第85話 アーくんと付き合うんだと思ってたなぁ
翌日の昼休み、何故かブレアがアーロンの席の前に来た。
不満そうにムッとした顔で見下ろしてくるブレアが何を考えているのかわからず、アーロンは戸惑ったようにブレアを見る。
「……どした?」
「……余計なこと言わないで欲しかったなって。」
おそらく怒っている様子のブレアだが、言っていることがわからない。
アーロンは怪訝そうに顔を顰めた。
特に余計なことを言った覚えがないどころか、今日はほとんどブレアと会話していないはずだ。
「オレ何か言ったっけ?」
「『もうすぐ冬休み』って言った。」
表情ひとつ変えずにブレアが答えるが、アーロンの疑問は解消されない。
確かに昨日言ったが、余計なことではないだろう。
「君が変なこと言うから、彼がやたらひっついて来てうざい。」
「あーね。それオレが悪ぃの!?」
今朝までの出来事を思い出したブレアは嫌そうな顔をする。
アーロンの昨日の発言で、ルークは冬休みは家に帰る=ブレアとしばらく会えなくなると気づいてしまった。
そのせいで『会えなくなる分の先輩を摂取させてください』などと言って、昨日から異様にひっついてくるのだ。
ブレアは普段通りに過ごそうと努めたのだが、気が散るわ動きにくいわで迷惑この上なかった。
「ひっついてくるって、アイツお前に接触できんの?触ったら色んな意味で死ぬんだと思ってたんだが。」
本人の前でも容赦なく変態発言をするルークだが、変態なりにしてはいけないことのラインはあるらしい。
以前身体に触るのは駄目的なことを言っていたのだが、もうよくなったのだろうか。
あと寮室でそういうことをするとリアムに殺されるだの何だのと言っていたが、あれは流石に冗談だったのだろうか。
「ギリギリ触らないくらいの距離をずっと保ってた。あそこまでくると触られるより怖いね。」
「キッモ。何その変態スキル怖えわ。マジでお前部屋変えた方がいんじゃねえの?」
「君に言われても……説得力がないな。」
アーロンは平然というブレア以上にドン引きしている。
確かに触れてはいないようだが、逆に怖くなってきた。
「ゆりゆりーっ!今日も好きピ来るぅー?」
「きゃっ!?飛びつかないでって言ったよね。」
デジャヴを感じながら、ブレアはアリサを軽く睨みつける。
急に抱き着いてくるのは危ないからやめてほしい。
しかもついでにベタベタと身体を触ってくるので、かなり嫌だ。
「いーじゃーん、今日も好きピ来るんでしょぉ?」
「好きピじゃないって言ってるでしょ。」
鬱陶しそうに答えるブレアを見て、アーロンはわざとらしく首を傾げる。
「えー好きピだろ。そろそろ認めろよ?」
「認めるも何も好きじゃないから!」
煽ってくるアーロンをブレアは更にキツく睨みつける。
睨まれたアーロンは怯むことなく、ニヤッと笑って見返した。
「好きじゃねえヤツには、間違っても『ずっと一緒にいてほしい』なんて言わねえが?」
「なっ、それは違……!忘れて!」
「えー何それ、ウチにも詳しく教えて〜?」
一気に顔を赤くして叫ぶブレアの頬を、アリサはツンツンとつついた。
流れるようにポケットから記録用魔道具を取り出したアーロンは、ブレアの赤くなった顔を撮影する。
「顔真っ赤になってんじゃねえか。それで好きじゃねえは無理あるわ。」
「無理ない、好きじゃない!君は触らないで。」
アーロンを睨みつけたブレアは、頬をつついてくるアリサの腕を掴んで退ける。
そのままアリサを引き剥がそうとするが、察したアリサはぎゅっと腕に力を込めた。
「嫌ぁだー!その話詳しく教えてくれるまで離れない!」
「教えないけど離れて。」
まだ赤い顔のブレアが怒っても、アリサは更に腕に力を込めるだけで一向に離れない。
「先輩!」
入口に来ていたらしいルークが、遠くから叫んできた。
一同が入口の方を見ると、ルークは早足で近づいてくる。
「先輩、やっぱりその人――アリサ先輩と付き合ってるんじゃないですか!?」
「付き合ってない。」
間の悪いヤツだな、とアーロンは声に出さないように笑っている。
遅れて入ってきたヘンリーは、アリサを見て首を傾げた。
