ハロウィン特別編2 You scared me!
寮の廊下の電気が点くのは朝の7時なので、まだ廊下は薄暗い。
いつもならもう少し遅くまで部屋でゆっくりできるのに、今日の教師の集合時間は7時だ。
半数くらいの生徒は既に起きていると思うが、この時間に廊下に出ている者はまだいない。
(ハロウィンだからとか、別にどうでもいいじゃないですか。)
何故今日は早く行かないといけないかと言うと、職員会議があるからだ。
何故職員会議があるのかと言うと、それがハロウィンだからと言う少々納得し難い理由なのだ。
学校行事で職員会議があるのは分かるのだが、ハロウィンは世界の行事であり、学校は無関係ではないだろうか。
誰に聞かせるわけでもなく小言を漏らしたリアムは、少し先にある部屋のドアが開いていることに気づく。
部屋の中から灯りが漏れている。
(あれは……ブレアの部屋ですよね?この時間はまだ寝ているはずですが……。)
とはいえ間違いなくあそこはブレアの部屋だ。
様子を伺おうと近づくと話し声が聞こえてくる。
魔法で少し聴力を補正すると、はっきりとブレアの声が聞こえた。
「ちょっと、離してよ……。どこ触って……んん……や……っ!」
ブレアの声から良からぬことを想像したリアムは慌てて駆け出す。
一体何をしているのか、だからルークとの相部屋に反対したのに。
すぐに部屋の前まで来たリアムは自分が冷静さを欠いていることを自覚し、一度呼吸をおく。
兄としては普段から意外と危機感のない義妹のあんな声が聞こえたらカッとなるのは当然だが、ここでは教師としての冷静な対応を心がけなければいけない。
「ブレア、開けっぱなしで何をしているんですか?」
極めて冷静に見えるよう、落ち着いた口調で声をかけながら部屋の中を見る。
「やりづらいじゃない!じっとして!」
「ん……待ってそれ何!?
部屋の中にいたのはブレアとエマで、何故か椅子に座っているブレアがエマに押さえつけられていた。
エマはぎゅっと目を閉じているブレアの顔を片手で支え、右手に持ったペンのような物でブレアの顔に何かを書こうとしていた。
「……本当に何をしているんですか?」
「あれ?リアム先生!おはようございます!」
もう一度リアムが声をかけると、ようやくリアムが見ていることに気がついたエマがぺこりと一礼する。
恐る恐る、といった様子で目を開けたブレアはリアムの姿を見ると一気に顔を赤くする。
「リアム!?何でここに……ま、待って、見ないでっ!」
呆れたようなリアムの視線から逃げるようにブレアはエマの後ろに隠れた。
よくは見えなかったが、奇抜な格好をしていることは既にバレている。
何をそんなに動揺しているのかは分からないが、想像していた展開ではなくてよかった。
リアムがほっと安堵の息を吐くと、ブレアは顔だけを覗かせてリアムを見た。
「……何でいるの。先生が生徒の部屋に勝手に入るなんてよくないと思うなあ。」
「勝手に入るわけないでしょう?開きっぱなしだったので注意しに来たんですよ。ドアも閉めずに何をしていたんですか?それにディアスさんはどこへ……?」
少し落ち着いたのかいつものペースに戻ったブレアはリアムに抗議の目を向けた。
リアムが聞くとブレアは助けを期待して甘えるような声を出す。
「悪戯されてるの。助けて。」
「仮装してました!ルークくんには先に学校に行ってもらいました!」
潤んだ瞳でリアムを見つめるブレアの発言をエマはすかさず訂正する。
少しだけ見えたブレアの奇抜な格好も仮装だと考えれば納得がいく。
じっと見つめてくるブレアを見て、リアムは溜息をついて頭を抑えた。
「そんな顔したら何でもどうにかなると思ってませんか……。案外演技上手いですよね。」
「先生は案外ドライだよね。本気で助けて欲しいんだけど。」
真顔になったブレアが頼んでも、リアムは助けるつもりはないようだ。
ブレアは仮装をするのが嫌なようだが、無理やり仮装されているブレアよりも部屋を追い出されたルークの方が可哀想だ。
エマはどうしてもブレアに仮装をさせたいため、リアムが味方をしてくれそうで安心している。
「助ける必要はないと判断しました。仮装も悪戯も過度なものは指導の対象ですので気をつけてくださいね。」
「はーい!」
エマが元気よく返事をすると、リアムはドアを閉めて出て行ってしまった。
助けを期待していたブレアは少しがっかりしながらも、隙を見て布団の中に逃げようとする。
気がついたエマはブレアの肩を捕まえ、もう一度椅子に座らせた。
「ダメよブレア。仮装はまだ全然終わってないんだから。」
「……もう好きにして。」
エマの有無を言わさぬ迫力に諦めたブレアは強張らせていた体の力を抜く。
ブレアがされるがままになってくれると作業がしやすく、完成したブレアの仮装を見てエマは満足そうに頷いた。
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