第21話 いつも以上に悪寒を感じるのはなんでだろうね
ブレア――によく似た美少年は、「イメチェン?」と怪訝そうに首を傾げる。
ルークの言いたいことがわかっていないようだ。
「だって見た目が違いすぎるのでイメチェンしたのかと!違いすぎるから先輩のご兄弟か何かかと思ったんですけど、俺の第6感が先輩だって言うんです!匂いも先輩だし!」
「気持ち悪い……そんなに違うかな。」
ブレア(?)は自分の姿を見下ろすと、「ああ、そっか。」と納得したように頷いた。
「そう、イメチェンしたの。」
「え!?」
ほんの少しだけ口角を上げて言ったブレアは「えって、君が言ったんでしょ。」と眉を下げる。
イメチェンだとしてもどうやってやったのか、なぜしたのかなどの疑問は残るが、混乱したルークの頭ではそれ以外の理由を思いつかなかっただけで、本当にイメチェンだとは思っていなかった。
「だって先輩、髪は切ったらそうなると思うんですけど、身長とか体つきが……。」
「うん。僕今日は男にしたから。」
男の人みたいですね、とルークが言う前に、ブレアは当然のことのように言う。
これでルークの混乱も晴れる――わけもなく、え?え?と目を回している。
「言ってなかったっけ。僕、魔法で性転換できるの。」
「え、そんな魔法あるんですか?」
「ない。」
ブレアがよくわからないことを言い出すので、ルークのえ?が止まらない。
魔法で性転換できる?そんな魔法ない?どっちなんだろうか。
ブレアはドアの前から離れ、渋々といった様子でルークを部屋に入れた。
「表向きにはそういう魔法が使えるってことにしてるだけで、本当は僕でもよくわからないんだ。魔力を使うから魔法の一種だとは思ってるんだけど、魔法を使ってる自覚はないんだよね。」
パタンとドアを閉めたブレアは倒れるようにベットに横になる。
仰向けの姿勢でルークを見上げ、「引いた?」と首を傾げた。
「先輩……。」
ルークは深刻そうな表情でじっとブレアを見ている。
帰っちゃうかな、とブレアは思った。
ルークのように告白してきた人は、もちろん沢山いた。
一度振ってもルークのように諦めない人もいた。
けれどみんな、ブレアが男性になれることを知ると、いつの間にか近づいてこなくなった。
誰1人顔を覚えていない。悲しくもない。
むしろ面倒なことが減っていいと思っていた。
だけどルークに見放されるの――ちょっと寂しい。
(……寂しい?何で?寂しくはないでしょ。)
ブレアが理解し難い己の思考を無理やり中断する。
「先輩」と読んだきり口をつぐんでいたルークが口を開いた。
「正直ベットから見上げられるとエロいこと考えちゃうので起きてくれませんか?」
「はぁキモい。超気持ち悪いんだけど。君目見えてる!?僕今男なんだけど大丈夫?」
顔を赤くして言うルークの視力を疑いながら、ブレアは急いで起き上がる。
背中に走った寒気を忘れようと、側に置いてあった上着を羽織った。
「そうなんですけど!男の先輩めちゃくちゃイケメンだけど美人で、髪だって短いけどサラサラで、宝石みたいな目も変わらなくて匂いも喋り方も動きも完全に先輩で、もう先輩のこと好きすぎて男でも女でもどっちでも良くなってきました。男でも女でも先輩はえっちです!」
「うわぁ。如何わしいのは僕じゃなくて君の頭なんじゃない?」
「冷たい視線も素敵です。」
いつもの調子に戻ったルークを軽くあしらい、学習机の椅子を引き出して座る。
いつものように長い足を組んで座っているブレアだが、こうも見た目が違うとまた違った魅力があってドキドキする。
「君男だし華奢なとこが好きとか言ってたから、この姿見たらガッカリすると思ってたよ。男色趣味でもあったの?」
何も置かれておらず、使用感のない学習机に頬杖をついて、ブレアは小さく欠伸をした。
「いいえ。俺は先輩みたいに可憐で美しくて可愛い女性がタイプです。今日先輩みたいなカッコ良くてイケメンで綺麗な男性もタイプになりました。男の先輩も腰細くて華奢で綺麗ですね!」
「……いつも以上に悪寒を感じるのは何でだろうね。」
ぞわっと嫌な寒気が背中を走ったのを感じ、ブレアは顔を顰めた。
「――怖くないの?」
「何がですか?」
ルークが首を傾げると、ブレアがじっと睨むような目を向けてきた。
「僕。魔力が異様に高くて、瞳に
「怖くないですよ。」
ルークは考えることなく即答する。
はっきりとした答えに、ブレアは意外そうに目を丸くした。
「確かに変わってますけど、そんなところも素敵です!怖いわけないじゃないですか。」
「……そ。」
座ったばかりだと言うのに立ち上がったブレアは、椅子をしまってドアを開ける。
ドアを引きながら振り返り、ルークに外に出るよう促した。
「もう行くんですか?まだ朝ですよ?」
「あまり部屋に人を入れたくないからね。僕の部屋散らかってて居心地悪いでしょ?」
ルークは改めて部屋を見回すが、とても散らかっているようには見えない。
むしろ綺麗すぎて生活感がないくらいだ。
部屋が狭くなるほど大量の本や資料のことを言っているのだろうか。
「全然散らかってないですよね?先輩の匂いがして居心地は最高です!スゥー……。」
「吸うな変態気持ち悪い。肺活量どうなってるの。」
長く深く息を吸い込んでいるルークに「早く出てよ。」とブレアは少し強く退室を促す。
少し名残惜しいがルークが大人しく部屋を出ると、ブレアも続いて出てきた。
「この時間だと開いてない店も結構あると思うんですけど、先輩が行きたい所はもう開いてるんですか?」
「え?……ああ、そっか。うん、開いてる開いてる。」
魔法で鍵を掛けているブレアは、「行こうか。」とルークに一声かけて歩き出した。
(2人っきりだし、やっぱりこれ先輩とデートだよな!?)
ワクワクした気持ちで見つめてくるルークの視線に気がついたブレアは嫌そうに顔を顰めてそっぽを向いてしまった。
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