第68話 先輩のことをよろしくお願いします
エマが何気に毎週楽しみにしている、1年生に魔法を教える授業。
少しずつ難しいこともできるようになってきて、今日は中級魔法の練習をした。
今日の授業もとても楽しかったのだが、今エマはとても困っている。
授業が終わるなり、何故かルークに深々と頭を下げられたからだ。
「一生のお願いがあります!!」と言われたのだが、そんな重いお願いを何故エマにするのだろう。
まだ内容は聞いていないが、期待に応えられる気がしない。
困り果てたエマは、助けを求めるように隣のブレアに目を向ける。
「……何で僕を見るの。」
「ブレア絡みかなって思って。」
ブレアはすぐに目を逸らした。
絶対何かわかっている反応だなと思った。
「ルークくん、お願いの内容を言わないと、エマ先輩が困ってるよ?」
ヘンリーに指摘されたルークははっと顔をあげて、真剣な表情で口を開いた。
「エマ先輩――来週まで、先輩と一緒に昼休みを過ごしてほしいんです!」
「……それだけ?」
真剣な顔で一生のお願い、と言うからどんなものかと思ったのに。
拍子抜けしてしまったエマは、反応に困って苦笑した。
SHRを受けなければいけないので解散したため、詳しい理由は聞いていない。
終わったら教室に来るとルークが言ったので、エマはブレアとともにルークが来るのを待っている。
ブレアは何故自分も待たなくてはいけないのかと不満そうだが、ブレアだって関係あるのだから当然だ。
走って来たのだろうルークが、10分も経たないうちに教室に入ってきた。
「お待たせしました先輩方!」
「そんなに待ってないから大丈夫よ、ブレアの隣座ったら?」
ルークがブレアの隣に座っても、ブレアは気づいていないかのように本に視線を落としている。
少し寂しそうにしながら、ルークはエマの方を向いた。
「改めてお願いします、来週まで先輩と一緒にいてください!」
「別にいいけど……どうしたの?」
深く頭を下げるルークに、エマは戸惑いながら尋ねる。
嫌ではないからいいのだが、何故わざわざエマに頼むのだろうか。
それも深刻そうに。
「俺は先輩についていてあげられないので……!代わりに先輩のことをよろしくお願いします。」
「僕のことをよろしくって何。」
ブレアが怪訝そうに顔を顰めるので、ルークはまっすぐにエマを見ていた目をブレアに向ける。
「先輩のお世話です。」
「お世話いらないけど。僕のこと幼児か何かだと思ってる?」
「先輩、絶対俺がいないとご飯食べないじゃないですか!1人でご飯食べれないのは幼児同然では?可愛いですね好きです、一生お世話させてください!」
ますます怪訝そうに眉を寄せたブレアに、ルークは勢いよく言う。
叱っているのか褒めているのかどっちなのかわからないが、兎に角ブレアからすれば不快だ。
100歩譲ってリアムはよくても、年下のルークに幼児扱いされるのは納得がいかない。
「じゃあちゃんと食べるから、それでいい?」
「大変申し訳ないですが信用できません。なのでエマ先輩から先輩に食べるよう言ってほしいんです。」
諦めてブレアが言っても、ルークは再びエマの方を向いた。
ルークは絶対食べないと思っている。「あ、忘れてた。」とか言って食べないと思っている。
「え、ええ、それはいいけど……ルークくんはお昼休み来ないの?」
「俺はしばらく来れません。すみません先輩……。」
「2度と来なくてもいいよ。」
悔しそうに唇を噛むルークをブレアは冷たい目で見る。
エマに「素直じゃないんだから。」と笑顔で言われたブレアは、誤魔化すように顔を背けた。
「来れないって、どうしたの?」
「俺は勿論どんな用事よりも先輩を優先したいのですが、課題なので……!ペア学習なので……!」
ルークが心底悔しそうに言うので、エマは無意識に責めてしまったのかと不安になってしまう。
