第32話 一緒に住む?
肩を掴まれ、強く揺さぶられる衝撃と、「――起きて。何寝てるの!」と言うブレアの声に、ルークははっと目を覚ます。
完全に机の上に載っていた頭を起こすと、目の前に呆れ顔で見下ろしてくるブレアがいた。
「すみません寝てました!」
「見たらわかるよ。僕の授業で寝るとか、いい度胸だね。」
「すみません……。」
じっと睨んでくる顔も可愛いな、と思ったことは流石に言えず、ルークは身を縮めて謝る。
起こしてくれればよかったのに……とヘンリーの方を見るが、ヘンリーは肩を竦めるだけだ。
因みに何度も起こしたが、全く起きなかったのだ。
「君、2時間ずっと寝てたよ?彼に聞いてみれば、殆どの授業を寝て過ごしてるって、生活習慣を見直したらどうかな。」
「……先輩にだけは言われたくないです。」
ほぼ一日中布団の中で過ごしている人よりは起きている方ではないだろうか。
そう思い小さな声で言うと、ブレアは不快そうに顔を歪める。
「僕は授業中はちゃんと外に出てるし起きてるから。」
「あらブレア、この間の歴史の授業で寝てたのは誰?」
「あれは……色々あったから仕方ないでしょ。」
隣にいたエマに笑顔で指摘され、ブレアは言葉を濁した。
エマの視線から逃げるようにルークの方を向き、机に片手をついた。
「兎に角、ほぼ全部の授業寝てるとかありえないでしょ。夜寝てないの?」
「寝てはいるんですけど……遅寝早起きで常に寝不足なんですよねー。」
歯切れの悪いルークの様子に首を傾げたブレアはルークが実家通いだったことを思い出す。
詳しい場所などは聞いていないが、かなり遠くから通っていたはずだ。
「家が遠いからそうなるの?」
「1番の原因はそうですね。」
細かく言うと内職作業等もあるが、家が遠くなければ登下校の時間を削ることができるため、内職も夜遅くまでする必要がなくなる。
そう考えればルークの寝不足の原因は家が遠いからだと言えるだろう。
「何で寮入らなかったの?」
「意外と高いので……。」
「ふうん。」と短く返事をして少しの間考えていたブレアは、突拍子もないことを言い出した。
「――なら、一緒に住む?」
「……!どどどどういう意味ですか!?」
ブレアの言葉を飲み込むのに数秒を要したルークは、それでもわからずに聞き返す。
大きな声は動揺でとても震えていて、かなり格好悪かった。
どう言う意味かわからないと言っても、美女の口から発せられた“一緒に住む”と言う単語から期待しない男はいないわけで。
顔を赤くしているルークを見てブレアはくすりと小さく笑った。
「ブレア、そろそろ教室に戻らないと。」
時計を見たエマに声をかけられたブレアは教室の隅に畳まれていた布団を魔法で浮かばせる。
「わかった。じゃあ、後で僕の部屋に来てくれる?」
「は、はい……!」
ぎこちなくルークが返事をすると、ブレアはエマとともに教室を出て行った。
ほぼ放心状態のルークはずっとドアの方を見ていた。
ルークは緊張した面持ちでブレアの部屋のドアをノックする。
過去2回訪ねた時もブレアがドアを開けるのは遅かったためじっと待つ。
返事が遅いと焦らされた気がして、ドキドキしている心臓が余計に高鳴る。
ルークにSHRの記憶はもちろんない。何ならここに来るまでの記憶すらない。
緊張しすぎて何も考えられなかった。
しばらく待ってもドアが開かないどころか返事すらないため、ルークは首を傾げる。
中の様子を伺おうと、ルークはドアに耳をつける。
ドアはそんなに厚くないが、聞き耳を立てても何も聞こえない。
「……何してるの。」
「うわっ!!すみません!」
いつの間にか後ろに来ていたブレアに声をかけられ、ルークは慌てて飛び退いた。
ブレアが布団から出ているのを見るに、今この瞬間来たわけではなさそうだ。
ブレアのすぐ隣にふわふわと布団が浮いていた。
「盗聴とは悪趣味だね。君、来るの早すぎ。」
「すみません。」
ブレアはドアノブを回してドアを開けると、自分が入るより先に布団を中に入れる。
滑るように室内に入った布団はブレアのベッドの上に着地し、動かなくなった。
続いてブレアも中に入るが、ルークが付いて来ないため眉を寄せる。
「入らないの?」
「すみません!お邪魔します……。」
「謝るの好きだね。何でそんなに緊張してるの。」
いそいそと部屋に入ってきたルークに椅子に座るよう促すと、ブレアはドアを閉めた。
魔法で部屋着に着替えると飛び込むようにベッドに横になる。
「先輩が一緒に住むとか意味深なこと言うからですよ!そんなこと言われたら色々……期待するじゃないですか!」
ばっとルークが一気に捲し立てると、ブレアは呆顔を浮かべる。
「意味深ではないでしょ。言葉以上の意味はないよ。」
「言葉通りに受け取っても期待するんですが!?前にも言いましたけどベッドから見上げられるとエロいこと考えちゃうので起きてくれませんか!女の子の姿で部屋着だと前回の100倍えっちなので本当にやめてほしいです!」
「キモい。何でちょっと怒ってるの。」
語気の強いルークにドン引きしつつも、ブレアは渋々起き上がる。
ベッドに腰掛けたブレアは珍しく足を組まずに揃え、その足の上に肘をついて頬杖をついた。
前屈みになると緩んだ服の隙間から中が見える。色々際どい。
「一緒に住むってどういう意味ですか。真剣に。」
「言葉通りの意味だよ。君がよければこの部屋に住む?って聞いてるの。」
ブレアの姿を見ないように顔を逸らしたルークは、早くも驚きでブレアの方を見る。
……本当に言葉通りの意味だった……。
「……ちょっと状況を整理させてください。」
ルークは言葉を絞り出すと頭を抱えてしまった。
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