第105話 ゆりゆりのこと好きでしょ?

 3-Sの教室に帰ってくると、いつも通りブレアの前の席にルークが座っていて、何故かブレアの席にアリサが座っていた。

 2人で何か話している様子だが、ルークはすぐにブレアに気づいてドアの方を見た。


「あぁ……せんぱぁい……。」


「え、何、どうしたの。」


 半泣きで見てくるルークに引きながら、ブレアが近づいてきた。

 何か面倒なことになってそうだ。


「本当にアーロン先輩と帰ってきた……浮気ですか?何してたんですか……?」


「授業。」


 何言ってるんだろう。とブレアは困ったように首を傾げる。

 こういうことを言うだろうとは思っていたが、まさか悲しそうに言われるとは思っていなかった。


「帰ってくるの遅かったじゃないですか!授業終わってから何してたんですか?」


「話してた。」


「何の話してたんですか~!?」


 ブレアに泣きついているルークを見て、アーロンはそっとアリサに近寄る。


「お前ら何してた?」


「んー?おしゃべりー!」


 ルークとブレアは何やら言い合っているが、気にしないことにしてアリサに話かける。

 アリサがにこーっと笑うと、アーロンは呆れたように眉を寄せた。


「それはわかってんだよ。エマ……とヘンリーはどこいった?」


「エマちが今日日直なのー。ミニアーくんが手伝うよって。」


 さらりと言ったアリサの言葉に、アーロンは納得する。

 納得はするが、1つ引っかかることがある。


「お前ヘンリーのことんな呼び方してんのかよ。やめてやれ。」


「そんなこと言って、嬉しいんでしょー!アーくんてばブラコン~!」


 目を逸らして俯いたアーロンは、「ブラコンじゃねえ。」と小さな声で否定した。

 完全にブラコンだとバレている。

 ヘンリーの話は1年の時からよく聞いていたので、会ってみたかったくらいだ。


「そっくりでちっちゃいアーくんみたいだったから、ミニアーくん。」


「紛らわしい渾名やめろ。ちっせぇオレ……ではねえだろ。」


 似ていると言われたことに少々驚きながら、アーロンは嫌そうに顔を顰めた。


 アーロンが髪を上げていたり、染めたりしていることや、ヘンリーが眼鏡をかけているからか、似ていると言われるのは中々珍しい。

 実際ルークにも初対面の時は“似てない”と言われた。

 顔立ちは意外と似ていると思うのだが、そう言われるのは素直に嬉しかったりする。


「……んで、お前ら何の話してたんだよ?何でルークの情緒ぶっ壊れてんの?」


「えへへ~、秘密ー。」


 へらへらと笑っているアリサから目を離し、アーロンはルーク達に目を向ける。

 ルークが面倒くさいのはいつものことだが、今日は一段と面倒くさい。


 アーロンとブレアがルームメイトだったことを知ったからか、あるいはアリサに何か言われたのか――。


「おいルーク、コイツに何言われた?」


 アリサに聞いても無駄だと判断したアーロンは、諦めてルークに聞いてみた。

 縋るようにブレアを見ていたルークが、一旦アーロンの方を向く。

 ちらりとアリサの方を見て、涙目で口を開いた。


「……リサ先輩が、『今頃ゆりゆりはアーくんとイチャイチャしてるんじゃない~?』って!!」


「は?気持ち悪っ……。」


 ブレアがあからさまに、心底嫌そうに顔を歪める。

 ドン引きしすぎて、『そんなわけないでしょ?』とも言えないようだ。


「リサちお前なぁ……いい加減にしろよ?」


「何がー?」


 アーロンが睨むように見ても、アリサはけろっとしたように笑っている。

 悪びれずに笑っているアリサだが、本当に何が悪いのかわかっていないのか。

 そんなんじゃない、と何度アーロンが否定したと思っているのだ。


「お前、何ですぐソユこと言うの?」


「そーゆーことってぇ?」


「ソユことはソユことだよ。」


 ニマニマと笑って聞いてくるアリサに、アーロンははっきりと返す。

 絶対言わせたいだけだ。言ってやるか。

 何故そこまでアーロンとブレアで遊ぶのだ。


「えぇ~?どういうことですかぁ?」


「だから――」


「僕とコレが無駄に仲いいみたいにするのやめてくれる?」


 アーロンの代わりに、ブレアが躊躇いなく答えた。

 微妙に求めていた発言ではなかったようで、アリサは少しがっかりしたように顔を曇らせた。


「……ゆりゆりつまんなーい。」


「何が。そこ僕の席だから退いてくれる?」


 素直にアリサが1つ横の席に移動すると、ブレアはふっと息を吐いて空いた席に座った。

 話が長くなりそうなので、アーロンも仕方なくルークの横に座る。

 真っ直ぐにアリサのことを見たブレアが、「で、何で?」と聞き直した。


「何でって、くっついたら嬉しいから?推しカプ推しカプ~。」


「推しカプ言うんじゃねえ。見せもんじゃねえぞ。」


 軽いノリで言ったアリサは、両手をぱちぱちとゆっくり拍手するように合わせる。

 推しカプにされるのは勿論嫌だが、それ以上になぜ推しカプにされたのか。


「……推しカプって何。」


「知らねえなら聞くな。嫌な気分になるだけだぞ。」


 それをアーロンが聞こうとすると、ブレアが初歩的な疑問を唱えた。

 ルークが「俺の推しカプはルクブレですよ!」等と意味のわからないことを言っているが、無視をすることにする。


「何でよりにもよってオレとコイツなんだよ。推すならルーク推してやれ。」


「えー、でも1年の時からずっとアーくんを見てたウチとしてはぁー、むしろルーくんは邪魔っていうかぁ?」


 邪魔、と言われたルークがかなり傷ついているが、ブレアは全く意味が分かっていない。

 1人くらいまともに会話ができる人がいたらよかったのにな、とアーロンは内心で嘆いた。


「いらん応援すんじゃねえ。」


 アーロンが溜息交じりに言うと、アリサが不思議そうに目を瞬いた。

 ふざけているのではなく、本当に何故いらないのかわからない、といった様子だ。


「どしてー?アーくん、ゆりゆりのこと好きでしょ?」


「「……は?」」


 アリサが小さく首を傾げる。

 目を丸くしたブレアとアーロンの声が重なって、ルークがダンっと机を叩いた。

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