第31話 教え子に悪癖バラされる気分はどうですかー

 ブレアの頭に手を置いたのは、ブレアの義兄であるリアムだった。


「その不出来で抜けてて口煩い、あなたのことを愛しているシスコンの兄との約束を忘れて生意気な妹は何をしているんでしょうね?」


「全部言ったね。お兄ちゃん迎えに来てくれたのー?」


 リアムはいつも通りの笑顔で言いながらブレアの頭を撫で回す。

 ブレアはさり気なくその手を振り払うと、棒読みで台詞のように返した。


「お兄ちゃんなんて初めて呼ばれましたよ。昼休みはキャベンディッシュさんと私のところに来てくださいと伝えたはずですが?」


「そうだったんですか?すみません!というより、先生がブレアのお兄さんなんですか!?」


 立ち上がって謝罪したエマはキラキラと目を輝かせてリアムを見る。

 リアムが「そうですよ。」と答えると、ルークとブレア以外の3人は驚きの声を上げた。


「全然似てねぇ……てかリアム先生がシスコンとか面白すぎんだろ。」


「義兄だからね。面白いなら先生がシスコンだって広めていいよ。」


 アーロンはリアムとブレアが兄妹だったこととリアムがシスコンだったことに2重で驚いている。

 さらりと言ったブレアをリアムは「やめてください。」叱る。


「よくないです。私はシスコンではありませんよ。」


「無自覚なの?使用人もいるのに毎朝起こしに来たり、ちょっとでも僕の髪が揃ってなかったら切り出す兄とか気持ち悪すぎない?」


「それはあなたがちゃんとしないからです。」


 ブレアはニヤニヤと笑って「嘘だー。」とリアムを煽る。

 リアムと話している時は普段よりブレアの表情が豊かな気がする。

 兄だからだとわかってはいるが、ルークはリアムをかなり羨ましいと思って見ている。


「実はしばらく起こさずに僕の寝顔見てたの知ってるよー?先生ってばへんたーい。」


「見てません!……起きてたんですか。」


 リアムは少し赤くなった頬を隠すように目を逸らす。

 ブレアはそんなリアムの様子を見てくすくすと笑った。


「偶にね。大抵起こされるまで寝てるけど。教え子に悪癖バラされる気分はどうですかー先生。」


「本当に性格悪いですよね。次の授業のについて話があるのでお2人は来ていただいてよろしいですか?」


 リアムは早口に言うとブレアの腕を掴んで立たせ、廊下まで引っ張る。

 エマも後をついて行くが、ブレアとリアムの話がまだ聞きたそうだ。


「あれー先生逃げるの?もっと色々バラしてあげようか?僕が街に行った時心配でこっそりつけてきてたのも知ってるよ。あ、僕の着てた服全部リアムが選んだって聞いてたけど、中々趣味が出てたと思うよ。それに僕の推測が正しければ服だけじゃなくてーー」


「やめてください!今日はやけに饒舌ですね。」


 楽しそうにニヤリと笑いながらあれこれ話しているブレアの言葉をリアムはきっぱりと言って止める。

 そこまで仲良くないと言っていたが、かなり仲が良さそうに見える。

 ブレアも楽しそうだし、なんなら自分達より仲良しなんじゃないかと思いながらヘンリーは笑っているが、アーロンはドン引きしていた。


「重っ。ヘンリー、オレはああならないから心配しなくていいからな。」


「何の心配?わかってるから大丈夫だよ。」


 青ざめた顔で言い聞かせられたヘンリーはくすりと笑った。

 兄貴も大概だけどな、と思いながら。




 そうして迎えた5限目。

 エマとブレアの授業のはずだが、黒板の前に立っているのはリアムだ。

 エマはうんうんと大きく頷きながらリアムの話を聞いているが、その隣で椅子に座っているブレアは真顔でぼーっとしている。


「というわけで今回は、私から校外学習の説明をさせていただきます。ディアスさん、6限はブレア達に授業をしてもらいますから、今は私の話を聞いてください。」


「はい!すみません!」


 ブレアの方を見つめていたルークが慌てて顔を前に向けると、教室のあちこちから小さな笑い声が聞こえてくる。

 すぐにブレアの方へずれていく視線に気づいたヘンリーは横からルークの肩を叩いた。

 一瞬目が合うと、ブレアはふいと視線を逸らしてしまった。


「来月のこの時間、郊外にあるダンジョンで行います。ブレア、資料をお願いします。」


「僕のこと便利屋か何かだと思ってない?あの魔法にも慣れてきたからいいけどさ。」


 ブレアは気怠そうに立ち上がると、手を前に出し、術式の詠唱を始める。

 チラチラとブレアの周りに魔力の粒子が漂い出したが、前回のような恐ろしさは感じない。

 アメシストの瞳には黒い瞳孔があるだけで、七色の光も、不思議な魔力の渦も見えない。

 前のように一人一人の頭上に現れた紙に文字が刻まれていき、机の上に降ってきた。


「魔力の使い方に無駄がなくなりましたね。やるじゃないですか。」


「上から目線なことは、僕よりできるようになってから言ってほしいな。」


 関心した様子のリアムに文句を言いながら、役目を終えたブレアは再び椅子に腰を下ろした。

 リアムはブレアの作ったプリントに目を通し、間違いがないか確認してから説明を再開する。


「当日は3つのチームに分かれてそれぞれ別のルートを進みます。私達のうちの誰か1人がつくので大丈夫だとは思いますが十分に気をつけてーー」


 プリントを見ながら説明しているリアムの話を聞いていると、だんだん眠気が襲ってくる。

 大事な話らしいから、ちゃんと聞かなければいけない。先輩の前で寝たくない。

 起きようとする意思とは裏腹に眠気は強くなっていき、ルークは意識を手放した。

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