第27話 俺が先輩の分も弁当作ってきます!
ようやく弁当に手をつけ始めたルークは、ずっと真顔でゼリー飲料を吸い続けているブレアを見つめている。
左手でパウチを持ち、右手に持ったペンで書く作業を続けているブレアだが、頻繁に本から顔を上げてチラチラとルークを見ている。
「ルークくん、気になることがあるなら遠慮せずに聞いていいと思うよ?」
「うん。そんなに見られたら僕の方が気になるから、何かあるなら早く言ってほしいかな。」
見かねたエマが言うと、ブレアもうんうんと頷いた。
エマはルークの言いたいことが分かっているようで、ブレアの様子に苦笑している。
「……逆に先輩は何もないと思ってるんですか?」
「うーん、特に何も思いつかないな。」
こてんと首を傾げるブレアにルークは大きく溜息をつく。
エマから見れば、いつもと立場が逆転しているようで面白い。
「一応聞きますけど、そのゼリーって、カロリー補給するやつですよね。さっき食べてた薬みたいなのは栄養剤か何かですか?」
「うん。」
ルークは頭を抱えてまたしても大きな溜息をつく。
そもそもルークが溜息をついているところすら初めて見たブレアは、少し動揺しながら「え、何……?」と聞いた。
顔を上げたルークは少し厳しい目でブレアを見た。
「先輩、多分それ両方運動の前後とかに食べるやつです!主食じゃありません!!」
「開発目的はそうだろうけど、僕は食事として気に入ってるからいいんじゃないかな。」
凹んできたパウチをくしゃと潰しているブレアに「よくないです!」と大きな声で抗議するルークは怒っているようにしか見えない。
2つ目のパンも食べ終えたエマはルークがこんなに怒るとは思っていなかったため、ハラハラしながら見守っている。
「よくないですよ!?それは食事とは呼べないと思います!何で普通に食べ物から栄養を補給しないんですか?」
「面倒だから。」
それ以外に理由がある?とでも言いたそうなブレアに、何が面倒なの?とでも言いたげなルーク。
本人達は真面目に話をしているのだろうが、こうも対象的だとみているエマは面白い。
「何が面倒なんですか?作るのは無理でも学食でも購買でも買えますよね?」
「買いに行くのが面倒。食べてる間に何もできないのも
「その意見誰も賛同しませんよ……。先輩絶対一人暮らししない方がいいです。」
「成程ね。両親や先生に学生寮に入れたことを後悔してるって言われた理由が分かったよ。」
呆れ顔のルークに言われてブレアは納得したように頷く。
ルークにはブレアの両親やリアムの気持ちがよくわかる。
ブレアは誰かが何かを食べさせないと間違いなく栄養失調になる。
「わかりました。明日から俺が先輩の分も弁当作って来ます!」
「えっ。……いらない。余計なお世話なんだけど。」
食べ終わったゼリー飲料に蓋をしようとしていたブレアは予想外の発言に蓋を落としてしまった。
何事もなかったかのように拾った蓋をすると、嫌そうに首を横に振った。
「いらなくないです、ご飯はちゃんと食べないと駄目ですよ!」
「いらないってば。何でそんなにやる気になってるの。」
「大丈夫です。俺が作ってここまで持ってくるので、食事という行為自体以外の面倒はありません!」
ルークは完全にやる気になっていて、ブレアが何を言っても作ってきそうだ。
説得を諦めたブレアは本を閉じ、睨むようにルークを見る。
「……言っとくけど、僕作ってきても食べないからね。」
「ありがとうございます!任せてください!」
「耳大丈夫?」
ルークの真剣だった顔が嬉しそうに綻ぶ。
食べない、と宣言されているが、作る許可が降りたと解釈しているようだ。
呆れているブレアに静かに近づいて、エマはそっと囁く。
「ブレア、よかったね。」
「何もよくないけど。」
あからさまに嫌な顔をするブレアを見て、エマはふふふっと微笑む。
何を作ろうかと考え始めたルークはとても楽しそうだ。
(やっぱりこの2人、お似合いだと思うのよね〜。)
無理矢理ルークのことを頭から取り払おうとペンを動かしているブレアと、嬉しそうな表情で急いで昼食を食べているルークはどこをとっても正反対だ。
だけどルークの肩を持つわけではないが、エマは2人の相性がすごくいいと思っている。
ルークのお弁当作りが上手くいけばいいなと思いつつ、他の友達に呼ばれたエマは席を立った。
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