第119話 みんな先輩に惚れるだろ……嫌だー
5、6限目、ブレアとエマの授業は、校庭で行うらしい。
授業が始まると、簡単に出欠を確認して、皆で校庭に出る。
そこでリアムと合流して、リアムがもう1度出欠を取った。
「今日は、中級魔法の実践をします!それぞれ得意な属性の魔法を使ってほしいから、ブレアが順番にお手本を見せるわね!」
張り切ってるエマの一声から始まった、今日の授業。
一言で言うと、ブレアは凄く忙しそうだった。
順番に色々な魔法の見本を見せて、個別にコツを教えたり、もう1度見本を見せたりと、とにかくやることが多い。
エマも同じだが、ルークにとっての問題は“ブレアが忙しいこと”だ。
「……先輩と全然話せない……。」
「ルークくんが拗ねてる……。」
むっとした表情でブレアを見ているルークに、隣にいたヘンリーは苦笑する。
ブレアに教えてもらって、理解できたら離れたところで実践……といった形式なのだが、ブレアの周りには常に複数名生徒がいて、全然絡めない。
実践してみてわからなかった生徒がまたいったりもするので、全然列が途切れない。
「ちょっとくらい拗ねてもいいだろ!?うぅ、先輩は俺にだけ魔法を教えててほしい……!」
「変なところで謎の束縛発揮してどうするのー?ルークくんも教えて貰えばいいじゃん。」
呆れたようなヘンリーに言われ、ルークは「そうだけど……!」と葛藤するように唸る。
「俺もう中級魔法できるんだよ!多分無効化魔法とか反射魔法は上級だし!あれ、俺もしかして優秀?」
できることを嘆いたルークは、突然自己肯定感を上げ始めている。
独り言で完結していて、ある意味すごい。
今回エマが決めた目標は、“みんなが1つはできるようになること”。
なので1つでもできる人は、各自で2つ目以降を習得することになっている。
エマ的には足並みを揃えたかったようだが、ここまで人によって差が出るのは予想外だったのだろう。
親身に教えているが、その顔は少し焦っているように見える。
リアムがいればもう少しどうにかなったのかもしれないが、放送で呼び出されて職員室に行ってしまった。
「先輩、教えるの上手いんだぞ。魔法の説明してる時楽しそうで可愛いんだよ。」
「そうなんだ。」
離れたところにいるブレアを見て、ルークは真剣な顔で言う。
表情と言動が合っていない気がする。
「だからあんなに丁寧に教えたら、みんな先輩に惚れるだろ……嫌だー。」
「極論すぎない?それはないと思うよ……。」
本気で嫌がっているルークにヘンリーは呆れたように否定する。
ブレアがどんな人かくらい、ルークほどではないが皆わかっている。
今更そんなことで惚れたりしないと思う。
ブレアは容姿が整っているので、少しくらい好意を抱いていた生徒もいるかもしれないが……ルークを見ていれば、そんな気持ちも吹っ飛ぶだろう。
「ヘンリーは中級魔法使えるんだった?」
「うん。治癒魔法だけどね。」
「ヘンリーが使えなかったらしれっとついて行こうと思ってたのに。」
「オレを利用しないで?」
ヘンリーに釘を刺されたルークは、やっぱりだめか……と項垂れた。
何だか申し訳なくなるので、残念そうにしないでほしい。
そんな無駄話をしていると、ひんやりとした冷気が後方から頬を撫でた。
「――何してるの!?」
雪降るかもなー、なんて雑談で済ませられる程度じゃない、凍えるような冷気。
ブレアも異変に気が付いたようで、咄嗟に鋭く叫んだ。
かなり離れた場所、グラウンドの端の方が凍っていた。
パキパキと音を立てながら、氷が地面を侵食している。
男子4人くらいがあの辺りにいたので、そのうちの誰かが魔法を使ったんだろう。
彼らも全員戸惑っているのを見るに、解除の仕方がわからないようだ。
レベルの高い魔法に慣れていなければ、珍しい話ではない。
「炎魔法で相殺するから、離れてっ!」
すっと手を前に向けたブレアは、なるべく大きな声で叫ぶ。
この距離で広範囲に熱を伝えるとなると、人を巻きこんでしまう恐れがある。
だからなるべく離れてほしいのだが、速くどうにかしたい。
「先輩っ!俺にまかせてください!」
「え、ちょっと――」
ブレアが困っているのを見て、ルークは静止の声も聞かずに走り出した。
凍った地面を、滑りそうになりながら中央まで走っていく。
丁度真ん中あたりに来ると、膝をついて氷に素手で触れた。
手のひらから伝わってくる冷たさに集中して、術式を唱える。
先日まで練習していたのは規模を狭めることだが、今回はその逆だ。
凍った地面全体を、広がっていく氷全部に作用するように意識する。
氷が侵食するのは地面だけではないようで、ルークの足や手に氷が上ってき始めた。
冷たい、冷たいを通り越して最早痛いが、気にならないフリをする。
式を唱え終えると、凍った地面全体が淡く光った。
光が収まったころには、尋常じゃない冷気は消えていて、氷の侵食も止まっていた。
それでも氷自体は残るため、寒いことに変わりはないのだが。
「……どうですか先輩っ!止まりましたよね?……うぇっ、俺めっちゃ凍ってる!?すごくないですか!?」
「すごいとかいってる場合じゃないよルークくん!?死んじゃう死んじゃう!」
足から伝わった氷が足の付け根、手から伝わった氷が肩辺りまでを覆っていて、ルークは感心している。
急いで助けにいったヘンリーが叩くと、細かく割れた氷が少しだけ散った。
「全然動けない!あはは、すごー!」
「すごーじゃないよ!?マジでどうしたらいいのこれ。」
冷たそうなのに何故楽しそうにしているかというと、感覚がなくて冷たくないからだ。
身体の一部が凍る経験などしたことないため、珍しくてテンションが上がっている。
「ルークくーん、ヘンリーくんと、みんなも、大丈夫ー?」
「俺は大丈夫です!」
「ルークくんは見るからに大丈夫じゃないわよ?ブレアなら魔法で溶かせるんじゃないかしら。行きましょ。」
声をかけたエマは、ルークの方に行こうとして――ふと、ブレアの方を振り返った。
一緒に行こうと思って声をかけたのだが、ブレアは一歩も動いていない。
「……ブレア?」
心配しているのか、困っているのか、浮かない顔でルークを見ている。
すぐ隣まで近づいて、微かに震えているブレアの手を握った。
「ひゃっ!」
「大丈夫なの?」
驚いたのか、ブレアははっとしたようにエマを見て、アメシストの瞳を瞬いた。
「……ごめん、大丈夫だよ。」
「ならいいんだけど。ルークくん達のところ行きましょ。氷溶かしてあげないと。」
「うん。」と短く返事をすると、エマに手を引かれるままに歩き出した。
本当に大丈夫なのかと聞きたくなったが、今はルークの方が大丈夫じゃない。
後で聞いてみよう、とエマは密かに決意した。
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