第53話 好きとか簡単に言わないでよ!!
無事に入口まで戻ってきて外へ出ると、外の明るさで視界が真っ白に染まる。
すぐに目が慣れて周りが見えるようになり、既に待っていたリアムやエマ、他の1年生達が見えた。
「お疲れ様でした。丁度今6限目が終わりましたよ。」
「……うん。」
帰り道、何か考え事をしていたのか終始無言だったブレアがようやく口を開いた。
さっきまで手に持った魔石をじっと見つめていたのに、いつの間にか仕舞い込んでいる。
「ブレア〜!大丈夫だった!?怪我とかしてない?」
ブレアに向かって駆け寄ってきたエマが、勢いよく抱きついてきた。
よろめいたブレアは倒れる寸前で踏みとどまると、「危ない。」とエマに抗議する。
「すっごく心配したのよブレア!どこかでぶっ倒れてないかなとか!」
「僕はそんなに弱くないよ。……離して。すごい疲れてるから、結構真面目に苦しい。」
「ごめんなさい!」と謝ったエマはすぐに手を離す。
言葉通りすごく疲れているようで、いいとは言えない顔色を見るとますます心配になる。
ふぅ、と息をついたブレアは疲れた顔でリアムを見た。
「解散?帰りたいんだけど。」
「気が早いですね。森にも危険がないわけではありませんので、街に出るまでは集団行動です。」
「……そっか。じゃあ早く帰ろう。」
嫌がるか文句を言うと思ったが、意外と素直だ。
リアムは少し目を丸くしてブレアの様子を伺う。
「どうしました?あまり機嫌が宜しくないようですが。」
え、機嫌悪いんだ……?と2人以外の全員が思った。
機嫌が悪い時の方が素直なのだろうか。
「気のせいでしょ。」
首を傾げたブレアは、一方的に会話を切り上げて1年生達より後ろに行ってしまった。
リアムは心配そうに見ていたが、個人的に構っていい時間ではないと切り替える。
「では戻りましょうか。はぐれたら迷子になりますので、私についてきてください。」
リアムが歩き始めると、遠足のようにぞろぞろと生徒達が続く。
念の為エマが真ん中、ブレアが1番後ろで1年生達の様子を見るようだ。
当たり前のようにルークが1番後ろに行くので、ヘンリーもついていく。
「ユーリー先輩、ありがとうございました。」
ヘンリーが丁寧に頭を下げると、ブレアは「何が?」と首を傾げる。
「お礼を言うのは僕の方だと思うけど。助かったよ、ありがとう。」
「俺も先輩にありがとうって言われたいです……!」
ルークを冷ややかに一瞥したブレアはヘンリーを見る。
ルークと話すつもりはない、とでも言いたそうだ。
「ユーリー先輩のアドバイス通りにやったら上手くいきました!」
「そっか、ならよかった。」
嬉しそうにヘンリーが言うと、ブレアも少しだけ口角を上げて微笑んだ。
「兄貴くらい上手く……とはいきませんけど、少しでもちゃんとできて、ちょっと自信つきました。」
照れたようにはにかむヘンリーを見て、ブレアは黙って考え込む。
しばし返事を考えた末、なるべく思ったままのことを無難な言葉で伝える。
「上手いことだけがいいことじゃないよ。さっきの魔法は確かにお兄さんの方が上手いけど、君の方が丁寧で優しい感じがして、心地よかったかな。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
魔法に詳しいブレアに褒められると本当にすごい気がしてくる。
正直魔法に関しては諦めてたのだが、また頑張ってみてもいいかもしれないと思った。
「ヘンリーが使った魔法って、どんな魔法だったんだ?」
会話に区切りがついたと判断したルークは、気になっていたことを聞いてみる。
同じような手順で2種類の魔法を使っていたようだが、具体的に何をしていたんだろうか。
「1つ目は体調とか健康状態が見れる魔法で、2つ目は自分の呼吸とか心音に相手のを同調させる魔法……って感じ。オレも詳しくはわかってないけどね。」
「そんなことできるって、魔法すごいな!ヘンリーもすごい!」
なるべく簡単に説明すると、ルークがキラキラと目を輝かせて褒めてくれる。
少し照れ臭くなったヘンリーは「オレなんてまだまだだよ。」と謙遜した。
