第93話 先輩の身長体重が知りたいです!
まじまじとブレアを見つめていたルークは、ブレアが引いているのも気にせずにきっぱりと言う。
「萌え袖可愛いので折らなくていいと思います!」
「萌え袖超えてんだよな。」
萌え袖と言われれば手のひらを覆うくらいまでのイメージだが、完全に指先までを覆い隠しているこれは萌え袖と言えるのだろうか。
運動をするときは危ないからちゃんと手を出すべきではないか。
「ジャージえっちですよね……さらに萌え袖で可愛いなんて最高ですか?」
「だから学校指定!エロくもなんともねえわ。」
なんだか懐かしい台詞だなと思いながら、アーロンは呆れたように返す。
ジャージで萌え袖をしている女子は結構いるが、ブレア程袖が余っていては運動もできないのではないか。
呆れたようにアーロンに見られ、ブレアは両手をひらひらと振った。
「……脱げ。」
「最低ですねアーロン先輩!通報しますよ!?」
「違えよ!?ジャージデカいなら体操着でやれって言ってんの!」
ルークが敵意を込めて睨むと、アーロンは慌てて否定する。
それくらいわかってほしい。というか魔道具も持っていないのにどうやって通報するつもりなんだ。
「無理だよ?だって体操着も持ってきてないから。」
「どゆこと?え、下、着てねえの?」
ブレアが当然のように頷いた。
「え、寒くねえの?」
「動いたら暑くなると思って。」
アーロンが信じられないものを見るような目でブレアを見る。
過剰に寒いのはアーロンだけだと思うが、それ以上に体操着を着ていないことに驚いている。
「女子でもんなヤツいんだ……。」
「僕女子じゃないかもしれないよ。」
「肉体の話をしてんだよ。」
またしても溜息をついたアーロンはそっとブレアから視線を逸らした。
怪訝そうにアーロンを見ていたブレアは「えっちでは……?」と呟いているルークをキツく一瞥する。
「なら着替えね?」
「取りに帰るの面倒だから嫌だ。」
この袖で運動をするのは大変ではないだろうか。
しかしブレアを取りに返したら2度と戻って来なさそうだ。
「お前ら今日体育あったからジャージ持ってんだろ。貸してやれよ。」
仕方がないのでアーロンはルークに声をかける。
服を借りてあんなに喜んでいたルークのことだから、貸すのも喜ぶだろうと思った。
「え、持ってますけど汗かいたかもしれない……。」
「女子か。」
戸惑うルークにアーロンは苦笑する。
「お前が貸さねえならコレ貸すことになるが?」
「貸します。」
アーロンが自分が着ているジャージを指差すとルークは即答した。
ブレアがアーロンのジャージを着るのは嫌なようだ。
「よかったな。オレら一旦外でてっからとっとと着替えろ。」
まだジャージを渡してはいないが、アーロンは先に出て行こうとする。
「わざわざ外出るの?後ろ向いててくれたらいいよ。」
「少しくらい警戒心を持て。ルークが見るかもだろー。」
冗談でアーロンが言うと、ルークが悲しそうに顔を曇らせた。
「俺そんなことしませんよ?俺のこと何だと思ってますか!?」
「変態。」
きっぱりとアーロンが言うと、ルークは不満そうに声を上げる。
間違ってはいない。ルークも変態級にブレアが好きな自覚はあるので否定はできない。
ルークからジャージを受け取ったブレアは魔法を使って一瞬で着替えた。
「君がそんなに気にするなら、魔法使うけどね。」
「魔法でできるなら早く言えよ。」
アーロンが呆れたように眉を下げる一方で、ルークは赤くなった顔を手で覆った。
「何も見えてなくても、“先輩が目の前で着替えた”っていう事実だけでなんか……えっちですよね。」
「重症だなお前。1回病院行った方がいいぞ。うちじゃなくて精神科。」
ルークの反応に、2人ともドン引きを通り越して最早心配している。
なんとも言えない視線を向けられているのに、ルークは全く気にしていない。
「先輩が俺のジャージ着てる……彼シャツ……!ちょっとぶかぶかで可愛いです、めちゃくちゃ可愛いです。はっ、先輩の左胸に俺の名前って、つまり結婚では!?」
「拡大解釈キモい……。」
間近でじっとブレアを見つめるルークは喜びを噛み締めている。
ルークのよりもブレア本人の物の方が彼シャツっぽかったことは納得いかないが、不満よりも喜びが勝つ。
何気に念願だったのだ。
若干怖くなったブレアが自身の両腕を抱くように撫でると、「その仕草も可愛いです!」とルークは嬉しそうに笑った。
アーロンは後ろから、そんなルークの頭をバインダーで叩く。
「痛いです……結構本気で殴りませんでした!?」
「お前丈夫そうだからいいかと思って。そろそろ始めたいから離れろ変態。手伝わねえなら遠くから眺めとけや。」
ルークが渋々といった様子で数歩下がった。
ブレアも早く終わらせたいので、しっかりと壁に体をつけて待っている。
「待つな。手伸ばせ。お前人の倍測らねえと何だからテキパキ動け。」
「何で倍測るんですか?」
「女と男で2回。本当に面倒。」
体を前に倒しながらブレアが答える。
喋りながらもブレアの背を叩いてもういいと合図をしたアーロンは、数字を確認して記録用紙に書き込む。
その様子を見ていたルークは真剣な顔で「アーロン先輩、」とアーロンに近づいてきた。
「どした?」
「それ体力測定の記録用紙ですよね。見せてください。」
アーロンは怪訝そうに眉を寄せて、「理由は?」と聞く。
あまりにも真剣なので、何となく見せるのに躊躇してしまう。
まだ殆ど書いていないが、見て何があるのだろうか。
「先輩の身長体重が知りたいです!」
堂々としたルークの答えを聞いて、アーロンは顔を歪める。
バインダーに挟んだ用紙をルークに見せる――のではなくバインダーで思いっきり頭を殴った。
「痛いっ!痛いですアーロン先輩っ!さっきより痛いです!」
「本気で殴った。デリカシーって知ってるか変態?」
頭を押さえるルークにアーロンは記録用紙を見せる。
殴ったのに見せるんだ……と思って見るが、身長の欄も体重の欄も空白だった。
「書いてないですね。」
「オレは配慮ができる男だから見ねえの!全部測り終わった後、提出直前にコイツが書いて出せばいいだろ!」
不思議そうに空欄を見つめるルークに、得意気にアーロンが言う。
会話を聞いていたブレアは不満そうにえー、と声をあげた。
「書くの面倒だから君が書いてよ。えーっと、女の時の身長が151cmで、体重が――」
人差し指を頬に当てて考えるブレアの頭のすぐ横の壁を、アーロンはドンッと叩いた。
ルークのことは容赦なく叩いたが、この見た目のブレアは少し気が引ける。
「気にしろ。人の気遣いを無駄にするな。」
「待ってください先輩151㎝なんですか?俺166㎝……15㎝差ぴったり、運命ですね!!」
半ギレの顔で無理やり笑みを作ったアーロンが言うが、ルークは嬉しそうに笑っている。
以前ブレアと15㎝差になりたいという話をしていたのだが、まさかすでにぴったりとは。
感動していたルークは、アーロンを見てハッとしたように叫ぶ。
「アーロン先輩、壁ドンは駄目です!先輩に壁ドンなんて許されません!」
「……お前ら嫌だよもう……。」
力なくバインダーを持つ手を下したアーロンは、大きな溜息をついた。
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