第45話 逆彼シャツですよ……!?
翌日、アーロンは登校してきたルークを見るなり、ぷっと吹き出した。
「おはようございますアーロン先輩!何でそんなに笑うんですか?」
「いや、笑うだろ……っ、マジで面白ぇよお前、ぶかすぎだろその服!」
「そうなんですよ……。」
記録用魔道具で撮影しながらアーロンが指摘すると、ルークも自覚はあったようで大きく頷く。
ブレアから借りたカーディガンを着ているようだが、サイズが全然合っていない。
昨日ブレアに散々「萌え袖可愛い!」と言っていたが、ルーク本人はブレア以上に袖が余っている。
「これ、先輩が1年生の時に着てたやつらしいんですけど、先輩は1年の頃から高身長イケメンだったのか……って実感しました。」
ブレアに服を貸してもらえたのは大変嬉しいのだが、ここまで身長差があると思っていなかった。
今のブレアはルークよりかなり背が高いが、1年生の時ならそうでもないことを期待していた。
「そこまで高身長ではなくね?お前がチビなだけだろ。」
「言わないでください、これから伸びるんです!」
アーロンが馬鹿にするように言うと、ルークは真剣な顔でで言い切る。
「伸びるといいなー……で、本音は?」
「めちゃくちゃ悔しいです……!」
話しながら席に座ったルークは悔しそうに机を叩く。
ルークはどちらかというと背が低めで、男の時のブレアは普通に背が高い。
ルークがブレアの服を着るとなると、絶対こうなるだろうと思っていた。
「イケメンなところも大好きですけど!好きなんですけど!やっぱり好きな子より小柄なのは嫌じゃないですか〜!うぅ、先輩より圧倒的に高くなりたい、身長あと30センチくらい欲しい。」
「それは無理じゃない……?」
かなり欲張りな願いを口にしているルークにヘンリーは苦笑する。
ブレアよりルークの方が伸び代はあるだろうが、30センチは無理じゃないだろうか。
「ドンマイだな。まあ負けてるの縦だけだから安心しろって。」
「アーロン先輩は背高いからいいですよね!?先輩より高いんじゃないですか?羨ましいです!」
悔しそうに唇を噛んでいるルークを見て、アーロンは大笑いしている。
入学時は少しだけ男体時のブレアより背が低かったのだが、すぐに抜かしたので問題ない。
「1番辛かったのは俺がこれ着た時、先輩に『君って背低いんだね。』って言われたことです!先輩自分より身長低い男は恋愛対象に入らないとかだったらどうしよう……。」
「低かろうが高かろうが入ってねえんじゃね?」
「それは俺に女になれと言ってますか!?」
「女も入ってなさそうだが?」
そもそもブレアに恋愛対象というものは存在しているのだろうか。
ブレアが「女子が好き」と言えば本気で女子になる方法を探しそうで怖い。
「まあ俺も3年生になる頃には――いえ、先輩が卒業する頃には180……いえ、185いってるので!」
「無理だろ、2年もねえじゃん。」
アーロンはルークとヘンリーを見比べて苦笑いする。
パッと見てわかるほどヘンリーより背が低いので、アーロンが見るにルークは確実に170㎝ない。
睡眠不足のルークが2年で15㎝以上伸ばすのは中々厳しいのではないだろうか。
「本当はもっと欲しいです。カップルの理想の身長差って15㎝って言うじゃないですか、だから俺は先輩より15㎝高くなりたいです。」
「それ男女の話だろ。ユーリーの身長知らねえけど、それだとお前190くらいいんじゃね?」
自分から見た感覚でアーロンが言うが、おそらくその通りだと思う。
(肉体が)男同士ならそんなに関係がない気がする――というか15㎝差に拘りたいならルークがブレアより15㎝低くなる方が現実的ではないだろうか。
「でもルークくん、そんなに伸びたら女の先輩との身長差がすごいことになっちゃうよ?今いいくらいなんじゃない?」
「確かに……!どうしようそんなに伸びたら先輩の可愛い顔を正面から見れなくなる……!でも男の先輩も抜かしたい!」
頭を抱えてしまうルークを見て、アーロンは「欲張りだな。」と笑っている。
そろそろ朝から笑いすぎてしんどくなってきた。
「やっぱり先輩より圧倒的に高くてもよくないか?上目遣い見上げてくる先輩絶対可愛い……あっでもそんなに身長差があるとキスしづらくなりますね!?駄目だ!」
「いんじゃね?お前ら一生キスしなさそうだから。」
何をいらない心配しているんだろう、とアーロンが首を傾げると、ルークは不満そうな顔をする。
「しますが??酷くないですか?」
「“するかも”じゃなくて“します”なの?ごめんだけどオレも無理そうだなって思ってる。」
苦笑しながらヘンリーが言うと、ルークはもう一度「酷い!」と大きな声を出す。
「もういいです。俺の将来の身長は今度考えましょう。」
自分でもどれくらいの身長になりたいのかわからなくなってきたルークは、諦めて思考を放棄する。
考えたところで実際にその身長になれるわけではないのだが、今度真剣に考えるようだ。
「身長とかを置いとくとこれつまり逆彼シャツですよ……!?最高、先輩の匂いがします。」
「嗅ぐな変態。本人に言いつけんぞ。」
袖に顔を埋めて息を吸い込むルークにアーロンはかなり引いている。
ヘンリーはもう慣れたのか予想していたのか、引いてすらいない。
「はあ、いい匂いですね……ドキドキして授業に集中できない気がします。」
「勉強しろ、お前が集中できるように一言一句違わずユーリーに伝えといてやろうか?」
ぎゅっと袖に包まれた手を握るルークにアーロンは呆れたように言う。
次全部わかりませんなどと言っても勉強は教えてやらない。
「大丈夫ですよ、興奮して眠気覚めるので勉強できます!」
「キメぇよ24時間発情期野郎。とりあえず顔から手を退けろ、いつまで吸ってんだ変態。」
アーロンは口元に手を当てたまま答えるルークの腕を掴んで退けさせる。
何も大丈夫じゃない。ブレアが怒らないのなら、1回リアムに怒られればいいと思う。
手を退けたことで見えるようになったルークの唇が想像以上に緩んでいて、アーロンは更に顔を顰める。
「過去の先輩とお揃いって考えたらニヤケが止まりません!!あとやっぱり暑いので脱ぎます!ブレザーを!」
「そっち!?普通カーディガン脱がない!?」
宣言したルークがブレザーを脱いでしまうので、ヘンリーがすかさずツッコむ。
「せっかく先輩が貸してくれた服を脱ぐわけないだろ!失礼になる!」
「寒いなら貸してあげるよって言われたのに借りる前より寒そうな格好してる方が失礼だろ。ユーリーの服脱ぎたくないだけじゃね?」
「正解です!体育で脱がないといけないのすら嫌ですね!」
正直に答えるルークに、兄弟は同じような表情で苦笑する。
開き直るな、夏になったらどうするのだろうか。
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