第55話 ほっとけ”は“絡め”なんだよ
昼休みになると、教室は一気に騒がしくなる。
その騒がしさとは対象に、今日のルークはものすごく静かだ。
「よぉヘンリー。あれ、ルークもいんじゃ……石?」
「オレと同じこと言うじゃん……。」
教室に入ってきたアーロンは無言で座っているルークを訝しむように見る。
「コイツ死んでね?今度はどうしたんだよ。」
「昨日ユーリー先輩を怒らせちゃった?みたい。」
置物のように固まっているルークの前に来たアーロンは、おーいと手を振ってみる。
アーロンからしてみれば、ブレアを怒らせたから何?といった感じだ。
ほぼ毎日怒らせているのに、今更気にすることだろうか。
「別に怒らせとけばよくね?何がそんなにショックだったんだよ。」
何も答えないルークを、アーロンは「何か言えや。」と呆れたように小突く。
「……ショックに決まってるじゃないですか!先輩に嫌われたんですよ!?」
「え、元からじゃね!?」
何かあったのだろうか、と少し心配したものの、やっぱりしょうもない理由で安心した。
しょうもなすぎて驚いたアーロンが大きな声を出すと、ルークは「酷いです!」と抗議する。
「俺の言うこと全部嫌って言われたんですよ!?普段のキモいとかとは訳が違うんです!」
「違いがわかんねえ。今までは嫌がられても気にしてなかったじゃねえかよ。」
ルークがどうして悲しんでいるのか、本当にわからないアーロンは不思議そうに首を傾げている。
「実際に言われてないからそんなこと言えるんですよ!普段のキモいとかはツンデレ的な感じで可愛いじゃないですか!今回は本気で拒絶されたんです!本気で嫌がってる先輩も勿論可愛いですけど、そんなに嫌がられると思ってなくてびっくりしたんです!」
「オレはあのゴミを見るような目を、ツンデレみたいで可愛いと思ってたお前のメンタルにびっくりだわ。ツンデレのデレはどこ行ったんだよ。」
いかに深刻な状況かわかってもらいたいルークが熱弁するが、アーロンはその感性と熱意に引いている。
ツンデレというよりツンツンではないだろうか。
「ユーリー先輩、割と普段から本気で嫌がってた気がするんだけど……。確かに昨日はちょっと変だったよね。」
「マジか。アイツどした?」
ブレアの様子を思い出しながらヘンリーが言うと、途端にアーロンも心配し出す。
ことの重大さをわかってくれたのは嬉しいが、なんだか納得がいかない。
「わからないですけど、『俺の言うこと全部嫌』とか、『簡単に好きとか言わないで』とか『嘘ばっかりつかないで』って泣かれたんです……。罵倒されるのも嬉しいし先輩の泣き顔は可愛いんですけど、俺が今まで言ったこと全部嘘だと思われてたって思うとショックで……。少しは心開いてくれてると思ってたのであんなに拒絶されるとは思ってなかったんですよ!!」
「待て待て待て情報量!とりあえず真剣に悩んでる時くらい変態発言やめろ。SかMかわからんこと言うな。」
ルークが真剣に困っているのはわかるのだが、ツッコミどころが多すぎる。
こんな変態発言ばかりしているのだから嫌がられても当然ではないだろうか。
――それよりも。
「……ユーリーの泣き顔、めっちゃ見てぇ。」
あわよくば撮りたい。と思った。
「キモいよ兄貴。」
気持ち悪いことを言ってる自覚はあるらしく、アーロンは冷たい視線を向けてくるヘンリーからすっと目を逸らした。
「好きな子いじめたくなる小学生男子なの?」
「違ぇ、好きじゃねえわあんなヤツ!それにオレは好きな子には優しいんだよ。」
2人に冷めた目を向けられたアーロンは「んなことはどうでもよくてだなー!」と無理やり話を戻す。
逃げたな、とヘンリーは思ったが、敢えて言わないでおく。
「お前、好き好き言い過ぎなんじゃねえの?」
「軽そうに見えるってこと?」
話を聞く限りで思い当たった結論はこれに尽きる。
アーロンがキッパリと言うと、ヘンリーが小さく首を傾げた。
「こんなに重い愛を伝えてるのに軽い!?アーロン先輩の方が軽そうに見えますよ!」
「うん、兄貴は軽い。ちょー軽い。」
「いちいちオレと比べんじゃねぇ。」
せっかくアドバイスしてあげたのに、なんだか責められている気がする。
確かに自分が軽い男に見えることは否定できないが、今はそういう話じゃない。
「何でもかんでも好き好き可愛い可愛い言ってりゃ、冗談だと思ったり、誰にでも言ってんじゃねえかって思ったりして不安になるもんなんだよ。女心面倒くせー。」
「面倒だと思ってるなら女の子引っ掛けるのやめなよ……。」
「隙あらばオレの話に持ってくのやめね?最近はナンパとかしてねえって。」
ヘンリーとアーロンは軽く言い合っているが、ルークはすごく驚いている。
全部本気で言っていたし、ブレアにしか言っていないのに……。
言い過ぎて信じてもらえないことがあるとは、恋愛って難しい。
「お前の言うこと全部嫌って、そりゃあ変態発言もそうだろうけど……好きって言われること自体、アイツは嫌なんじゃねえの?」
ブレアのことを思い出しながらアーロンは自身なさ気に言う。
ルークのは少し違うと言っていたが、嫌なものは嫌なのではないだろうか。
少し考えていたルークは、真面目な顔で頷いた。
「成程、確かに好きとか嫌だって言われました!アーロン先輩流石です!」
「解決した(?)ところで、今日はユーリー先輩のとこ行かなくていいの?」
気になっていたことをヘンリーが聞くと、ルークの表情がしゅんと暗くなる。
普段なら昼休みが始まった途端に3年の教室に飛んで行くのに、今日は行かなくていいのだろうか。
「それが……昨日の夜から1言も話してなくて行きづらいんですよね。先輩のお声が聞きたいです……。」
悲しそうに項垂れてしまったルークに、ヘンリーもアーロンも「マジ?」と目を丸くする。
ルークが頷くと、2人ともそっくりな顔で苦笑した。
「ルークくんでも日和ることあるんだ?何言われてもしつこく迫ってたのに。」
「だって『本当に僕のこと好きなら放っといて』って言われたら、そっとしとくしかないだろ……俺本当に先輩のこと好きなのに!」
昨日言われたことを思い出して凹むルークに、アーロンは「うわぁ。」と顔を顰める。
「アイツただでさえ面倒なのにメンヘラなの?重くね?面倒くせぇなとっとと仲直りしろや。」
「急に投げやりじゃないですか!?」
面倒になったアーロンは、ルークの襟を掴んで立たせた。
そのままドアの方に引っ張っていく。
「面倒くせぇヤツの言う“ほっとけ”は“絡め”なんだよ。うだうだ言ってねぇでユーリーんとこ行ってこい!じゃあなー。」
アーロンはルークを無理やり廊下に出すと、勢いよくドアを閉めた。
「んじゃヘンリー、昼食おうぜ。」
何事もなかったように座るアーロンの切り替えの速さにヘンリーは「えぇ。」と戸惑っている。
あんなので大丈夫なのだろうか。
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