第39話 ルークと一緒にはされたくねぇ……!
ルークのことだからすぐにくるかと思っていたが、中々来ない。
教室にはもう殆ど人が残っておらず、ほぼ2人きりの状態だ。
(……気まず!早く来いよ何やってんだよアイツら!!)
アーロンは平静を装いながらも心の中で叫んでいた。
一緒に待っているからといってブレアが気の利いた会話をするはずもなく、すぐ怒りそうなブレアにありきたりな話題をふる気にもなれず、お互いずっと無言なのだ。
あまり仲がよくない、むしろ悪いクラスメイト。
終始無言。
それに――仮にも1度は、ちょっとは好きになった相手。
こんなに気まずいことが他にあるだろうか。
(いや、別にこんなヤツ好きだったことねえし!ただちょっといいなと思っただけで別に全然……。)
魔道具に保存された画像を眺めていたアーロンはちらりとブレアを盗み見る。
ぼーっとしているのか、考えごとをしているのか、それともアーロンのことを見ているのか。
よくわからないが真顔でこちらを見ている紫色の瞳と目が合った。
(……顔は好きなんだよな〜!!!)
ブレアから目を逸らしたアーロンは机をバンバンと叩いて悶える。
目を瞬いたブレアは突然奇妙な動きをし始めたアーロンに不審がるような目を向けた。
「煩い、怖い。どうしたの。」
「顔以外はマジで全く!1ミリも!好きじゃねえからな!!大っっっ嫌いだから!勘違いすんなよ!」
「怖っ。何の話?情緒不安定なの?」
突然大声で何かを否定するアーロンにブレアは顔を強張らせてドン引きしている。
認めよう。ブレアの顔は可愛い。かなり好みな顔立ちをしている。
愛想が悪い、冷たい、性格が悪い、貧乳。顔以外に好みなところは1つもない。
そんなところも好きだと言っているルークの頭は到底理解できないが、あらゆる欠点を顔でカバーできる……かもしれない。
「独り言だよ無視しろ馬鹿野郎。」
「は、独り言煩すぎじゃない?部屋にいる時の彼そっくりで驚いたんだけど。」
「ルークと一緒にはされたくねぇ……!」
ブレアが言う“彼”とはルークのことだろうとすぐに察せる。
ストーカー級にブレアを好いている変態と一緒にされるのは、アーロンにとってはかなりの不名誉だ。
それより部屋にいる時のルークにそっくりと言われると、ルークのことが心配になってくる。
普段からこんな情緒なのだろうか。
確かにブレアの顔は整っていて、可愛い。
だがしかし綺麗な見た目に騙されてはいけない。
ブレアは男なのである。正確に言うと男かはわからないのだが。
本人が性別について明言しているのを聞いたことはないが、アーロンはほぼ確実に男だと思っている。
何故ならブレアと初めて会った時――
「あ、来たみたいだね。」
「失礼します。」と言ってルークとヘンリーが入ってくるとブレアは振り返って小さく手招きをする。
後ろの方の席なのに飛ぶように一瞬で来たルークは「お待たせしました先輩!」と元気よく言った。
「遅い。」
「すみません。」
普通に歩いてきたヘンリーがぺこりと一礼すると、ブレアは1つ隣の席に移動した。
「何で席変わんの?」
「正面か隣の方が教えやすいでしょ?それに君、僕が正面なの嫌かと思って。」
ブレアの主張は正しいが、それなら何故最初から斜め前に座らなかったのだろうか。
ブレアが2人に座るよう促すと、アーロンから見て正面にルーク、隣にヘンリーが座った。
「お前ら来るの遅すぎ。何やってたんだよ。」
「ルークくんが教科書無くしたって言うから探してた。ユーリー先輩と2人で話せて楽しかった?」
「楽しいわけねえだろ!地獄だったわ。ルークの『何話してたんですか?』みたいな視線がうぜえ。」
アーロンが小声でヘンリーに囁くと、ブレアが冷ややかな目を向けてくる。
「全部聞こえてるよ。僕だって嫌すぎて帰りたかったんだけど。」
「じゃあ帰れよ。」
アーロンが睨み返すと、ヘンリーは重い空気を掻き消そうとわざと音が鳴るように教科書を置いた。
思いの外大きな音が鳴って、ヘンリー自身が1番驚いている。
「ほら兄貴、ルークくんに勉強教えてあげるんでしょ?オレもわかんないとこあるから教えて欲しいなー!」
「お前はオレに頼るのが早すぎんだよな。どこだ?」
ヘンリーがパラパラとページをめくってわからないところを指差すと、アーロンは差された所を見て顔を顰めた。
「あーこれムズいよな。オレも1年の時何で魔法基礎に計算入れるんだよって半ギレでやってたの懐かし〜。」
ヘンリーが差したのは教科書に載っている練習問題だった。
パッと見て解く気の失せたアーロンだが、仕方なく問題に目を通す。
「Aは木属性魔法が得意で、Bは普通だろ?得意不得意で基礎魔法の威力は一般的に1.5倍になるって言われてるから、AはBの1.5倍って考えるんだな。」
「先輩の魔法、1.5倍には見えないんですけど……。」
「“一般的に”だ。ユーリーは異常だからノーカン。」
アーロンが問題文を指差しながら説明を始めると、ルークは不思議そうに聞く。
授業でも個人的にも何度かブレアの魔法を見たことがあるが、もっと大きな差があるように見えた。
キッパリと断言したアーロンをブレアは不満そうに見る。
「異常って、失礼だなあ。」
「正常なヤツは炎の基礎魔法で火事寸前の火力出さねえよ。急に隣に火柱あがった時は命の危険を感じたからな!」
以前半ギレで解いていた問題にはキレなくなったが、代わりにブレアに半ギレだ。
1年生の時、掌に小さな火を灯す程度の魔法の実践で隣にいたブレアから天井に届きそうな程の火柱があがっていた時は本当に驚いた。
当の本人は涼しい顔をしていたが、隣の席にいたアーロンは尋常じゃない熱気がものすごく怖かったのを覚えている。
「あの時はあれが普通だと思ってたんだから仕方ないでしょ。今は加減できるようになったんだから許してよ。」
「感性が異常すぎんだよ。お前は魔法じゃなくて一般常識を学べ。んでこの問題は種が花になるまで何秒かかるかってヤツだから――」
何事もなかったようにアーロンが答えの出し方まで説明すると、ヘンリーは「わかった!ありがと兄貴。」と嬉しそうに笑った。
ルークも理解できたようで、忘れないようにと問題文を読み返している。
「わかったんならよかったよ。これほぼ数学だよなー魔法基礎の教科書に載せんなよな。」
「僕は1.5倍とかいう間違った数値を教科書に載せるのがよくないと思う。」
「世界の基準お前じゃねえんだよ。」
不満そうなブレアに呆れた目を向けると、アーロンはルークに教科書を渡す。
教科書を受け取ったルークは何で渡されたんだろうかと首を傾げた。
「お前もわかんねえとこあるなら見せろ。教えてやるから。」
ルークは少し迷った後、教科書を1ページめくって目次のページを開く。
目次から目当てのページを探すのかと思いきや、そのままアーロンに返した。
「……何で目次?」
「彼、全部わからないんだ。」
アーロンは頬を引き攣らせてルークを見ると、「マジ?」と聞く。
真剣な表情でルークが「マジです。」と答えると、大きな溜息をついた。
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