第45話おまけ 兄貴、ちょー寒がりなんだ

 ブレザーを畳んでしまったルークを、アーロンは信じられないものを見るように見ている。


「……寒くねえの?」


「寒くないですね!」


 ドヤ顔で答えたルークは、逆に暑くないのかとアーロンの姿を見る。

 ブレザーの下に赤いパーカーを着ているアーロンは、ルークからみればとても暑そうだ。


「アーロン先輩って、衣替えの前からセーター着てませんでした?」


「着てた。セーターからパーカーに衣替えしたんだよ。」


「おかしくないですか?」


 アーロンは平然と答えるが、ルークは不思議そうに首を傾げた。

 今までブレザーの下に何も上着を着ないか、薄手のベストを着ていた皆が長袖のセーター等に衣替えしている中で、元々長袖のセーターを着ていたアーロンも衣替えをするのか。

 というか今まで長袖にブレザーを着て暑くなかったのだろうか。


「兄貴、ちょー寒がりなんだ。」


「そうなんだ?」


 ルークの疑問を察したヘンリーは、笑いながら教えてくれる。

 笑顔というより面白いものを見た時の笑いで、何がそんなに面白いんだろうかとルークはさらに首を傾げた。


「そーめっちゃ面白いよ?真夏以外ずっと長袖で、真冬は絶対カイロ3つ以上持ってんの。」


「おいおい面白そうに言うなや。別にんなに変じゃねえだろ?」


 呆れ顔でいうアーロンにヘンリーは「変だよ?」と返す。

 普通カイロを3つも持たない。


「変じゃねえって。左右のポケットに1つずつ、1つは手持ち用で、握ってたら冷えるからローテすんだろうが。」


「しないしない、てかずっとポッケに手入れてるから3つ目いらないじゃん。それだけじゃないんだよ?」


 わざわざ説明してくれるアーロンを見たヘンリーは首を横に振ってから、再びルークの方を向いた。


「いつも『着崩してる方がカッケーだろ!』とか言って首元のボタンとかブレザーとかパーカーの前も開けてるのに、冬になったらシャツもパーカーも前閉めんの。」


「意外……!ボタンちゃんと閉めてるアーロン先輩、想像できないです!」


 ルークが好奇に満ちた目を向けてくるので、アーロンは「見んな見んな!」と手を振って追い払う仕草をする。

 恥ずかしかったのか、嫌そうな顔は少し赤くなっている。


「寒がりすぎて寒そうな人見るのも無理なんだよ?いつもはスカート短い女子見たら可愛いとか言うのに、これくらいの時期になったら自分が寒いからって『アイツ足寒くねえのかな?』とか言うの!寒いの兄貴だけだよってね。」


「確かに意外で面白いけど、俺はそれよりこんなに笑ってるヘンリーを初めて見た……。」


 楽しそうに笑いながら話していたヘンリーは、きょとんと首を傾げる。

 確かに笑いながら話したが、自分が驚かれるほど笑っているとは思っていなかったようだ。


「そりゃあオレみたいにイケメンでカッケー兄貴の話なら笑顔になるわなー?可愛いヤツめ。」


「今の全然格好いい話じゃなかったよね。髪ぐしゃぐしゃになるからやめて。」


 ニヤニヤと笑ったアーロンが頭を撫でる。

 ヘンリーが逃げるように離れようとしてもアーロンはくっついて来る。


「お前セットしてないからいいだろ。すぐ直してやるよ。」


「二度手間じゃん。女子撫でる時こんなんじゃない〜。」


「女子は髪崩れたら怒るからな!」


「オレも怒るよ!?」


 アーロンは楽しそうに笑っていて、ヘンリーも口ではこう言っているがあんまり嫌そうではない。


「仲良いな〜!」


「だろ。やっぱオレが完璧兄貴だから甘えたくなっちゃうのかなー。」


「違う違う、兄貴がブラコンなんでしょ。」


 2人の様子を見ていたルークが言うと、2人ともお互いの顔を見て笑う。

 本当に仲良しだな、と思いながら、ルークは時計を指差した。


「アーロン先輩、もうすぐチャイムなりますけど……大丈夫なんですか?」


「マジか!?……マジだ、やべぇ!」


 時計に目を向けたアーロンは慌てて席を立った。


「そういうことはもっと早く言え馬鹿!じゃ!」


 アーロンは軽く2人に手を振ると、走って教室を出て行った。


「……いや、髪直して行ってよ!?」


 去っていく兄を唖然と見ていたヘンリーは、納得いかなそうに髪に指を通した。

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