第20話 ……イメチェンしました?
ストレートに言ったルークの頭をアーロンが強く叩いた。
「人の画面勝手に見んなよ。あと、仮にもこいつのこと好きなら見たいと思っててもんなこと言うな馬鹿野郎。」
「へぇ。」
関心したようにアーロンを見たブレアは視線を移動させ、エマとアーロンを交互に見る。
「可愛いエマの前で紳士振りたい人がいるみたいだし、僕は帰ろうかなー。」
後ろを向いて教室内に置いていた布団を魔法で操るブレアにアーロンは「んなんじゃねぇよ!」と少し裏返った声で叫ぶ。
「あれ、違うの?まあ何でもいいんだけど。」
ブレアはくるりと振り返ると少し含みのある言い方で言うと布団に乗る。
長い銀色の髪がサラリと揺れて、ルークの目の前に舞った。
「じゃあ、明後日遅かったら承知しないから。」
ルークの方を見て言ったブレアは布団を被って行ってしまった。
ルークはブレアが帰ってしまって寂しがっているが、ヘンリーはそんなルークの相手をしてあげられる場合ではなかった。
ブレアが帰り際にした会話が頭の中をぐるぐる回っている。
(え……兄貴、エマ先輩のこと好きなの!?)
初耳だ。意外すぎる。
昔から女好きで彼女をとっかえひっかえしていた兄が、あの軟派男のアーロンが。
去年辺りから殆ど浮いた話をしてこないのはそのためか。
(もしかして結構真剣に好きなの?3年間?うわっマジか。)
隣に立っているエマの顔を盗み見ると赤くなった頬を両手で押さえている。
青色の瞳はキラキラと輝いていて、まさに乙女といった表情だ。
「エマ先輩、どうしたんですか?」
脈アリか……?と期待を込めてヘンリーが聞くと、エマは誤魔化すようにえへへと笑う。
「いやぁ、普段見た目とか全然気にしないブレアに可愛いって言われたら、何だかくすぐったくって!気にしないでー。」
エマがあまりにも嬉しそうなので、「あ、そっち?」とは言えなかった。
これは単にブレアに褒められたのが嬉しいのか、はたまたアーロンに全く脈がないのか……。
「兄貴、ドンマイ。」
「うるせえ。」
不憫な兄を励まそうとヘンリーが声をかけると、拗ねてそっぽを向いてしまった。
リアムは何の話をしているかわかっていないルークに声をかける。
「ディアスさん、先程ブレアが言っていましたが、明後日何かあるんですか?」
「はい!デートです!」
にこにこと笑っているルークにえ?と全員が注目する。
あのブレアがデートなどするわけないじゃないかと誰もが思っている。そもそも付き合っていない。
「またまたー、買い出し行くだけでしたーとかそういうやつじゃねえの?」
「そうですよ。」
「そうなんだ。デートじゃないじゃん。」
即答するルークにヘンリーが突っ込む。
リアムとエマは何やら考え込んでいた。
「2人で出かけるからデートだろ!街に出るんだぞ!?初めて先輩と校外に出るんだぞ!?」
「ねえアーロンくん、それってちょっとまずいと思わない?」
こそっとエマに耳元で囁かれたアーロンはすぐにエマの言いたいことに気づいたようで、「……まずいな。」と深刻な顔で言う。
リアムも同じことを考えていたようで、「ですよね。」と息を吐いた。
「え、何がまずいんですか?俺変なことしませんよ!?」
「お前が変なことするのはわかってるからいいんだ。」
「だからしませんって。」
頭上に“?”が浮かんでそうなルークの肩を、アーロンがポンと叩いた。
「もし失恋したら、オレの部屋に来ていいからな。」
「え?どういうことですか?」
まだ疑問の晴れないルークが聞いても、アーロンは答えを教えてくれない。
「悪い、オレからは言えねぇ、エマ逃げるぞ!」
「ごめんルークくん、自分で確かめて!」
一方的に言うと2人揃って走り去る。
リアムもこれ以上聞かれたくないようで、そっと準備室のドアを閉めてしまった。
「……なあヘンリー、オレちょっと不安になってきたんだけど。」
「うん、頑張って。」
エマ達が何を危惧しているのかは知らないが、ルークの恋心が折れることは絶対にないだろうとヘンリーは思った。
そして2日後。
コンコンっとルークは軽快にブレアの部屋をノックする。
「んんぅ。待って、昼から行こうって言わなかったっけ?」
ドアの向こうから聞こえてくる寝起きと思われるどこか間の抜けた声と呻き声に少しドキドキする。
小さな声をルークは問題なく聞き取って返事をする。
「昼から行くってことは、朝来たらそれまで喋れるかと思いまして!」
「君……相当馬鹿だよね。」
現在時刻は午前8時。
昼まではまだまだ時間がある。
ルークなら1時間くらい早く来そうだとは思っていたが、まさかここまで早く来るとは。流石のブレアでも予想外だ。
「仕方ないなぁ。」
ふわぁっと欠伸をしながら話すブレアの声に、ルークは違和感を覚えた。
元々少し低めのブレアの声だが、今日は一段と低い気がする。
僅かな違いだが、ルークはブレアのことが好きすぎる故にわかる。
寝起きだから喉が枯れているのだろうか。それとも調子が悪いのだろうか。
ルークが考えているとガチャリとドアが開いた。
中から出てきたブレアの綺麗なアメシストの瞳がルークを
「何?」
「え……と、先輩何だか今日は……。」
固まっているルークを見て怪訝そうに細めたアメシストの瞳は普段より幾分鋭く、直に聞いた声はやっぱり少し低い。
ここまでは別にいいのだ。
寝起きならそんなこともあるだろう、驚いたりしない。
だが問題はここからなのだ。
ルークより少し背が低いはずなのに、眠そうな眼差しはルークのことを見下ろしている。
ドアノブを持つては骨張っており、鎖骨の下にあるはずの控えめな膨らみがない。
ブレアのチャームポイントとも言える銀色の長髪――であるはずの髪は、襟足くらいまでしか伸びていない。
しかも服装は制服なのだが、男子制服なのだ。
「……イメチェンしました?」
自分より頭1つ分程高い位置にある整った顔を見上げて、ルークは混乱しながら聞いた。
目の前にいるのはどう見ても、ブレアにそっくりの美少年だった。
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