1月21日特別編3 今日なんの日か知ってっか?
無事(じゃないかもしれない)2人から解放されたブレアは、ようやく自分の席についた。
やっと落ち着いた気がして、ふうっと長い息を吐いた。
朝から有り得ないほど疲れた。既に帰りたい。帰って寝たい。
とりあえず授業が始まるまで寝ていようかと思い、机に顔を伏せようとすると――アーロンが前の席に座って、話しかけてきた。
「なあなあユーリー、今日なんの日か知ってっか?」
「……その話さっき終わった。」
知ってる、という答えの代わりに出たのは、溜息交じりの、非常に疲れていそうな声だった。
ハグの日なのはわかったから、そっとしておいてほしい。もう疲れた。
「知ってる。見てたよお前ら騒がしいから。」
「見てたなら助けてよ。」
呆れたように眉を寄せるアーロンに、ブレアは不満そうに言う。
アーロンはブレアのことを男性寄りに見ているのだから、止める必要性を感じただろうに。
「あのむっつり性別詐欺野郎やってんなーって見てた。止めたら怒るんじゃねえかと思って。」
「むしろ何で怒るの。」
何やら失礼な物言いにブレアはむっと眉を寄せる。
別に性別詐欺をしているわけではない。
「狙ってやってんのかと。」
「僕のこと何だと思ってる?」
ますます不機嫌そうにブレアの顔が歪んだのを見て、アーロンは「悪ぃ悪ぃ。」と軽く謝る。
絶対謝る気がない。
「んで、話戻すんだが、今日ハグの日じゃん?」
「そうだね。」
ブレアは訝しむようにしつつ、一応頷く。
するとアーロンは愉快そうにニヤリと笑った。
「だから、ルークにハグしてやればいいんじゃねえかなって思うんだよな!」
「絶対嫌。その話もさっき終わった。」
きっぱりとブレアが断ると、アーロンは「ええ~?」と声をあげて笑う。
拒否しているのに何が面白いんだ。
「何でだよ?エマにはしたじゃねえか。」
「エマがしてきたの。僕はしてない。」
きっぱりと否定しているものの、視線がすーっと横に逸れた。
あくまでエマがしてきただけで、自分はやっていない。
バランスを崩してしまった時は――咄嗟に腕を回してしまったが、それは仕方ないだろう。
すぐに離したし、本意ではなかった。うん、セーフ。
「ルークにしてやったら喜ぶと思うぞー?アイツ自分からはできねえだろうし。」
「喜ぶから何。僕が彼を喜ばせる必要性があるの?」
喜ぶことくらいわかっている。
というかルークがブレアのすることで喜ばないわけがない。
ブレアにはそういう、絶大な自信があった。
しかしルークが喜ぼうが喜ばまいが、ブレアには関係ない。だからやらない。
やらない、という意思を無言で伝えてくるブレアを見て、アーロンはしばし考え込む。
なんとしてでもやらせたい、何故なら面白そうだからだ。
どう説得しようかと考えていると、ふといい案を思いつく。
「いいのかなーそんなこと言って。この間ルークは一生懸命看病してくれたんじゃねえの?」
「それは……そうだけど。」
何も言い返せなかったブレアは口を閉じて俯く。
感謝はしている。感謝はしているが、それとこれとは別だろう。
「ルークはお前の助手?なんだろ?助手が頑張ってくれたら何か報酬をあげるべきじゃねえですか~?」
「そう、かもしれないけど……だからって抱擁じゃなくてもよくないかな。」
アーロンの言っていることはわかる。わかるのだが、ハグはしたくない。
「えー丁度いいじゃねえか。ルークの需要考えたら妥当じゃね?」
「……そう、かもしれないけど……。」
「渋りすぎだろ?すぐ手握ったりする癖に。」
俯いたまま視線を彷徨わせるブレアを見て、アーロンは不思議そうに聞く。
「それは魔法使ったりする時だよ。君だって女の子とハグできないでしょ?」
アーロンはブレアのことを男性寄りにみているから気にならないのかもしれない。
しかしブレアの認識では一応、ルークも異性だ。
手を触るのはいい――いや、駄目かもしれないが、魔力を流しているのだから仕方ないだろう。
「でき――あ、じゃあオレができたらお前もルークにする、でどうだ?」
「……いいけど。」
できないだろう、と高をくくってブレアが了承すると、アーロンがニヤリと笑う。
勝ったな、という笑みだった。
「おーいリサちー。」
「なぁにー?アーくん。」
アーロンが振り返り、少し離れたところにいたアリサに声をかけた。
首を傾げて返事をしたアリサが駆け寄ってくる。
「ハグしよーぜー!」
「いーよーっ!」
小走りで駆け寄ってきたアリサが、ぎゅっとアーロンに飛びついた。
アーロンが大声で言ったため、すごく見られているのだが恥ずかしくないのだろうか。
一部の女子が歓声をあげているが。
というか1人、厳しい顔をした男子がいるのだが。
「ほら、オレできたからお前もやれよ。」
アーロンに言われたブレアは、少し顔を引き攣らせている。
「……本当にすると思ってなかった……。」
「引いてんじゃねえぞ。」
やんわりとアリサから離れたアーロンは顔を顰めた。
確かに引いた。ちょっと引いたが、自分もしなければいけないことに顔が引きつっただけで、決して引いたからではない。
「何何、どしたのぉ?」
呼ばれたから来ただけで、何もわかっていないアリサが不思議そうに首を傾げた。
「コイツが異性とはハグできねえっつーから、『オレができたらお前もしろよ?』って。ありがとなリサち。」
「ふむふむ、なるほどねぇ~?」
アーロンの話を聞いたアリサはにまーと笑ってブレアを見る。
その後アーロンを見ると、またアーロンに引っ付いた。
「つまり、アーくんはゆりゆりにぎゅってしてほしくてー、リサを使ったとぉ。しょーがないなぁ~。」
「違ぇよ!?」
「え、気持ち悪……。」
「違ぇって!お前はわかってんだろうが!」
アリサを剥がして否定したアーロンは、すすすーっと逃げるように離れていく。
……逃げたからやらない、という選択肢はないだろうか。
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