いつもはいない人がいる、しかもブレアに抱きついている。どういう状況なのだろうか。
「抱きつかれてるのに先輩嫌がってない――どころか満更でもなさそうじゃないですか!何で顔赤くなってるんですか可愛いですね、俺以外の前でそんな顔しないでください〜〜っ!!」
嘆いているルークを見て、ブレアは困ったように顔を逸らした。
そんなことを言われても困る。ブレアだって困っている。
「何でクラスメイトに抱きつかれて顔赤くなってるんですか?怒らないんですか?」
「君が来る前に怒ったよ。」
面倒そうに答えながら、ブレアはくっついてくるアリサを剥がそうとする。
頬の赤みはとうに引いているが、ルークはそれでも納得できないようだ。
ブレアに抵抗するようにしがみついたアリサは、ルークを見上げるとにまーっと笑った。
「あれぇ、嫉妬ですか〜?」
勝ち誇ったように笑うアリサを見て、ルークは真剣な顔で眉を寄せた。
「もうめちゃくちゃ嫉妬してますよ!?とりあえず先輩から離れてください、2mくらい。」
「目が怖え、しかも遠い。一旦落ち着け、コイツは誰にでもんな感じだから!」
真剣な顔で鋭くアリサを見つめるルークを、アーロンは落ち着かせようと宥める。
ルークが暴走する前に離れてほしいのだが、アリサは全く動かない。
「えへへ、ルーくんはゆりゆりに抱き着いたことないのかなぁ?ごめんねリサはあるのぉ!」
アリサはぷぷぷ、とわざとらしく笑って言う。
この人、完全に面白がってるな、とヘンリーは思った。
「事故でしかないですよ!先輩に触らないでください!」
「事故って……事故は駄目でしょ。」
ルークの言葉にヘンリーは苦笑する。
「わかってる!」と勢いよく答えたルークは、再びアリサの方を見た。
「仮にその、えーっと――そちらの先輩が誰にでもそうだとして!先輩はどうなんですか!?何赤面してたんですか、その人のこと好きなんですか!?あとゆりゆりって渾名可愛いですねよく似合ってます。」
「全く好きじゃない。」
ルークに詰め寄られたブレアは無表情で答える。
迷惑しているだけなのに、何故自分が怒られているのかわからないようだ。
アーロンは『赤面してたのお前の話してたからだぞ。』とは言えずに、笑って見ている。
「好きでもない人に抱きつかれてそんな顔しますか!?もし俺に抱きつかれても赤面できますか!?」
「ルークくんに抱きつかれたら顔面蒼白じゃない?」
苦笑したままさらりとヘンリーが言うと、ルークは「酷い!」とそちらを見る。
静観しようと思っていたのだが、つい言ってしまった。
好き嫌い以前に自分のことを好きすぎる変態に抱きつかれたら怖いだろう。
ヘンリーが「ごめんつい……。」と謝っていると、教室に入って来たエマが早足でやってきた。
「あっ、リサってばみんなと話してたの?」
「エマちだぁ〜!」
エマを見て嬉しそうに顔を輝かせたアリサは、バイバーイ、と一同に手を振る。
「リサが学食行こうって言ったから、Aクラスで待ってたのに全然来ないじゃない。」
「ごめんねぇ。ゆりゆりが面白くて!行こいこ〜。」
エマの方に駆け寄ろうとしたアリサは、ルークの前で立ち止まった。
赤色の瞳にじっと見上げられ、ルークは戸惑ったように目を逸らした。
アリサは再び歩き出すと、ルークとすれ違う時に小さな声で呟く。
「……ゆりゆりはアーくんと付き合うんだと思ってたなぁ。」
「え……?」
ルークが驚いて振り返るが、アリサはエマを引っ張って行ってしまった。
「……アーくんって、アーロン先輩のことですよね?」
「そうだが。リサちお前が来てからそれ言ったっけ?」
アーロンには聞こえていなかったようで、「何で知ってんだよ。」と怪訝そうにしている。
「あの、先輩とアーロン先輩って付き合ってましたか?」
「「は?」」
ブレアは『何回同じようなことを聞いたら気が済むの。』と言おうと思ったが、アーロンなどと誤解されるのが嫌すぎてルークをキツく睨んでしまった。
それはアーロンも同じことで、ルークの発言は双方から強く否定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます