第75話 ゆりゆり言わないで気持ち悪い
アーロンが魔道具を仕舞って顔を上げると、アリサが「あっ。」と声をあげた。
「おー、アーくんピアス変えた?イケてるぅ!」
「だろ。昨日出掛けた時いいの見つけたから変えた。」
アーロンが得意気に言うと、アリサはにこにこと笑った。
2人を見て、ブレアは不思議そうに首を傾げる。
「仲いいんだね?」
この2人面識あったんだなーとブレアはぼんやりと考えているが、当然である。
アリサもアーロンも、ついでにブレアも1年生の時から同じクラスなのだから、むしろ認知していなかったブレアの方がおかしい。
「いいな。ダチのダチはダチみてえな?おい手やめろ。」
立ち上がったアリサに耳を弄られ、アーロンは鬱陶しそうに手を払う。
アリサは背が低く、無理をして背伸びをしている。
「いいねーこれ、ウチもオソロしよっかなー。」
アリサが軽いノリで言うと、アーロンはこれ以上見られないように耳を塞いで隠す。
「なんでだよ。お揃いしてえならジュンと選びに行ってこい。」
「あれー、アーくん照れてる?ねえ聞いてゆりゆり〜ジュンジュンってね、アーくんのルームメイト。」
突然アリサに話を振られたブレアは困ったように顔を顰める。
2人で話していると思っていたのに絡まれると思っていなかったようだ。
「君、ルームメイトいたんだね。」
「いるに決まってんだろ。オレは普通だから、いつまでも1人部屋じゃねえっつーの。」
意外そうに少し目を丸くしてブレアが聞くと、アーロンは顔を歪めて答えた。
その間も“ジュンジュン”というらしい人についてアリサが何やら語ってくる。
「誰ジュンジュンて。」
よくわからないが鬱陶しい、とブレアは少し大袈裟に嫌そうな顔をする。
本当にわかっていない様子のブレアに、エマは苦笑している。
「えー知らないのぉ?3年間同じクラスなのにー?」
「ジュンな。リサちの彼氏。」
アーロンの訂正を聞いても、ブレアには誰かわからない。
渾名だからわからないなどではなく、本当に聞いたこともない気がする。
彼氏だろうがなんだろうがどうでもいいが、そんなことより別のことが気になってしまった。
「うわあ、君この子のこと渾名で呼んでるんだ……。」
「そこ!?キモいって言いたそうな顔してんな?いいだろ別に。」
「この子じゃない、リサちー!」
ほぼ同時にブレアの方を向いた2人に、ブレアは少しだけ目を丸くする。
2人同時に喋られると、なんと言っているのかわからない。
相手がするのが面倒だ、とブレアが顔を逸らすと、アリサはアーロンの方を見た。
「アーくん、今日弟くんはー?」
「弟も課外学習。お前ら面白えから一緒に昼食ってもいい?」
アリサが聞くとアーロンは簡潔に答える。
本当はさっきの会話が少し聞こえていたので『ゆりゆりの好きピと同じで』と言おうと思ったが、怖いのでやめた。
「いいけど〜、女子3人に混ざってハーレム狙いに行くアーくん、嫌いじゃないぜ。」
「意味わからん。狙ってねえし女子3人じゃねえが?斜め前に座ってるヤツ黒よりのグレーだぞ。」
2人に見られたブレアは心底嫌そうに顔を顰める。
アリサはアーロンが一緒でもいいかもしれないが、ブレアは全然よくない。
勝手に決めないで欲しい。
「アーくんとお昼食べるの久しぶりだねぇ、嬉〜。」
アーロンがアリサの隣に座ろうとすると、アリサはハッとしたような顔をする。
そのまま伸ばした足をアーロンが座ろうとした席に乗せて、2人分の席を取った。
「何だその謎行動。」
アーロンが怪訝そうに聞くと、アリサは焦ったように目を泳がせる。
「えーっと……アーくんの席ねえからぁ!」
「古典的ないじめみたいなセリフやめろ。何?リサち実は俺のこと嫌いなの?」
