりあえず、テンションが上がっていることはわかった。
この間もそうだったが、ブレアは一体何を思ってそんなことをしているのだろうか。
「……まさかルークくんのこと好――」
「あーあーあー!言うな、黙れ!」
突然の大声にヘンリーは驚いて言葉を止めた。
少しの間丸くしていた目を怪訝そうに細め、「何?」とアーロンに聞く。
「ソーユーのはユーリーに言わせんの!オレらが言うことじゃねえ!」
「そうなの?別に推測くらいいいんじゃ……。」
ひそひそと耳打ちしてくるアーロンに、ヘンリーは不思議そうに聞き返した。
好きだ、と断定するのは駄目かもしれないが、好きかも、くらいならいいではないか。
「駄目だ。アイツに言わせねえと意味ねぇだろ!」
「そうなの?」
中々わかって貰えないが、あまり説明するとアーロンが変な人だと思われそうで嫌だ。
うーんと考えた後、丁度いい理由を思いつく。
「ほら、んなこと言ったら絶対ルークが調子乗ってやらかすだろ!だからやめとけ。」
「確かにねー。やめとくか。」
ヘンリーが返すと、アーロンはほっとしたように顔を離した。
普段の兄なら『そっちの方が面白いから言おう!』とか言いそうなのにな。
などという疑問は残るが、とりあえず見逃すことにする。
「何の話してました?先輩の魅力なら俺に語らせてください!」
「んなわけ。」
真顔のルークをあっさりと否定して、アーロンは疲れたように溜息を吐いた。
もうルークは集中しないどころか、勉強をする気すらなさそうだ。
「はいはい、んなにユーリーのこと好きなら部屋戻ってイチャついてろ。かいさーん。」
「えっ、勉強しないんですか?」
ぱたん、と教科書を閉じてしまったアーロンに、ルークは拍子抜けしたように目を丸くする。
まだ殆ど何もしていないのに、もう解散するのか。
「だってルークやる気ねぇじゃん?なら解散だ。次までに切り替えてこい。」
アーロンがひらひらと手を振ると、ルークはすぐに席を立った。
「わかりました!では失礼します!」
「……お前、今どっちかっつーと怒られてんのわかってっか?」
ペコリと一例したルークは、走って教室を出て行ってしまった。
絶対わかってないだろうな、と思った。
そもそもブレアはリアムのところに行っているのなら、そんなに早く帰っても会えないのではないだろうか。
すぐに寮室まで帰ってきたルークは、術式を唱えてドアを開ける。
「ただいまですせんぱー……い。」
元気よく挨拶をしたルークは、慌ててボリュームを下げる。
既に帰ってきたブレアが、眠っていた。
制服のままベッドに寝転んで、すうすうと寝息を立てている。
着替えもせず、布団も被らず寝ているのはかなり珍しい。
朝はぐっすり寝ていることが多いが、夕方にルークが帰って来ても気が付かないほど深く眠っているのも珍しい。
短いスカートのまま、布団も被らずに寝られると見えそうでドキドキするのでやめてほしい。
寒そうなので、起こさないようにそっと布団を掛けておく。
自分のベッドに腰かけたルークは、じーっと眠っているブレアを眺める。
(……先輩って、寝顔綺麗だよな……。)
気持ちよさそうに眠っているブレアは薄く微笑んでいるように見える。
何だか無邪気な子供のようで、可愛い。
そういえばリアムはブレアの寝顔が好きだとかブレアが言っていた気がする。
嫉妬と共感しかできない。
ずっと見ていたいのは山々だが、勉強でもしようか。
「う……ぅーん……。」
そう思ってルークが立ちあがろうとすると、ブレアが小さく動いた。
起き上がったブレアはグッと体を伸ばし、眠そうに目を瞬く。
「あっ、おはようございます!」
「う……ん。おはよ……。」
よっぽどぐっすり眠っていたのか、まだあまり頭が回っていなさそうだ。
たまにこういう日があるが、何だかふわふわしていて可愛いな、と思う。
目を擦りながら時計に目を向けたブレアは、ばっとルークの方を見た。
「何で起こしてくれなかったの!?」
「えっ、起こした方がよかったですか!?」
昼寝をしているなら起こさない方がいいかと思っていたのだが、まさか起こしてほしかったとは予測できるまい。
ルークが戸惑って聞き返すと、ブレアは「当たり前でしょ?」と不満そうに眉を寄せた。
「いつも起こしてくれるじゃん。」
「え、起こしてないですよ?」
朝は遅刻しないよう起こしているが、それ以外はいつもそっとしている。
話しかけたくても起こさず静かにしているはずだ。
「起こしてくれてるじゃん……今日先生の授業あったのに……。無断欠席怒られる……。」
「え、待ってください先輩。」
額を押さえて溜め息をついたブレアの言っていることがわからず、ルークは目を丸くする。
「何?」と怪訝そうに聞いてきたブレアに、恐る恐る聞いてみる。
「先輩、昼休みの後帰ってきたんですか?」
「……何のこと?」
何だか話が噛み合っていない気がする。
そもそも今日、リアムの授業があるのは午前だった気がする。
ルークは少し考え込んでから、じっとブレアを見る。
「先輩、いつから寝てたんですか?」
「昨日の夜から……ずっと……。」
ルークの反応を見ていると、だんだん自信がなくなってきた。
頭を押させたまま首を傾げるブレアに、ルークは心配したような顔をする。
「先輩、ちゃんと朝起きて一緒に学校行ったじゃないですか。」
「え……嘘でしょ……。」
「本当ですよ。嘘なら何で制服着てるんですか?」
ブレアは自身の姿を見下ろす。
ルークの言う通り制服を着ていて、絶句したような、怖がっているような顔をする。
「……何も、覚えてないんだけど。」
「ええ!?」
少し痛む頭を働かせるが、どれだけ考えてもやっぱり今日を過ごした記憶がない。
ずっと、1日中寝ていた気しかしない。
そういえば以前、アーロンと同じような話をした気がする。
絶対何かあると思うのだが、ブレアには全く心当たりがなかった。
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