「サンタ、それ寄越して?」

「嫌だっ。これは、この武器は、俺のなんだっ!」

「サンタ、ちょうだい」

「い、いやだぁあ。ここ、こいつがねぇと、お、俺ぁ、俺ぁ、死んじまうっぶっ殺されちまうよおぉおおお!」

「サンタぁ! そいつを寄越せぇ!」

「うわぁあああああ!」

 俺はパニックを起こして銃を乱射、味方に迷惑だけかけて戦死した。

 GAMEOVER

 でーん。というわけでゲームの話ね。

 休日のゲーセンで体感型のゲームに興じている。二人一組で第二次大戦の戦場を駆けるFPSゲームだ。

 高橋さんがヘッドギアを外して「ふぅ」と息を吐き出した。

「見事な犬死だった」

「ご期待に添えましたようで」

 完全に詰んだ盤面になってしまった故の即興ロールプレイだった。実際に今やったレベルの傍迷惑な兵士がいたかはわからないが。いなかったと思いたいが。

「ごはん」

「そうだな。メシ行くか」

 高橋さんと連れ立ってゲーセンを後にする。

 なぜ当然とばかりこんな休日を過ごしているかというと、高橋さんとはそれなりに付き合いが長いのだ。学校という環境なら高校からだが、ゲーセンという場所でなら小学生から、俺と高橋さんは時に協力し合い時に敵対し、そうやってもう六年ほど切磋琢磨している。今の高校じゃ一番付き合いが長い。他に中学からの友人知人もいるが、小学校からってのは、いないからな。


 行きつけと呼んでいいほど足を運んだ喫茶店で昼食を済ませ、俺と高橋さんは戦場に舞い戻った。

「右Bチェック」

「クリア」

「右C3っ」

「おらおらおら! クリアぁ! キュア!」

「ん……オールクリア、ゆっくり手当てして」

「そうしますぅ」

 痛いのはわかってる。いやゲームキャラの負傷じゃなくて、俺と高橋さんがって話。

 うん、まぁ、小学生の頃からゲーセンで遊んでたので、つまり、中二の時代にも一緒にゲームしてたわけですな。

 いいじゃん、オリジナルで符丁作ったって! 文句あっか!? と世界中に言いたいね言いたくないね。どうか僕らをそっとしておいてください。

 最新の体感型はやはり臨場感も凄まじく、短い時間で俺も高橋さんも息が上がってしまった。……喉を使いすぎたせいでは断じてない。

「どうだったかな?」

 MISSIONCOMPLETE

 の文字に満足して銃を置いたかつての兵士(俺)にバイトリーダーが声を掛けてくれた。なんか知らないけど誇りを持ってるらしくそう呼んでくれと言われている。バイトリーダー。フロア主任でよくない?

「最高でした。な、高橋さん」

「ん」

「高橋ちゃんは相変わらずだね~。おじさんが飴ちゃんをあげよう」

「ん」

 慣れてるのか慣れてないのか、高橋さんはバイトリーダーに今日も飴玉を貰った。

「サンタくんにもあげようね」

「俺はいいですって。もうガキじゃないんですから」

「ふんっ」

「いって!?」

 高橋さんに向う脛蹴られた。普通にいてぇんだけど!?

「相変わらずだねぇ~」

 俺が患部を摩っている間に高橋さんはぴゅーっとどこかへ行ってしまった。ほんとぴゅーって感じだった。黄色のパーカーの後ろ姿。目立つから探せばどうせすぐ見つかる。

「ほんとによかったんですか、こんな最新のゲーム、ただでやらせてもらって」

「いいよいいよ、テストプレイだもん。吐き気眩暈平衡感覚の喪失、視覚や聴覚にも違和感はない?」

「脛が痛いっす」

「それはプレイの補償外だな~」

「異常なしっす」

「よかったよかった。一応あとで高橋ちゃんにも確認を、しておいてもらっていいかな?」

 俺が「はい」と頷くとバイトリーダーは店の奥へと引っ込んだ。事務作業があるのだろう。

 さて、ということでどこぞへ隠れた隊長殿を捜索しますか。

 六年前から、俺が隊員で、高橋さんが隊長だ。


 目標は思っていた通りにすぐに見つかったのだが、すぐに見つかった理由の方は想定外だった。

「へい、そう言うなよ。いいだろ、ちょっとついて来てくれりゃそれでいいからよ」

 嘘みたいな想定外だ。嘘だろ、そんな古風にナンパすること今時ある?

 俺は逆に感激してしまって出遅れてしまった。

「なぁ、いいだろ? へへ」

「い、いたい」

 それは流石になしだ。「おい!」と呼びかけて足早に高橋さんのところへ向かった。

「あんたそりゃ駄目でしょ! 女の子は丁重に扱えって習わなかったのか!?」

「なんだお」

「いいかっ? ナンパってのはな、女の子に気持ちよくお喋りとか食事とかそのあと色々してもらうためにすんだよ。痛がらせるのはな、イタ気持ちいいをわかる相手にだけ! OK!?」

「だからなっ、あ、てめ、いてててて」

「ほら痛いでしょ。このまま気持ちよくしてやろうか? んふ~ん?」

「なっ、きもっ……はなせやっ!」

 放せと言われれば放すけど。

 でも逃げ切るのは無理だと思うんだ。うちのバイトリーダーは、リーダーだから。

「あ、だめだめ、おにいさん、こっちね~」

 早足で店外を目指す男の首根っこがリーダーのふっとい腕に掴まれて、そのまま二人は店の奥に消えていった。事務作業があるのだろう。

 俺は南無南無と手を合わせた後、腰に纏わりつく柔らかさの不安を和らげる。

 隊長殿は、頭を撫でておけばとりあえず泣くことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る