昼休みに課題、しかもなんだか大変そうだが、一体何があるのだろうか。
「普通に課外学習ですって言いなよルークくん……。」
つい先ほどやってきた様子のヘンリーが、呆れたように苦笑する。
会話を全部聞いたわけではないが、それでもわかる大袈裟なルークに呆れているようだ。
「あーこの時期の課外学習!懐かしいわね。」
「懐かしいの?そんなのあったっけ。」
にこりと笑ってブレアを見たエマは、ブレアに首を傾げられて悲しそうに眉を下げる。
「忘れちゃったの!?酷い〜。」
「そんなこと言われても……思い出すから何したやつか教えてよ。」
「私と初めて会ったやつよ!出会いの思い出は大事に覚えておいてよー!」
うんうんと頭を捻っていたブレアは、エマに言われて「あぁ、」と納得したように声をあげた。
「大丈夫、勿論覚えてるよ。」
「ユーリー先輩、それ記念日忘れてた彼氏が言うやつです。」
苦笑混じりに言われたブレアは「本当に覚えてるよ。」と不満そうに返す。
失礼だけど覚えてなさそうだな、と思っているヘンリーは、ルークにぽんと肩を叩かれた。
「……先輩はエマ先輩の彼氏じゃないはず。」
「冗談だよ?ごめんて、そんな怖い顔しないで。」
鋭い目で見てくるルークに謝りながら、ヘンリーはそっと肩に置かれた手を退けた。
一方でブレアはエマに本当に覚えているのかと疑いの目を向けれられている。
「覚えてるってば。1年の時はSクラスが奇数だったから、僕がAクラスの人と一緒にやることになって……その相手がエマだったんだよね。」
記憶を辿りながらブレアが答えると、エマは嬉しそうに笑う。
「そうそう、先生からSクラスの人――しかもブレアと組んで欲しいって言われた時はびっくりしたし不安だったけど、すっごく優しい人で安心しちゃった。」
「僕は会ってからの方が不安だったよ。『うわあ、真面目そうな人来た、絶対面倒……。』って。」
「酷い!」
眉を下げて言ったブレアがくすくすと笑いだす。
エマも酷いと言いつつも顔が笑っている。
「ね、覚えてたでしょ。ペア学習ってペアですることだから、1人でやろうとしちゃダメだからね。」
ルークとヘンリーの方を見たブレアは注意するように言う。
当たり前のことを言っているだけに聞こえるが、本人は真剣に言っている。
「なら遅刻しないで来て欲しかったなー?」
「それはごめん。」
じーっと抗議の目を向けてくるエマにブレアは素直に謝った。
1年の時にブレアが遅刻したのだろうか。
どうしても気になったルークは、名案だ!とでも言いたそうに大きな声を出した。
「よければ先輩方の時の話聞かせてください!」
「いいね、オレも聞きたいです。」
キラキラと目を輝かせてルークが言うと、ブレアは嫌そうに顔を顰めて「何で?」と聞く。
自分のことを話すのはあまり好きではないようで、かなり不満そうだ。
「ちゃんとできるか不安なので、先輩方がどんな感じだったのか聞けば、参考になるかなと。……ルークくんは多分何か違う理由だね?」
「いえ、俺もヘンリーと全く同意見です!」
ヘンリーに横目で見られたルークはキッパリと答えた。
本音は1年生の時のブレアがどんな感じだったのか知りたいだけだが、そんなことを言ったら話てもらえない気がするのでヘンリーに合わせる。
「そういうことならまかせて!参考になるかはわからないけど……。」
「勝手に任されないで。変なこと言わないでよ?」
ブレアは渋々了承して、小さく息を吐いた。
あくまでエマが話すのを聞こうとしていて、自分が話すつもりはないようだ。
「あのね、1年生の時、ブレアとはクラスが違ったから会ったことなくて――」
そんなブレアの様子など気にしていないかのように、すっかり話す気満々なエマは楽しそうに笑って語り始めた。
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