第19話 わぁ先生、失職の危機かな?
アーロンが写真を撮るとリアムはさりげなくブレアから手を離して距離を取る。
「……なあエマ。こーゆー時って誰に報告すればいいんだ?校長?」
「え、何のこと?」
廊下で3人で話していたエマに意見を求めるが、室内を見ていないエマは首を傾げるだけだ。
リアムは着ていた上着をブレアに掛けると早足でアーロンに近づいてきた。
にこにことした優しい笑顔を浮かべているのが逆に怖い。
アーロンが逃げようとすると、リアムは両肩に手を乗せて抑えた。
「すみません。今のデータは削除していただけますか?」
「いや……いくら相手がユーリーでも、教師が生徒に手ぇ出すのはやべえって、思うんですよ、ね。」
笑顔から伝わってくる圧がすごい。
2人きりの密室でブレアの服ははだけており、その腕をリアムが掴んでいるとなると、どう考えたってそうにしか見えない。
気のせいかもしれないが、胸を触っているように見えたのもある。
アーロンは歯切れ悪く言いながらエマに視線で助けを求めるも、エマ達はまだ何が起こっているかわかっていない。
「わぁ先生、失職の危機かな?」
「貴女は見ていないで服装を正して、誤解を解くのを手伝ってください。痣は消えたでしょう?」
2人を見ていたブレアは魔法で手早くボタンを留めてリボンを結んだ。
何で脱ぐ時は魔法を使わなかったんだろうと思ったが、今はそんなことを聞いている場合じゃない。
ブレアは冷めかけた紅茶を一口啜るとニヤリと笑って頭を傾ける。
「誤解って何のことかな?先生に強姦されそうになりましたーって言えばいい?」
「……ブレア、やっぱり貴女は黙っていてください。」
完全に面白がっているブレアの声を聞いたルークがアーロンを押し退けてリアムに詰め寄る。
「最低です!先生、やっぱり先輩のことそういう目で見てたんですか!?」
「よくわからないけどルークくん落ち着いて!目が怖いよ。」
今にも殴りかかりそうな勢いのルークをヘンリーが止める。
オロオロと戸惑っているエマにアーロンは「エマ、頼む、助けてくれ。」と呼びかける。
教室での言葉を考えると逃げてしまうかと思ったが、何とかしようと頭を捻ってくれているようだ。
「無理!わかんない!ブレア、何とかしてっ!」
目一杯考えた末、ブレアに丸投げした。
「もう少し見ていたかったんだけど……本当に写真をばら撒かれても困るしね。」
ブレアはカップをソーサーに戻すと席を立ち、入り口の方へ近づいた。
「怪我を見てもらっていただけで、君達が思っているようなことはしてないよ。これでいい?」
リアムに上着を返しながらブレアは「それから、」と続ける。
「その写真は削除してくれるかな。僕だってみだりに肌を見られるのはいい気がしないし。それに離れたところから撮った写真じゃあ、画質が悪くてお金にならないんじゃない?」
まっすぐにアーロンの方を見てブレアが言うと、アーロンは仕方なく端末を操作する。
『画像を削除しました』という案内メッセージをブレアとリアムに見せた。
「お前がそう言うなら、今回だけは消してやるよ。」
「ありがと。ところで何の用だったの?」
早く要件を済ませて帰ってほしいブレアは無理やり流れを変える。
アーロンは聞かれてようやくここに来た理由を思い出す。
「そうそう、コイツがお前の助手兼友達?になったとか言い出すから本当かどうか確かめに来たんだよ。」
「本当ですよね先輩!みんな俺が言っても信じてくれないんです!」
「え、それだけですか?」
リアムがつい思ったことを口に出すとルークが「はい!」と返事をする。
ブレアは額に手を当てて、はぁっと溜息をついた。
「君達毎日そんなくだらない話してて飽きないの?エマまで。」
ブレアは言ってから“君達”の中にエマがいる事に気づいて呆れたように眉を下げた。
気づいたエマは恥ずかしそうに笑った。
「えへへ、私まで来ちゃった。だって気になるんだもの。ルークくんを助手にしたって本当?」
エマが聞くとブレアは少し眉を寄せつつも答えた。
「そうだよ。友達になったっていうのも、まあ、本当かな。」
「マジか。にしては嫌そうな顔してっけど。」
アーロンが指摘するとブレアの顔がさらに歪む。
「確かに助手を頼んだのは僕なんだけど、冷静に考えたら嫌になってきた。」
やっぱりなかったことにしようかな、などと呟いているブレアにルークはすかさず抗議する。
「酷い、取り消し不可です先輩!ちょっとは心を開いてくれたと思ったのに〜。あと俺も先輩が脱いでるとこ見たかったです!」
「本気で取り消すわけじゃないけど、今ので心は完全に閉じたよ。」
ストレートに言ったルークの頭をアーロンが強く叩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます