第38話 オレはお前のことなんざ1ミリも好きじゃねえよ
「――というわけで、僕の代わりに勉強を見てあげてほしいんだ。」
「嫌だが。何でオレなんだよ。」
翌日の放課後、SHRが終わるなり自席にやってきたブレアに言われ、アーロンは顔を引き攣らせた。
ルークの勉強が心配なこと、ブレアが教えても集中できないのは理解できた。
それをブレアがどうにかしたいのもわかった。
だがあんなに自分を忌み嫌っているブレアが突然話しかけてきたことも、勉強を教える係が自分になることもわからない。
「エマに迷惑はかけられないからね。」
「オレには迷惑かけてもいいって思ってんのかよ。」
アーロンの問いにブレアは迷いなく頷いた。
顔はいいのに失礼なヤツだな、と思ったのがブレアに伝わったのかそうでないのか、ブレアは怪訝そうに眉を寄せた。
「……エマかオレかの2択しか選択肢ないとか、お前マジで友達いねーのな。」
「必要ないから作ってないだけ。」
「彼氏彼女が出来ねえヤツはみんなお前と同じこと言ってんよ。お前もうちょっと愛想よく出来ねえの?それが人にものを頼む顔か。」
アーロンに指を指されたブレアは両手で頬を挟んでほぐすと、にっこりと口角をあげて笑った。
「簡単だよ、どう?」
「気色悪ぃ……。」
「殺してあげようか。」
笑顔のまま物騒なことを言ったブレアはすぐに真顔になる。
愛想よくしろと言ったのはアーロンだが、いざブレアに笑顔を向けられると気味が悪いと感じる。
顔は綺麗なのだが、なぜか怖い。
何より急に真顔に戻ることが怖い。
「因みに拒否権はないよ。彼には弟さんも一緒にここに来ればいいんじゃないかなって伝えてあるからよろしく。」
「拒否権寄越せよ。勉強教えるとかだりぃこと、オレはやらねーからな。」
心底嫌そうな顔でアーロンが言うと、ブレアは少し口角をあげて笑った。
「ふーん。」と呟きながら、後ろに回していた手を前に出す。
白い手が握っている物を見てアーロンの目が大きく見開かれる。
「はぁっ!?お前それオレのだろ、いつの間にどうやって取った!?」
慌て始めるアーロンを見てブレアはクスクスと笑う。
ブレアが持っているのは、アーロンが常に持ち歩いている記録用魔道具だった。
アーロンは無意識にポケットを探るも、指先に当たるのは底だけだ。
「すごい慌てようだね。君隙だらけだから魔法を使えば簡単だったよ。」
「珍しく腕組んでねえと思ったらそういうことかよ!返せ!」
アーロンの伸ばした手をひょいと躱すとブレアは魔道具の電源を入れる。
「指紋認証なんだ。魔法で電磁波いじったら開いちゃうから変えた方がいいよー?」
「はぁ?おい、勝手に見んなって。プライバシーの侵害だろ!?」
簡単にロックを解除してしまったブレアは感覚的に操作していく。
楽しそうに保存された写真達を眺めていたブレアは呆れ顔で画面をアーロンに見せた。
「僕の写真ありすぎ。君の方こそプライバシー侵害してるよね。“堅物貧乳野郎”って僕のこと?失礼な専用フォルダまで作っちゃうなんて僕のこと好きだなあ。気持ち悪。」
「オレはお前のことなんざ1ミリも好きじゃねえよ。早く返せ。」
「弟さんの写真もあるんだ。ずいぶん仲が良さそうだね。」
サクサクと操作して写真を見ていたブレアがふと指を動かすのをやめる。
アーロンは返してもらえるのかと思ったが、ブレアの目が驚いたように丸くなっているのに気づいて「どうした?」と聞く。
ブレアが見せてきた画面には夏の制服を着たブレアの姿で、かなり近くで正面から撮られた写真が写っていた。
「この写真いつの?記憶にないんだけど。」
「いつって……2年の終業式の前日だろ?お前がぼーっとしてるから撮ったらめっちゃキレたじゃん。」
アーロンが答えるとブレアは「えっ。」と小さく声をあげて画面を見つめる。
「僕その日休んでたよね。起きたら夕方だった。」
「朝からちゃんと起きて来てたよ。覚えてねえの?」
ブレアは怪訝そうな顔で考えるが、やっぱりその日は休んでいたはずだ。
酷い頭痛で寝ていて、起きたのは日が傾いた頃だった記憶がある。
「本当にその日なの?勘違いしてない?」
「してねえ。画面の上押してみろよ。撮った日付出るから。」
アーロンに言われた通りに画面の上部をタップすると、確かにアーロンの言う日付が表示される。
「本当だ……。一日中寝てたはずなんだけどな。」
「ほらな。お前記憶ヤバくね?わかったならいい加減返せって。」
難しい顔で考え込んでいたブレアはまたアーロンの手を躱すと取り繕うように少しだけ口角をあげた。
「僕のお願い聞いてくれるなら返すけど、どうする?」
「……わかったよ。勉強教えてやるから返せ。」
諦めたように溜息をついたアーロンが答えると、ブレアは魔道具を放るように返してきた。
何とかキャッチしたアーロンが「危ねえだろ!」と文句を言うが、ブレアは全く気にしていない。
そのまま帰ってくれるのかと思いきや、アーロンの前の席に座った。
「用が済んだならどっか行けよ。」
「行かないよ?僕も君に勉強教えて貰おうかと思って。」
アーロンがあからさまに嫌そうに顔を顰めた。
ブレアは呆れたような目でアーロンを見る。
「冗談に決まってるでしょ。君に教わることなんてないよ。」
「だろうな。流石学年1位様ー……マジで用ないなら帰ってくんない?」
「君が間違ったこと教えてないか見るからダメ。」
当然、とでも言いたそうに真顔で言い張るブレアに、アーロンは大きな溜息をついた。
そんなこと言うなら任せないで欲しい。
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