フュンフウントツヴァンツィヒ 伯父上による御裁可

賭場シュピーラー・ヘレを経営している支配人が全て自供したか。我が甥よ』


『はい。伯父上。御領地を荒らす不逞ふていやからである人攫ひとさらい達が、帝国ターレルの金貨と銀貨と銅貨を資金洗浄する為の場所として賭場シュピーラー・ヘレを利用するのを黙認するのみならず。賭事で負けが込んだ夫や父親が、家父長権により借金の質草として差し出した妻女を、城下町にある奴隷市場にでは無く、闇の奴隷市場に横流しする事により脱税も行っておりました』


城下町にある奴隷市場で行われる取引には、当然税金が掛かり御領主様であらせられる伯父上に税を納める義務が領民には生じますが。賭場シュピーラー・ヘレの経営をされている支配人は、納税の義務から逃れる為に、賭事で負けが込んだ夫や父親から質草として差し出された妻女を、闇の奴隷市場に横流しをしていました。


『あれとはそれなりに付き合いが長くてな、我が甥よ。若い頃は傭兵ゼルドナーをして貯めた金で賭場シュピーラー・ヘレを開いた苦労人でもあるから、必要以上に金銭を節約する傾向がある。若い頃の苦労は買ってでもせよと言うが、苦労して富を築いた者は自らの富を失うのを極度に恐れる守銭奴と化す事もある』


御自身の城館内の椅子に腰掛けられていられる伯父上は、困った奴だという感じにて苦笑を御浮かべになられますと。


『脱税した分は追徴金を課す事とする。支配人のせがれ賭場シュピーラー・ヘレで働く若い衆でもある従業員は、地下牢内でまだ生きておるのだな?』


伯父上の御下問ごかもんに対して、自分は恭しく深々と御辞儀を行いまして。


『はい。伯父上。フロリアーヌ女史が、根元魔法の治癒魔法ハイル・ツァオバーで怪我を完全に癒されました』


自分の奉答ほうとうを聞かれた伯父上は、鷹揚おうように御頷きになられますと。


『長い付き合いのある支配人のせがれ賭場シュピーラー・ヘレで働く若い衆だ、無下むげに扱う訳にもいくまい。事が済んだら城下町の散策公園ルストガルテンにて、晒し台に固定して晒し刑に処す事とする。それまでは地下牢に捕らえておくように。我が甥よ』


『はい。伯父上』


これで賭場シュピーラー・ヘレを経営されている支配人からは、更なる協力を得られます。子息を斬首刑に処せば父親として怒り、不逞ふていやから殲滅フェアニヒトゥングする協力を拒絶する可能性がありました。

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