第67話 先輩の一挙一同全てが可愛くて心の底から大好きです!!
昼休みになり、ヘンリーと共に3ーSの教室にやってきたルークは、ブレアの姿を見るなり「あっ!」と声をあげる。
「先輩マスクは!?風邪治ったんですか?」
「…………うん、まあそんな感じ。」
嬉しそうに駆け寄ってくるルークから逃げるように、ブレアはそっと目を逸らした。
不機嫌そう、というよりは気まずそうといった感じで、やっぱり拗ねてなどいないではないか、とヘンリーはアーロンを見た。
ブレアの隣に座っているエマは、じっと2人のやりとりを見守っている。
「やっぱりマスクしてない方がかーーいえ、えっと、お昼食べますか?」
「……いらない。」
何事もなかった風を装って聞くルークの話し方は、かなりぎこちない。
“好き”と“可愛い”を封じただけでこんなに喋りづらくなるとは、ルーク本人も驚いている。
「いらなくないですよ!?ちゃんと食べてください!」
「……じゃあ、自分で食べる。」
「えっ。じ、自分で、ですか?」
ルークは目を丸くしながらも、ブレアの分の弁当を渡す。
「どういう顔だよそれ。」
ブレアが受け取ると複雑な顔になったルークを、アーロンは呆れながら撮影した。
驚いているのか喜んでいるのか、はたまた悲しんでいるのかわからないが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「先輩が1人で食べられるようになって嬉しいけど食べさせてあげられなくなって悲しい顔です。」
「親かお前は。何でオレにだけ言ってくんの?ユーリーに聞かれたくない?」
マジでどうした?とアーロンは心配そうにルークを見ている。
普段ならどんな変態発言も本人の前で堂々とするのに、なぜこそこそしているのだろうか。
「先輩が本当に自分で食べてる……!」
「ルークくんも食べよう?まず座りましょ?」
エマと昼食を食べ始めたブレアを、ルークは感極まったようにじっと見て呟いた。
小声のつもりなのだろうが、しっかりブレアの耳にまで届いている。
立ったままぼーっとしているルークが気になるようで、エマは困ったように首を傾げた。
「で、アイツ何かおかしかった?」
「何かルークくん、ユーリー先輩に“好き”とか“可愛い”って言わないようにするんだって。」
アーロンがこそこそと問いかけたのに、ヘンリーは普通の声量で答える。
勿論一同に聞こえて、手を止めたブレアは怪訝そうにルークを見た。
「……何で。」
「先輩怒ってますか?」
無表情で言うブレアの声に抑揚はないが、おそらく疑問系だろう。
ルークはブレアを怒らせないようにそうしたのだが、かえって機嫌を損ねている気がする。
無言でブレアが見つめてくるので、ルークは萎縮しながら答える。
「そういうこと気軽に言い過ぎたせいで先輩を不安にさせてしまったので、控えようと思いました……。」
「控えるって、減らすってこと?」
エマが聞くと、ルークは深々と頷いた。
かなり深刻な顔をしているので、ルークにとっては大きな決意なのだとわかる。
「強く好き!って思った時だけにしようと思ったんですけど、俺常に100%の気持ちで先輩のこと好き!って思ってるので意味ないんですよね。だから次に言うのは結婚してもらう時にします。」
「何年後だよそれ。結婚の前に付き合おうとかは思わねえの?」
アーロンが呆れたように聞くと、ルークは深刻な表情で考え込む。
「勿論付き合いたいですよ!?でも告白っていつすればいいかわからないじゃないですか!プロポーズなら俺が18になった瞬間すればいいのでもう18になるまで黙ろうかと!」
「わかんねえならできる状況を作れ、授業中に全クラスメイトの前ですんな!プロポーズはプロポーズですぐにしようとすんのやめろよ。お前雰囲気作りって知ってっか!?」
ルークの言い方と勢いだと、自分の誕生日に日付が変わった瞬間しそうだ。
ルークが初めてブレアに会い、そして勢い任せに告白した時。
アーロンはこの中で唯一その場に居合わせていなかったが、勿論ヘンリーから聞いて知っている。
アーロンから言わせれば、そんな場で告白するなど意味がわからない。
「雰囲気作りって何ですか!?」
「告りてえならさりげなくそーゆー雰囲気に持ち込んでから告れってことだよ!お前が何回言っても受け流される原因8割くらいそれができてないからなのわかってっか!?」
「やめてアーロンくん、ブレアに飛び火がいくわ……!」
何とも言えない顔で話を聞いているブレアの頭を、エマがよしよしと撫でる。
基本的に受け流す側のブレアだが、昨日プロポーズ級の言葉を受け流された側だ。
考え事をしているのか、エマが髪に触れても何も言わなかった。
「残りの2割は何ですか!?」
