第35話 認めないのって、先生のエゴだと思うんだよね
リアムに呆れられたのが気に入らないのか、ブレアは怪訝そうに顔を顰めた。
「聞いててわかんないから聞いてるんだけど。」
「聞いててわからないなら重症ですよ。異性と同室は許可できませんって一度説明しましたよね?もしものことが起こったらどうするつもりなんですか?」
呆れ半分、心配半分といった表情でリアムが言っても、ブレアはリアムの言いたいことがわかっていないようだ。
「異性じゃないし。僕気にしないからそんなこと起こらないよ?」
「同性でもないでしょう?あなたが気にしなくても、ディアスさんはかなり気にしているようですが。」
ブレアは「そうなの?」と隣にいるルークを見る。
ルークが赤くなった顔を隠して「はい。」と返事をすると、ブレアは困ったように肩を竦めた。
「俺も『俺に襲われたらどうしようとか思わないんですか?』って聞いたんですけど……。」
「大丈夫。返り討ちにするから。」
ルークが言いながらちらりとブレアを見ると、ブレアは部屋で話した時のように右手に殺意の高そうな魔法を纏わせる。
「どこからくるんですかその自信は。返り討ちって……襲われるの意味勘違いしてません?」
ブレアは魔法を解除すると開き直ったように「別に性別とかどうでもよくない?」と言い出す。
ブレア以外には全くどうでもいいと思えないのだが。
「ほら、僕と同室なら魔法も勉強も教えられるから、絶対賢くなるよ?教え子の成績が上がったら嬉しいんじゃない?」
「確かにディアスさんは結構ギリギリですが……ブレアくらい優秀になるんですか?」
何気ないリアムの言葉から自分の成績が危ういことを知ってしまったルークは密かにショックを受けた。
成績がいいとは思っていなかったが、担任の口からギリギリと言われると本格的に不安になってくる。
リアムが試しに聞いてみるとブレアははっきりと答えた。
「それは無理だね。僕が賢すぎる。」
「冗談ですよ。どこからくるんですかその自信は。」
得意気に胸を張ったブレアにリアムは苦笑する。
リアムが笑ったからいいと思ったのか、ブレアは「ってことで許可くれる?」と聞く。
勿論言いはずがなく、リアムは初めのように「駄目です。」とキッパリと言った。
「逆にどうしていいと思ったんですか。ディアスさんも何か言ってくれませんか?ブレア頑固で、私の言うこと聞かないんですよ。」
ずっとブレアを諭していたリアムに突然話を振られ、ルークは戸惑いつつも正直に答える。
「俺も言いましたけど……。」
「綺麗に丸め込まれたわけですか。ブレア、駄目なものは駄目なんです。諦めなさい。」
自分には怒るのにルークには話を聞くだけのリアムが気に入らなかったようで、ブレアは腕を組んで唇を尖らせた。
なかなか無茶なことを言っている自覚がないようで、認めてもらえるまで引くつもりはなさそうだ。
「そもそも僕に1人部屋以外認めないのって、先生のエゴだと思うんだよね。シスコンキモいよ。」
「兄ではなく教師として、世間一般的に当然のことを言ってます。」
リアムが強い口調で言うとブレアはムッと眉を寄せる。
交渉は諦めたのか、ブレアはキョロキョロと辺りを見回した。
「……ねえ先生。あそこにいる先生って新任?」
「そうですね。突然どうしたんです?」
ブレアが掲示物を確認していた若い女性の教師を指差す。
怪しみながらもリアムが答えると、ブレアはニヤリと少しだけ口角を上げた。
ブレアは手を伸ばしてリアムから書類を取り上げると、魔法で男の姿になる。
そのままルークの袖を引いて女性教師の方へ歩いて行く。
「ブレア、どこへ行くんですか?」
リアムの問いを無視して、ブレアは「すみません。」と女性教師に声をかけた。
振り返った女性教師に書類を渡すと、これまで1人部屋だったところにルークをルームメイトとして迎えたいという趣旨を簡潔に説明する。
話を聞きながら書類に目を通した女性教師は持っていたバインダーからペンを取り出して何かを書き込んだ。
(先輩、イケメンだけど袖クイ可愛い!)
ブレアは丁寧に一礼すると、心中で叫んでいるルークを引っ張ってリアムのところへ戻ってきた。
「許可もらった。やっぱり先生のエゴだったね。」
「強行突破したように見えましたが。」
得意気にブレアが言うとリアムは分かりやすく眉間に皺を寄せる。
ルークはブレアが他の教師に頼るつもりはないのかと思っていたが、そうでもなかったようだ。
袖を離されたのは少し残念だが、許可が降りたことは喜んでいいのだろうか。喜んではいけない気もする。
「新任なら僕のことを知らない可能性が高い。僕のことを知らない人に男の姿で頼んだら怪しまれない。そして大抵の女の人は男の僕が近づくと思考力が落ちる。しかもリアムはそんなに偉くないから簡単に取り消すことはできない。完璧でしょ。」
「ご丁寧に解説ありがとうございます。将来は詐欺師ですか?」
リアムが大きく溜息をつくとブレアは得意気な顔を崩して「人聞きの悪いこと言わないでくれるかな。」と不満そうに言う。
あの短い間にそんなに沢山のことを考えていたのかと思うとブレアの計画性に驚かされるが、ルークはブレアが自分の顔の良さを自覚していることに驚いた。
因みにブレアは大抵の男の人は女体のブレアが近づくと思考力が落ちるとも思っている。
ルークはどっちでも落ちる。
「最初からこうすればよかった。君のベッド置く場所考えるから片付け手伝ってくれる?」
「はい。片付け得意なので任せてください!」
リアムはまだ心配しているが、ブレアは今にも部屋に戻ろうとしている。
諦めたリアムは大きく息を吐くと、「……ディアスさん、」と普段より少し低い声でルークを呼んだ。
「寮内で不純な行為は禁止です。それから、もしブレアに手を出したらどうなるか……わかりますよね?」
「は、はい……気をつけます……。」
にっこりと笑ったリアムからブレアのものに似た殺気を感じ、ルークは逃げるように下を向いて返事をする。
血は繋がっていなくとも、一緒にいると似てくるものなのだろうか。
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