第2話
バルボが国内の主要航空産業の幹部に参集を求めたのは三月も半ば過ぎだった。
是非に、との強い言葉で招待された先はバルボが軍歴をスタートさせた山岳部隊の拠点であり、バルボの故郷。
今は空軍の小規模な実験部隊が展開する飛行場だった。
人里離れており、周囲の村落からもなだらかな丘と点在する森林とで遮られている、辺鄙な場所だった。
普段であれば不便この上ない土地ではあるが、バルボの動静に神経を尖らせていた一部の人々にとっては願ってもいない好立地でもある。
バルボ、ついに立つ!!
英仏との戦争回避に賭けていた一派は呼ばれてもいないのに村へと殺到する一方で、統領とも深い関係があってバルボに深入りするのを避けたい人々は、幹部を招待されていながら決定権のない名ばかりの幹部を送り込んで場を取り繕おうとした。
それでもバルボの強い希望により、航空メーカー各社の名だたる設計技師は全員がここへ集結している。なにかしらただならぬ表明が行われるのは確実だった。
思惑をそれぞれに秘めながら集った人々の前に、主人は姿を見せずに居る。
たしかに呼ばれたとおりの刻限に間に合うように全員が参集したにもかかわらず、である。
訝しげに眉をひそめるものが現れた頃、軽やかな爆音がかすかに響いてきた。
真っ先にそれに気づいたのは自ら操縦桿を握ることもあるメリディリオナリの設計技師だった。太陽を背に滲み出てきたそのシルエットは、彼のかつて設計したRo.51によく似たスパッツを履いた単葉機だった。
しかし、彼のかつて設計した機体と異なり、その飛行機は大洋から飛び出してきたかと思うと鋭くカーブを描いて急上昇してみせた。
そのまま二回、三回と宙返りを繰り返す。目を疑うほどの小さな円を描いたその機体は、今までの激しい機動などなかったかのように、軽やかに滑走路へと舞い降りてくる。
見物していた人々は今度こそ驚きに絶叫をあげた。
いや、そういう派手好みの男だと知っていたはずだ。しかし誰もがすっかり失念していた。
見慣れぬスマートなその飛行機(奇妙なことに、その主翼には王立空軍のラウンデルを描き込まれていない、単純な赤丸だけが記されていた)の風防を開き、飛行帽を脱いで現れたのはイタロ・バルボその人であった。
この緊張の高まりきった今においてもなお、そのような演出を忘れることのないバルボの豪快さに集まっていた全員がもれなく度肝を抜かれた。
これこそ傑物。
統領を向こうに回し、バルボが立つことを期待していた一派は男泣きに咽ぶ。
しかしそれはほどなく裏切られることになる。
まもなく、バルボはここに、バルボの王国の建国を宣言するのだ。
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