椅子に乗せた足をバタバタと動かしたアリサは、ブレアの方を見てから、再びアーロンに目を向けた。
「ゆりゆりの隣へどーぞ!」
「いやおかしいだろ。3対1の構図変だと思わねえの?」
呆れたような顔で見下ろされたアリサは「ゆりゆりの隣へどーぞ!」ともう一度繰り返す。
全くアリサの考えていることがわからず、アーロンは困ったような顔をしている。
「ゆりゆりの嫌そうな顔見てみろ、“どーぞ!”って思ってんのお前だけだが?」
「ゆりゆり言わないで気持ち悪い。」
あからさまに嫌そうな顔をしていたブレアの眉がますますキツく寄る。
アリサに“ゆりゆり”と呼ばれるのも嫌だが、アーロンに呼ばれるのはそれ以上に嫌なようだ。
「お前に似合わず可愛い渾名だから呼んでやろうと思ったのに。なーゆりゆり!」
「うわぁ、無理。その口一生開かなくしてあげようか。」
けらけらと楽しそうに笑う声を聞いて、ブレアは寒気に似たものを感じた。
ブレアがすっと右手を掲げるのを見てアーロンは慌てて謝る。
「悪ぃ悪ぃ、オレへの当たり強くないっすかユーリーさん。」
「それでいい。」
満足そうに頷いたブレアは、アリサににこにこ――というよりニマニマした顔で見られていることに気がつく。
ルークと違って気持ち悪くはないが、なんだか怖い。
「言いかげん足退けてくんね?ユーリー嫌がってっし行儀悪ぃぞ。」
「ならリサはゆりゆりを超える嫌そうな顔をします。」
アリサはきゅっと唇を引き結んで懸命に眉を寄せた。
嫌そうな顔、というより軽めの変顔に見える。
「お前の思う嫌そうな顔それなの?別により嫌な顔した方の要求を呑むわけではねえんだが。」
「なら私がリサの隣に行きましょうか?で、アーロンくんがここに来ればいいんじゃない?」
「おお、なんか悪ぃ。」
エマが席を立つと、納得したようでアリサも足を退ける。
気まずそうにブレアの隣に座ったアーロンは、まだ嫌そうな顔をしているブレアを見てぷっと吹き出す。
「嫌なら顔で語ってねえいで声だせ。んなにオレの隣嫌かよ?」
「別に。誰でも嫌だけど。」
アーロンが「傷つくー。」などと笑いながら言うと、ブレアは小さく溜息をついた。
ブレアは1人で過ごしたいので、隣がアーロンでなくても変わらない。
「まあいいけどな。……リサちはどんな顔してんのそれ。」
アリサがニマニマと笑っていることに気がついて、アーロンは怪訝そうに聞く。
気になっているのが自分だけではないとわかったブレアは少しホッとしている。
「えへへー別にぃ?」
「何もねえのにんなに笑ってるわけねえだろ怖えな。」
にこーっと笑うアリサに、アーロンは若干引いている。
何も面白くないのに、何笑っているんだろう。
「仲良しだなあって思って。」
「「仲良くない(仲良くねえ)。」」
「仲良しにしか聞こえないわよ?」
2人が声を揃えて反論するので、アリサがますますにこにこと笑う。
本人達は、本当に仲が悪いのに、エマにまで仲良しだと言われて不満そうだ。
「仲良し仲良し〜、ゆりゆりの好きピ達が課題終わるまで4人で食べようよ!ウチこのメンツ気に入っちゃったぁ。」
「えぇ。」
小さな声をあげたブレアは嫌そうに顔を顰めて溜息をついた。
心底嫌だが、もう好きピではないと訂正することも、断ることも諦めたようだ。
(……彼の課外学習、早く終わらないかな……。)
ぼんやりとそんなことを考えたブレアは、はっとして思考を中断する。
これではルークに会いたいみたいではないか。
それはない。ただ早くこの謎のメンバーでの昼休みから解放されたいだけだ。
ブレアはぶんぶんと首を振ると、エマに「どうしたの?」と心配されてしまった。
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