第73話 やめましょうこの話!俺が嫉妬で狂います
黙ってエマの話を聞いていたルークが、突然机をバンっと叩いた。
音に驚いたブレアは顔を顰めて「どうしたの。」と聞く。
「やめましょうこの話!俺が嫉妬で狂います。」
「ルークくん元々狂ってるからいいんじゃない?」
「それはそう!だって先輩が可愛すぎる!」
ヘンリーが苦笑すると、ルークは大きく頷く。
狂ってることは認めるんだ……とエマはヘンリーと同じように苦笑した。
「エマ先輩が羨ましいです……俺も先輩のイケメンムーブ浴びたい、先輩に服貸してもらいたい……。」
「君が今着てるのは誰のなの?」
ルークは悔しそうにエマを見て言うが、そんなことエマに言われても困る。
ブレアは呆れたようにルークのカーディガンの裾を引いた。
「先輩のです。でもシチュエーションが違うじゃないですか……そして裾クイ可愛いです先輩……!」
ルークがキラキラと目を輝かせると、ブレアはすぐに手を放した。
ルークは少し残念そうだが、こうなることはわかっていたのであまりショックではない。
「勿論ブレアはすっごくかっこよかったけど、ルークくんといる時のブレア、とっても可愛いからいいじゃない。」
「先輩はいついかなる時も最高に可愛いですよ!でもやっぱりイケメンな先輩も見たいじゃないですかぁー!先輩、次男になる予定はありますか!?やっぱり体育の時ですか?」
ニコニコと笑ってエマが言うと、ルークはすかさず反論する。
そもそも可愛いブレアを好きになったのだから、ブレアが女体でいる方が嬉しいのかと思っていたが、そうでもないらしい。
「ブレアが男の子になってるの見るのは、大抵体育の時ね。次の時間で魔法を使うことが多いからすぐ戻っちゃうんだけど。」
「やっぱりそうですか!?うぅ、先輩と同じクラスになりたい人生でした……。」
体育の時は基本男体でいるブレアだが、大抵次の時間までに女体になってしまう。
なのでルークが男体のブレアをお目にかかれるのは魔法の特訓に行く時くらい――なのだが、それも目的地に着いたら女体になる。
何が言いたいかというと、ルークは男体のブレアのことももっと見たい。
「残念だけど、年齢と頭が足りないね。」
「あああ先輩、正論ですけどそんな可愛いことしないでください、脳が溶けます。」
ブレアが指先でルークの頭をつんと叩くと、ルークはにやけた口元を抑える。
今更抑えても全員にバレている。
「というか先輩今『残念だけど』って言いました!?残念?それは俺と同じクラスになりたかったってことですか?」
「は?違うけど?こんな煩いのが同じクラスとか絶対嫌だ。」
ブレアが顔を顰めて答えると、ルークは「ですよね……。」と項垂れた。
ちょっと期待はしたものの、どうせそう言われるだろうと思っていた。
「エマ先輩とユーリー先輩はずっと同じクラスかと思ってました。初対面の人とペア学習って大変ですね。」
「大変だったわよ。でもブレアはいい子で魔法の腕も頭もいいから、助かることの方が多かったわ。」
ヘンリーが聞くと、エマは嬉しそうににこりと笑う。
最初はどうなることかと思ったが、本当にブレアがペアでよかったと思っている。
「僕も、面白いものも見れたし、エマでよかったと思ってるよ。」
「先輩はまたそういう好きになりそうなことを言う!俺にも言ってください。」
薄く微笑むブレアをルークはじっと見るが、ブレアは無表情で見返す。
「……君に言うことは何もないかな。」
「釣れないですね……でもそんなところも素敵です!」
あっさり告げるブレアにルークは笑顔のまま少し距離を詰める。
もうこの程度では折れないルークだが、ブレアはさりげなく移動して距離を元に戻した。
「ルークくん『この話やめましょう』って、もう終わりでいいの?まだ全然参考にならないんじゃない?」
「オレはルークくんが満足したならいいですよ。どっちにしろ、あまり参考にならないって気づきました。」
エマが話を戻すと、ヘンリーは小さく首を横に振った。
特にそんなつもりはなかったのだが、エマが「私の話そんなに駄目!?」と悲しそうな顔をする。
「いえ、話はすごく面白いんですけど……先輩方とオレ達、課題の内容違うみたいです。」
「そうなの?」
ヘンリーの訂正にエマは不思議そうに聞き返す。
時期が同じなのでてっきりこれのことだと思っていたが、違ったのか。
「内容が変わったのか、クラスごとに違うのかはわからないですけど、オレ達は普通に調べたことをまとめるだけなので、期限も全然違います。」
「じゃあ参考にはならないわね。ごめんね。」
エマはホッとしたような表情で謝る。
参考にならなかったのは残念だが、内容が違うなら仕方がない。
「なるべく早く終わらせるのでその間先輩をよろしくお願いします!」
「だから僕はよろしくされなくても大丈夫だってば。」
ルークは改めてエマに深々と頭を下げる。
ブレアは不満そうに抗議するが、やっぱりブレアが1人で昼食を食べられるとは思えない。
「任せて!ブレアがちゃんと残さず綺麗に食べるように見とくわ。ルークくんとヘンリーくんも、安心して課題頑張ってね!」
「ありがとうございます。」
ヘンリーは何も安心することはないが、ルークは心底安心しているようだ。
そんなにブレアが心配なのか。
「ありがとうございます!死ぬ気で頑張るので先輩も応援してください。」
「仕方ないなあ、頑張れー。」
ルークに期待に満ちた目を向けられたブレアは、無表情の棒読みで言う。
全然応援する気のなさそうな態度だが、それでもルークは嬉しい。
「はい!めちゃくちゃ頑張りま……!?」
嬉しそうに返事をしようとしたルークは目を丸くして固まってしまう。
何故かというと、じっとこちらを見つめているブレアが、伸ばした手をルークの頭に置いたからだ。
そのままその手を動かして、ルークの頭を撫でている。
「ユーリー先輩、どうしたんですか?」
顔を真っ赤にして固まっているルークの代わりにヘンリーが聞く。
何を思っての行動なのかはわからないが、ヘンリーもかなり驚いている。
キラキラと目を輝かせたエマに見られていることに気がついて、ブレアは居心地が悪そうに眉を寄せた。
「別にどうもしてないよ。イケメンムーブ浴びたいって言うから、撫でてもらいたかったのかなと思っただけ。」
固まったままのルークがえ、と小さく声をあげるのでブレアは「違った?」と首を傾げる。
さっきの話でエマにしたことで、ルークが欲しがるといえばこれか、と思った上の行動だった。
「それで撫でてくれる先輩優しすぎませんか?ちょっとズレてるところも可愛い、愛おしいです先輩……!抱きしめていいですか。」
「え、無理やめて。」
ルークが両手をブレアに向けると、ブレアはすっと手を離してルークから離れる。
ズレてると言われたことも、抱きしめられることも嫌なようだ。
「ああっ、すみません冗談なのでやめないでください、もっと撫でて欲しいです!」
「嫌だ。おしまい。」
悲しそうなルークが距離を詰めると、ブレアは立ち上がって離れてしまった。
「先輩の手小さくて可愛かったです、ニヤけが隠せません……。」
「やめて!」
ブレアは少し紅潮した頬を見られないように、ぷいと明後日の方向を見た。
何も言わなかったらもっと撫でてくれたのだろうかと思うと少し惜しいが、それでもとても嬉しい。
この後ずっとルークが嬉しそうにニヤけて見てきていたので、ブレアは自分の行動を後悔した。
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