「僕だって何回受けても原理がわからないんだから、すごいよ。気になるなぁ、教えてくれない?」
「企業秘密です。どうしても知りたいなら兄貴口説いて聞いてください。」
やんわりと拒否されたブレアは「残念。」と潔く諦めた。
簡単には諦められないくらい気になってはいるのだが、それはもう試した。
ルークは「ヘンリーって企業だったのか!?」とすごく驚いている。
言葉の文というものだとは思わないのだろうか。
「オレは企業じゃないよ?家の話ね。」
苦笑いを浮かべたヘンリーが訂正すると、ルークは不思議そうに首を傾げる。
「彼の家、南にある大きな病院だよ。」
そういえばヘンリーの家の話とか、両親の仕事の話は聞いたことがないな……と思っていると、ブレアがあっさりと教えてくれた。
「ヘンリーの家病院!?すごっ。」
目を見開いて驚くルークの反応は少々大袈裟で、ヘンリーは笑いながら頷く。
小さなこの国には医療機関自体そう多くない。
『南の大きな病院』と言われればそれだけでヘンリーの家がどこか、どのくらいすごいかわかってしまうほどだ。
「てことはアーロン先輩も!?すごいな!だから魔法で体調がわかったりするのか!」
「君も将来は医者になるの?体調悪くなったら、君に診てもらおうかな。」
「どうでしょう、まだわからないですねー。」
驚きはしたもの、ヘンリーに医者という職は向いていそうだなとルークは思った。
優しくて気遣いができるヘンリーはいい医者になる気がする。
ブレアは冗談半分で聞いてみるが、実際適職ではないか。
「駄目!ずるい!」
「ごめん……何が?」
「先輩に将来会いたいって言われてること!」
ヘンリーは笑って返すが、ルークは本気にしたようだ。
かなり語弊があるというか、考えすぎというか、ブレアは意味がわからないとでも言いたそうな顔でルークを見ている。
会いたいとは言っていない。
むしろこの場合会うのは体調を崩した時なのだから、できれば会いたくない。
「先輩、俺とも将来を約束しましょう!好きです結婚してください!」
「無理やりすぎない?勢いで言ってもユーリー先輩困らせるだけで――大丈夫ですか?」
苦笑しながらブレアに目を向けたヘンリーは、心配そうに尋ねる。
立ち止まってしまったブレアの顔からは、先程までうっすらと浮かべていた笑みが消えている。
その代わりに、紫色の瞳には怯えのような感情が揺れていた。
「大丈夫ですか!?やっぱり体調よくないですか?疲れました!?歩くの大変でしたら俺が運びますよ!」
「……うるさい。」
心配したルークが近づこうとすると、俯いたブレアが震える唇を開く。
小さく、低い低い声で唸るように呟いた。
「え、えっと、すみません。……俺また嫌なこと言いましたか……?」
また自分が地雷を踏んでしまったのだろうか、とルークは慎重にブレアの様子を伺う。
顔を上げたブレアは潤んだ瞳の揺れを誤魔化すように、キツくルークを睨みつけた。
「嫌!君の言うこと全部嫌!たいして思ってない癖に、そんなこと言ったって、どうせどっか行っちゃう癖にっ……、好きとか簡単に言わないでよ!!」
叫ぶようなブレアの声に、ルークは目を丸くしている。
驚いているような、ショックを受けているようなルークの表情を見て、ブレアもはっとしたように目を丸くする。
喉からひゅっと細い息が漏れた。
震える唇をぎゅっと引き結んだブレアは、ルークから目を逸らして再び足を動かす。
列から逸れたブレアは早足で生徒達を追い越していく。
「待ちなさいブレア、解散は『街が見えたら』ではなく『街に出たら』――」
「知らない!」
先頭すらも追い越したブレアは、リアムの静止の声を跳ね除けるように叫ぶ。
早足のまま、1人でさっさと行ってしまった。
「……追いかけなくていいの?…………ルークくん?」
ヘンリーが問いかけても、一向にルークの返事がない。
ブレアの後ろ姿を見ていた視線をルークの方に移すと、ヘンリーは「え。」と声をあげた。
「……石?」
ブレアを引き留めようと伸ばした手をそのままに、ショックで固まっているルークはまさに石のようだった。
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