11月11日特別編 シチュエーションがカップルでは!?

 昼休み、いつもルークはSクラスの教室でブレアと過ごしている。

 授業の始まる10分前くらいになるとアーロンが戻ってくるので、それと入れ違いになるようにルークも自分の教室に戻る――のだが。


 今日はまだ昼休みも半ばだと言うのに、アーロンが教室に入ってきた。

 アーロンが真っ直ぐにこちらにくるので、ブレアは怪訝そうに首を傾げた。


「何?時計読み間違えたの?」


「んな間違いしねえよ。面白ぇこと思いついたから帰ってきた。」


 ニヤリと笑ったアーロンを見て、ブレアはうわあ、と眉を寄せた。


「嫌なこと考えてそうな顔してるね。面白いことしたいなら他所でやってくれるかな。」


「いやお前らがやるから面白ぇんだって。今日11月11日じゃん。つーわけで――」


 遠回しにブレアに追い払われたことも気にせず、アーロンは話を続ける。

 嫌そうな顔をしているブレアの目の前に、持っていた菓子の箱を突きつけた。


「お前ら、これでゲームしろ。」


「えぇっ!?俺と先輩がですか!?」


「嫌だ、何それ。」


 菓子の箱を受け取ったブレアは、眉を寄せて不審がるようにアーロンを見る。

 察したルークが顔を赤くしてブレアを見るが、どうやらブレアはよくわかっていないようだ。


「内容聞いてねえのに拒否んの?」


「君が“面白い”って言うことの大半は僕が面白くない。君甘いの食べるんだね。」


 ブレアが意外そうに言うと、アーロンは「食わん。」と首を横に振る。

 クラスの女子に貰っただけで、好んで食べるわけではない。


「わかってねえお前のためにルールを説明すると、この菓子を咥えて両端から食っていって、先に折った方が負けっていう――」


「やらないって言ってるのにルール説明されても。」


 ブレアは菓子の箱を机に置いて、呆れたように溜息をつく。

 少し期待したルークだったが、「ですよね。」と残念そうに苦笑している。

 絶対やらないと言われると思った。


「え、やらねえの?」


「やるわけないでしょ。何その馬鹿らしいゲーム。」


 やらないからどこか行ってほしい、とブレアはアーロンを睨むと、アーロンは不適な笑みを深めた。

 ブレアが嫌な予感を感じた矢先、アーロンが口を開く。


「勝敗があるゲームっつうことはやらなかったら不戦敗ってことになるが?」


「そうなんですか?」


 ルークがアーロンに聞くと、「お前ちょっと黙ってろ。」と囁かれる。

 ブレアは「は?」と睨むようにアーロンを見た。


「ルークは別にやってもいいみてえだから、お前が拒否したらお前の負けってことになるぞ。ユーリーがルークに負けるとか面白ぇなぁ?」


「はあ?僕がこんなのに負けるわけないでしょ。」


 眉を寄せて答えたブレアは、再び菓子の箱を手に取ってルークの方を見る。


「ほら、やろ。」


「ええええ待ってください先輩本気ですか!?」


 箱を開け始めるブレアにルークは顔を真っ赤にして聞く。

 絶対嫌がると思ったのに、本当にやるのか。


「本気だけど。だって絶対負けないもん。」


 自信を持ってブレアが答えるが、ルークはかなり戸惑っている。


「でも先輩、お昼ご飯途中ですよ?」


「食べることに変わりはないからいいでしょ。やらないなら君の不戦敗ね?」


 箱から取り出した包装を開けたブレアは、渋っているルークを怪訝そうに見る。

 ルークとしては勿論やりたい。

 やりたいが、それ以上にブレアはいいのか?という戸惑いが勝つ。


「いやでも先輩、だって……。」


「本人がやるって言ってんだからいいだろ。ルーク、コイツ挑発したら何でも乗ってくるから覚えとけよ。」


 アーロンに何やら失礼なことを言われてブレアは不満そうに唇を尖らせた。

 ブレアは菓子を1本取り出して、指揮棒のようにルークに向けた。


「で、やるの?」


「……やります。」


 無言で考えたルークは覚悟を決めてブレアの方を向く。

 嬉しいだろうに、どうして決死の覚悟を決めたような顔をしているのだろうか。


「アーロン先輩、俺が死んだら何とかして蘇生してください。」


「無理だが?医者でも治せんのは瀕死までだからな?」


 至って真面目な顔で言うルークにアーロンは呆れたように顔を顰める。

 医者でもできないことがアーロンにできるわけがないと言いたいようだ。

 そんなに簡単に死なないでほしい。


「やるなら早くしようよ。はい。」


「えええ本当にですか!?」


 菓子を咥えたブレアが顔を近づけてきて、顔を真っ赤にしたルークは目を丸くする。

 何度本当だと言ったらわかるのだ、とブレアは呆れて頷く。


「はあふ(早く)。」


「先輩何言ってるかわからない可愛い……!……じゃあ、失礼します……。」


 ルークは恐る恐るといった様子でブレアに顔を近づけて、菓子に口をつける。

 満足そうに頷いたアーロンが『スタート』と言おうとすると、それより早くルークが菓子を折った。


「はっや!?可笑しいだろ何でだよ。」


「すみませんつい……。」


 呆れを通り越して驚いているアーロンに、ルークは口に残った菓子を食べながら謝る。

 咥えた瞬間折ったと言っても過言ではない。


「だって先輩の可愛い顔が近い!綺麗な目に凝視されてる!お菓子咥えてる先輩可愛い!シチュエーションがカップルでは!?無理です!!!!」


「声デケエよ。折角オレが絶好の機会作ってやったのに日和んじゃねえぞ。」


 耳を塞いだアーロンが言うと、ルークはもう一度「すみません。」と謝った。

 ブレアの顔が近すぎて耐えられなかったのは本当だが、日和ったのも本当だ。


「だって先輩絶対勝つとか言ってるんですよ!?俺が止めないとキ……することになるじゃないですか!」


「何照れてんの?言い淀むな、お前がしたいかと思ってわざわざ帰ってきてやったのに。」


 何故2文字が言えないのだ、とアーロンは呆れたように眉を下げる。

 してもないのに照れるなど意味がわからない。


「確かにしたいですけど、したいですけど〜〜!先輩は嫌がるじゃないですか!本人の合意なくするのは違うじゃないですかあああ!!」


「煩えな声量どうなってんだよ。お前から正論が出るとは思わなかったわ。」


 煩悩まみれの変態にブレアを気遣う心があったことにアーロンは心底驚いている。

 ルークだって弁えているつもりだ。

 大好きなブレアを悲しませたいわけではない。

 

 真顔で菓子を咀嚼していたブレアは、得意気に少しだけ口角を上げた。


「僕の勝ちだね。」


「先輩はいつでも大優勝してますよ……!」


 可愛さが、とは言わなかったので、ブレアは意味がわからずに眉を寄せている。

 この後アーロンは、追いかけてきたヘンリーに物凄く怒られた。

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