第44話 萌え袖で黒タイツの先輩とか破壊力が……!

 ブレアがヘンリーの陰に隠れてしまったので、ルークは「隠れないでくださいよ!」と見える位置に移動する。


「朝はそんな格好じゃなかったですよね!?」


 ルークが移動するなら隠れても無駄かと判断したブレアは、嫌そうに溜息をついた。


「今日寒かったから、体育ついでに着替えたの。」


「可愛い!先輩の萌え袖可愛すぎます!萌え袖で黒タイツの先輩とか破壊力が……!」


 ありがとう気温。ルークは心の底から気温に感謝している。

 普段はブレザーの下にベストを着ているブレアだが、今は暖かそうなカーディガンで、膝下丈の靴下も、黒いタイツに変わっている。

 寒いのか袖を指の付け根辺りまで伸ばしていて、とにかく可愛い。


「先輩可愛いです、すごく似合ってます、可愛いです本当に可愛いです!あっ、袖やめないでください……!」


「だって君が煩いから。」


 ブレアが袖を整えて手を出すと、ルークは少し悲しそうな顔をした。

 ヘンリーは「何回同じこと言うの。」と呆れて苦笑している。


「袖が普通でもめちゃくちゃ可愛いですよ!それに……タイツは駄目じゃないですか?」


「何が?校則上問題ないはずだけど。」


 ルークが視線を下に移動させると、ブレアは「なんか視線がキモい……。」とさらに数歩後ずさった。

 先程アーロンはパーカーの色が派手だと注意されたと言っていたが、普通の黒タイツに注意するところなどないだろう。

 ブレアがじっとルークを見て返事を待つと、ルークは赤くなった顔を少しだけ逸らした。


「タイツはえっちすぎます!全男がそういう目で見ますよ!?」


「ええぇ、キモい、そうなの?」


 顔を顰めて嫌悪感をあらわにしたブレアは、ヘンリーの方を見る。


「オレに聞かないでください……。ルークくんだけじゃないですか?」


「君が1番まともそうだから聞いてみた。」


「オレもちょーマトモだが!?」


 渋々ヘンリーが答えると、アーロンが不満そうに言う。

 ブレアから見てどちらの方がまともそうかと言われれば、勿論ヘンリーだ。


「俺だけじゃないと思います!ですよねアーロン先輩?」


「待て、お前も何でオレに聞くんだよ?」


「タイツはえっちすぎませんか!?」


 ルークの熱意に呆れているアーロンはブレアの方に目を向ける。

 じっとブレアを見て、それから気まずそうに目を逸らした。


「まあ確かに……うん、いいよな。」


「うわぁ。」


 アーロンの反応を見たブレアとヘンリーは揃って顔を顰める。


「キモいよ兄貴……。マジでない、キモい。」


「何でオレだけ!?コイツのんがキモいだろうが。あと2回も言うんじゃねえ。」


 弟に冷めた目を向けられたアーロンは納得がいかないようで抗議している。

 自分がキモかった自覚はあるが、ルークの方が何倍もキモいのではないだろうか。

 チラリとルークの方を見たヘンリーは呆れたように苦笑した。


「ルークくんはもう、こういう人だからなーみたいな。」


「諦めてんじゃねえか。お前マジで友達は選べって言ったよな、なぜわざわざこんな変人と絡む?」


 アーロンはヘンリーとルークを見比べながら言う。

 わざわざルークに絡んでいるのは自分も同じではないだろうか。

 2人が話している間にいくらか冷静になったようで、ルークは2人を見て「あれ?」と声を出す。


「そういえば2人もあったかそうになってる!」


「「今更!?」」


 声を揃えた2人は驚いたように言ったルークを一斉に見た。

 ルークは驚いているが、驚きたいのはこっちだ。

 ブレアはブレアで「仲良いね。」と2人の声が揃ったことに驚いている。


「オレ朝からずっとこの格好……。何回も見たのに気づいてなかったの?」


「うん、全然気が付かなかった!」


 ルークの様子を見るに、本当に気がついていなかったようだ。

 ベストからセーターになったブレアより、ベストからパーカーになったヘンリーの方がわかりやすい気がするのだが。


「ユーリーのはすぐ気づくのに?お前コイツのことしか見てねえのな。」


 完全に呆れ顔のアーロンが言うと、ルークは即座に否定する。


「ちゃんと他のことも見てますよ!先輩99他1位で!」


「それを見てねえって言うんだよ。例えば周りのヤツも殆ど冬服になってんの気づいてんの?」


 アーロンに言われたルークはキョロキョロと周りを見回す。

 言われてみれば暖かい服装をしている者が一気に増えている気がする。


「本当だ……全然気がついてませんでした。」


「ほらな。逆にお前はいつも通りでいいの?今日一気に寒くなったじゃん。」


 同じように周りを見ていたアーロンは、視線をルークに戻して聞く。


「俺常にバイト着だったんで着れるような上着持ってなくて、着なくていいやーって。」


 ルークが答えると、アーロンは「寒そ……。」と顔を顰める。

 何やら考えていたブレアが、不思議そうに首を傾げて口を開いた。


「ふーん、寒くないの?」


「寒くないですね。」


 ルークが即答すると、ブレアはまた「ふーん。」と小さく頷いた。


「男の時に着てたの貸してあげようかと思ったけど、寒くないならいいか。」


「やっぱりめちゃくちゃ寒いので貸して欲しいです。」


「「変わり身早っ。」」


 一瞬で意見を変えたルークに兄弟揃って苦笑する。

 絶対ブレアの服を着たいだけだ。


「じゃあ、寮に帰ったら貸してあげるから、明日から着ていけば?」


「肌身離さず毎日着ていきます!」


「キモい。」


 アーロンは目の前のルークと、記憶の中の男体時のブレアを比べると、ニヤリと笑った。

 絶対面白い、オチが見える。

 明日は朝からヘンリーと一緒にEクラスの教室まで行こうと思った。

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