第23話 僕のこと馬鹿にしてるでしょ!?
ブレアの持っている紙にくしゃっと大きく皺がよる。
端正な顔には同じように眉間に皺が寄っていて、先ほどの小さな笑顔は見る影もない。
「……君、巫山戯てるの?」
「巫山戯てません。」
「舐めてるの?」
「舐めてません。」
腕を組んたブレアはしゅんと項垂れているルークを幻滅したような目で見ている。
魔法の練習を始めて早1時間。
一通りの魔法を何度も試したが、ルークは1つとしてできていなかった。
はじめは発音や読み方を間違えていたのでできないのも当然だが、ブレアが直しても何故かできない。
もうどの魔法もブレアの耳にも完璧に聞こえ、どうしてできないのかさっぱりわからない。
「じゃあ何でできないの?」
「精一杯やってはいるんです。」
「人を見る目はある方だと思ってたんだけどな。」
ブレアは溜息をついて足を組み替える。
ブレアの前で正座しているルークの目線だと下着が見えそうでドキドキしたが、指摘しても不機嫌を加速させてしまうだけな気がするので黙っておく。
部屋にいた時は男体で長ズボンだったからあまり気にならなかったが、女体の短いスカート姿で足を組まれると中々に情欲的だ。
他の女子達と比べると細めだが柔らかそうに肉付いた太腿が強調される。
「――話聞いてないよね。」
「聞いてます!」
ルークが足をガン見していることに気づいたのか、ブレアは前かがみになって顔を近づけてくる。
ブレアの動きに合わせて肩にかかっていた髪がサラリと落ちたのも、ルークの心に訴えるものがある。
確かに視覚に集中してしまっていたが、ルークがブレアの声を聞き逃すわけがない。
1言1句聞き漏らさず聞いている。
「何でできないのかなー?1番上とか子供でも無詠唱でできると思ってたけど。」
「無詠唱……?詠唱しなくても同じ魔法できるんですか?」
「……嘘でしょ。そんなことも知らないで今まで生きてきたの?」
ぽかんとしているルークをブレアは信じられないものを見るような目で見る。
半目とは言わないがいつも開ききっていないジト目が丸くなっていて可愛いな、とルークは思っているが言わないでおく。
「授業で習わなかったので?」
「常識だから当然でしょ。いい?魔法に大切なのは想像力。魔法の結果をはっきり思い浮かべれば浮かべるほど、命令が明確になるの。だから術式の分まで想像力を補えれば、無詠唱でも魔法が使える。理解した?」
ずいっと前のめりに迫ってくるブレアに「はい。」と何とかついていけた頭で返事をする。
「勿論、無詠唱で魔法を使うためには術式の作りを理解してそこまで想像する必要があって、ただやりたいことを想像するだけじゃ魔法は使えないけどね。」
ブレアは言いながら立ち上がって少し石から離れる。
ルークが何度言ってもダメだった呪文を流暢に唱えると、ふわりと音もなく石が浮かび上がった。
「ほら、簡単。式も短いからあまり知識がなくても無詠唱でできるんだ。」
「なるほど!そんな魔法だったんですねー。」
「知らずにやってたの!?成功しなくて当然だね……。」
ブレアが魔法を解除すると大きな音を立てて石が落下する。
ルークは顔に砂埃を浴びまくって咳き込んでいるが、ブレアは気にせず魔法を使うよう促している。
「式を間違えない、想像する。この2つができたらできるはずだよ。僕が見本まで見せてあげたんだから、できないとかナシだからね。」
「はいっ!」
「あと、なるべく対象に近づいた方が精度が上がるんだ。触れるなら触ってもいいよ。」
ブレアに見守られながら、ルークはそっと石に触れる。
冷たそうな石はまだ残っているブレアの体温でほんのり温かい。
(想像する、想像する……。)
精一杯魔法のイメージを膨らませるが、煩悩が多すぎて集中できない。
人間、一度気になってしまったら中々切り替えられないものである。
正直に言うとさっきのやり取りの間も殆どずっとブレアの脚を見ていたし、今もスカートの砂埃を払う動作が大変気になる。
無理やり意識を戻して呪文を唱える。
もう何度も声に出した言葉なので、発音も読み方も完璧なはずだ。
しかし石は浮かばなかった。
代わりに、ブレアのスカートがふわりと舞い上がった。
「……君、やっぱり僕のこと馬鹿にしてるでしょ!?」
「決してそのようなつもりはございません!先輩後ろも押さえてください。」
ルークは勢いよく頭を下げて自分が話せる限りの丁寧語で否定した。
ばっと両手でスカートを抑えたブレアはこれまでで1番と言っていいほど怖い顔でルークを睨んでいる。
ルークに中が見えないように前ばかり抑えているため、後ろが完全に捲れ上がっているのが気になる。
ルークに指摘されて片方の手を後ろに回したブレアは「……見たよね。」と小さな声で聞いた。
「……見てないです。」
「嘘つかないでよ変態。」
「……見ましたすみません。」
ルークはさらに深々と頭を下げる。
一度は反射的に否定したものの、ばっちり見えていた。
ちゃんと女物の下着で少し安心したとか、意外と可愛らしい柄選んでるんだなとか、今も左右を抑えられていない影響で太腿が付け根近くまで見えていて大変えっちだなとか決して思っていない。
少しくらい恥じらってくれないかなと思ったが、少しも頬を染めずに冷たい顔でルークを睨んでいる。
「それで、ド変態の君は魔法を解いてくれる気がないわけ?」
「解き方がわかりません。」
「……君って本当に馬鹿なんだね。この魔法の解除式はーー」
ブレアが短い呪文を唱えると魔法が解除され、スカートは落ち着いた。
「これって魔法は成功……でいいですか?」
「確かにできてるけど、標的も絞れないとか論外だからね。それに僕は今すごく君を殺したい。」
「どうぞ殺してください!」
「喜ばないで。」
ルークをキツく睨んでいたブレアははあっと大きく溜息をつく。
「……別に本当に殺したりしないよ。次の魔法にしよう。」
長い髪をはらったブレアはメモを見て次はどの魔法にするか考えている。
(許してもらえた……のか?)
少し安心したルークはつい考えていたことを口に出してしまった。
「……やっぱ黒ってえっちだな……。」
「殺していい?」
ルークの小さな声を聞いたブレアの大きく開いた右手が真っ黒な闇に包まれた。
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