「お前らの人格!恋愛向いてねぇんだよ。こっちが8割かもな!?」
ほぼ言い合いのようになっている2人をヘンリーは肩を叩いて止める。
そんなこと言い出したら絶対にキリがない。そしてこの会話はおそらく誰かが止めなければ終わらない。
ならば自分が止めるしかないな、とヘンリーは思った。
「ユーリー先輩が泣いちゃったのは、本当にルークくんが好きって言ってくるのが嫌だったからなんですか?」
「違う。」
年下に泣いちゃったとか言われるの何か嫌だな、と思いつつ、ブレアは正直に首を横に振る。
「なら、この際はっきり言ってあげてほしいんですけど、ルークくんに好きって言われるの嫌ですか?」
「何か嫌って言われる前提に聞こえるのは気のせいか!?」
不満そうなルークをヘンリーは完全に無視している。
真顔で考えたブレアは、微かに頬を染めて俯いた。
「……嫌じゃない、全然。」
「だって。なら今まで通りでいいんじゃない?」
優しく笑ったヘンリーがルークを見た。
「え……本当ですか……?」
ルークは信じられないのか、見たことないほど目を丸くしてブレアを見ている。
「本当。」
じっと見つめてくる黄色い目と目を合わせないようにと、俯いたままブレアは小さな声で返す。
ブレアの言葉を聞いたルークの顔が、嬉しそうに輝いた。
「先輩、顔赤くなってるのめちゃくちゃ可愛くて好きです!」
「……なってない。」
ブレアは顔を合わせないまま赤くなった頬を手で隠す。
恥ずかしがってはいるが、あまり嫌ではなさそうだ。
「その仕草も可愛いです!さっき弁当食べる時やっぱり口小さくて可愛いなって思いました、昨日1言だけ寝言言ったの覚えてますか?“お母さん”って言ったんですよ、しかも笑ったんです、もう本当に可愛いって思いました!その時手握ってきたのも小さい子みたいで可愛くて、手小さくて指細くて可愛いな、好きだなって思いました。不謹慎かもしれないですけど泣き顔もめちゃくちゃ可愛かったですし、その後の笑顔が最高に可愛くてーー」
「ちょっと、言い過ぎ……。」
飛ぶようにブレアの正面に来たルークは、早口で溜め込んできた思いを吐き出す。
ブレアは顔を真っ赤にして止めようとするが、そんなブレアが可愛くてむしろ言うことが増える。
「もしかしてこれ仲直り?ヘンリーくんすごいわね。」
「こういう時はストレートに話すのが1番だと思いますよ。ルークくん単純だし。」
エマが感心したように言うと、ヘンリーはブレアに言い寄っているルークを見て苦笑する。
0か100しかないので、単純というより極端かもしれない。
「兄貴が無駄に回りくどいことするから拗れるんじゃん。ユーリー先輩は好きって言われるのが嫌なんじゃないかって、最初に言ったの兄貴でしょ。」
「確かに言ったが、オレが原因?」
アーロンは気まずそうに目を逸らす。
確かに言ったが、まさかそんなに重く捉えられるとは思っていなかったようだ。
「別に責めてるわけじゃないよ?仲直りしてよかったねって話。」
「本当ねー。」
にこにこと笑った3人は再びルークとブレアの様子を伺う。
思っていたことを全て言うつもりなのか、ルークはまだ喋り続けていた。
いつの間にかブレアの手を握っていて、逃げられなくなったブレアは恥ずかしそうに下を向いている。
「ユーリーが照れてる……?マジか。」
驚いたように言ったアーロンは、邪魔にならないように2人を撮影した。
今まで殆ど反応せずに受け流していたのに、湯気が出そうな程顔を真っ赤にしている。
好きかどうかわからないと言っていたが、多少なりともルークを意識しだしたのだろうか。
「ーーというわけで俺は、先輩の一挙一同全てが可愛くて心の底から大好きです!!付き合ってください!!!!」
「それは……ちょっと無理。」
教室中に聞こえるほど大きな声で言ったルークは、あっさり振られて項垂れた。
それでもブレアの手はしっかりと握っていて、ブレアはかなり困っている。
無理なんだ……と誰もが思ったが、無理なのか。
「何が無理ですか!?俺そんなに駄目ですか……?」
正直いけると思ったのにあっさり振られ、ルークはかなり悲しんでいる。
これまでにないほど凹むルークにブレアも戸惑っているようだ。
「え、付き合わねえの?こんだけやって付き合わねえならお前ら一生付き合わねえんじゃね?あと公開告白をやめろ馬鹿。」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ!?」
ブレアの代わりにアーロンが指摘すると、ルークはしゅんとしてブレアの手を離した。
アーロンは、コイツら駄目だな……と思った。
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