第107話 看病シチュ羨ましいです……
こうしてブレアと2人で昼休みを過ごすのは、久しぶりかもしれない。
最近は複数人で賑やかに昼食を食べていたので、2人きりでゆっくり昼食を食べることはなかった。
エマとアリサは他の友人と食堂で食べるらしい。
アーロンとヘンリーはこの教室にいるが、2人――主にルークに気を使って少し離れたところにいる。
アリサが来る前まではこんな感じだった。そう思えばいつも通りな、何だか懐かしい感じだ。
「どうぞ先輩っ!」
にこにこ笑顔でブレアにお弁当を食べさせようとするルーク。
――だが、ブレアはふいと顔を背けてしまった。
「……いらない。」
「何でですか!?」
久しぶりに食事を拒否されたルークは悲しそうに聞く。
気まずそうに明後日の方向を向いていたブレアは、ルークを見ることなく顔を伏せてしまった。
「寝たい。」
「起きてください。寝るのは食べてからにしましょうよ!」
ルークが困ったような顔で提案しても、ブレアからは「ん~。」と間の抜けた返事が返ってくるだけだ。
大抵ブレアの“ん”はイエスだが、顔を上げないということはノーだろうか。
「先輩ー?ちゃんと食べないと駄目ですよ?栄養摂れません。」
「無理……。今食欲ないんだ。」
右手で額を押さえて顔を上げたブレアは、気怠そうにルークを見た。
少し体調が優れないのが、十分にわかる顔をしている。
「大丈夫ですか?顔色も少し悪いような……。」
「うん、気にしないで。少し、寝たら治る、と、思うから。」
途切れ途切れに答えたブレアは再び顔を伏せてしまった。
心配だが、そっとしておいた方がいいのだろうか。
眉を下げて心配そうにブレアを眺めながら、ルークは仕方なく、1人で昼食を食べた。
放課後、部屋で真面目に勉強をしていたルークは、ペンを置いてふっと息を吐いた。
「……先輩、遅い……。」
今日は準備室に行かないと言っていたのに、全然帰ってこない。
やっぱり教室まで迎えに行った方がよかっただろうか。
今からでも探しに行くべきだろうか。
そんなことを考えていると、全然勉強が捗らない。
探しに行こうと席を立つと、コンコンとドアがノックされた。
「はーい……?」
ブレアなら勝手に入ってくるはずなんだけどな……と思いながらドアを開ける。
「あ、アーロン先輩……と、先輩!?」
ドアの前にはアーロンが立っていて、支えるようにブレアの肩に腕を回している。
『先輩に触らないでください!』と言いたいところだが、なんだかブレアがぐったりしていて、それどころじゃなかった。
アーロンにもたれかかっているブレアの顔を、ルークは心配そうに覗き込む。
白い顔は真っ赤になっていて、息をするのも辛そうだ。
「大丈夫ですか!?どうしたんですか?」
「うー、ぅん……、頭痛い……。」
短く答えるブレアはかなりしんどそうで、全然何があったのかわからない。
リアムが以前ブレアは風邪を引かないと言っていたが、明らかに熱がある。
「オレがわかる範囲で説明してやっから、一旦退け。コイツ寝かせんぞ。」
アーロンをよく見ると反対の腕でくるくると巻いたブレアの布団を抱えていた。
すごいなと思っていると、アーロンはルークの方に向けて、ブレアの背中を軽く押す。
ルークは倒れ込んできたブレアをそっと受け止めた。
「あ、ごめ……。」
「無理しないでください。」
申し訳なさそうにルークを見上げてくる顔は赤くなっていて、熱がありそうだ。
熱でとろけたアメシストの奥に、うっすらと七色の光がチラついているのが見える。
色気を感じさせる視線にドキッとしてしまい、ルークはずっと見つめていたい気持ちと葛藤しながら、腕の中で見上げてくるブレアから目を逸らした。
「今日の5、6限魔法実技だったんだが……中~上級魔法の実践だったから響いたんだろうな。」
「響いた?」
慣れているようにテキパキと布団を敷きながら、アーロンは経緯を説明する。
相変わらずブレアの触れる感触にドキドキしつつ、ルークは不思議そうに首を傾げた。
「今日の昼休み、大人しかったろ?午前中も実技科目あるクラス多かったからキツかったんだろ。2学期だしなー、どの学年もガンガンムズい魔法使うようになってくる頃だろ。」
「そうでしょうけど……それで先輩がこうなるんですか?」
一向に理解しないルークに、アーロンは「はぁ?」と顔を顰めて振り向いた。
布団は敷き終わったようで、そのままブレアのベッドから離れた。
「お前、助手とか言ってるわりに何もわかってねえじゃねえか。」
「す、すみません!?」
わかって当然のことだったのか?とルークは慌てて誤る。
それでも原因がわからず、困ったようにブレアを見つめた。
「聞いてねえの?魔力酔いが酷ぇって。」
「あー!魔力酔いってこうなるんですか!?」
魔力で酔いやすい、とは聞いていたが、こんな状態になるとは思っていなかった。
魔力だけでこんなにも弱ってしまうものなのか。
ようやく納得のいったルークが思わず大きな声を出すと、ブレアが小さく唸った。
「あっ、すみません……。」
「叫んでねえで早く寝かせてやれよ。」
呆れたようなアーロンに言われ、ルークはブレアをベッドに寝かせる。
秋の終わりのことを思い出すなあと思っていると、ブレアが重い口を開いた。
「……ごめん、また……。」
「体質なら仕方ねえだろ、無理すんなよ。」
薄目を開けて見てくるブレアに、アーロンはあっさりと答える。
また、ということは前もこんなことがあったのだろうか、とルークは首を傾げた。
「これは治してやれねえしな。オレはもう帰るから寝とけ。」
「……わかった……。」
ブレアが静かに目を閉じると、アーロンは廊下に出る。
そのままドアを閉めようとして、「あ」と思い出したように声をあげた。
「コイツ、こうなったら殆ど魔法使えねえんだが……ルークお前……手ぇ出すなよ?」
「出しませんよ!?」
前回手を出さなかったルークを信じてほしい。
即答すると、アーロンはルークを探るように見た。
「じゃあ何だその目は。」
「アーロン先輩が先輩の家に看病しに来た彼氏に見えるんですよ!」
そんな場合じゃないから、と黙っていたのに、聞かれては正直に答えるしかない。
ルークは開き直ったように、悔しそうに歯を食いしばって言う。
「前にもあったっぽいですし!看病シチュ羨ましい……。」
「煩ぇ。そう思うなら面倒見てやれ。ちゃんとユーリーのこと見ろ。」
自分が今その“看病シチュ”を経験している自覚はあるのだろうか。
アーロンに言われ、ルークは寝ているブレアをじっと見つめる。
「……首筋の汗がえっち……。」
「黙れド変態。汗かいてんなら拭いてやれ。変なことしたら明日殺されろ。」
――本当にこの2人を放っておいていいのだろうか。
大きな溜息を吐いたアーロンは、バタンと勢いよくドアを閉めた。
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