第4話:クソピンクちゃん

 雀の囀りに目が覚める。

 どうやらあのまま眠ってしまったらしい。

 布団からのらりとはい出て、窓から入ってくる光に顔をしかめる。


 ……あの大女は!?


 咄嗟に飛び起き周りを見渡すが、昨日と変わらないボロボロの壁紙があるだけで特に異常はない。

 どうやら家までは入ってこなかったらしい…。


 布団を畳み、押し入れに直す。

 朝日が昇り始めているところから、まだ早朝だろう。

 部屋の中心にかけてある古びた壁掛け時計も5時を示していた。


 さて、昨日のヤバい女の件だ。

 恐らく、日記に書かれていた変な女とは間違いなくあいつの事だろう。

 変、という言葉で片付けている知念少年は少し浮世離れしすぎではないか…?


 商店街どころから、神社にまで出没してきやがった。

 どこまで付いて来れるんだあいつ…。


 本来の予定通りなら、残り4日間である。

 身を守るためのアイテムは集めたが、この家に4日間籠城するのは流石に無謀だ。

 あの大女の情報も何一つ知らない。


 ……オカ研部にだったら、あの大女の資料があるかもしれない。

 作中でも幽霊を判定する際、オカ研部の歴代の先輩方によって作られた幽霊図鑑が役立っていた。俺の記憶も完璧ではない為、あれは手に入れておきたい。


 よし、今日は学校に行こう。


 今日の目標を決めて、俺は風呂場へ向かった。







 学ランを着て、恐る恐る家を出ると、特に異常は見当たらない。

 どうやら大女はもういないらしい…。


「あ、眼鏡」 


 そっと扉の前に落ちていた眼鏡を取る。

 何と霊視の眼鏡を落としていたらしい。


 ……危っぶね!あんな思いして手に入れたのに無くしたとか洒落にならん。

 あまりサイズもあっていなかったため、最後の最後で落としてしまったのだろう。

 どうやら傷などはついていないみたいだ。


 家からタオルを引っ張ってきて、くるんでから鞄に入れる。

 護符は3枚ポケットに忍ばせて、残りは押し入れにしまってある。

 老婆からもらった万華鏡も一応鞄に入れておいた。


 さぁ、気合を入れていくぞ…!




 学校もやはりゲームと全く同じだった。

 朝早めに来たため、ゆっくりと自分の靴箱を探す。

 2-Cの靴箱に知念少年の靴があった。


 教室に行くと、まだ誰もいなかった。

 これも良かった。正直席がどこかわからないからな…。

 椅子の後ろに名札がつけられており、窓際の奥に知念少年の名前が書かれた椅子を見つける。

 完全にラノベの主人公の席だな…。


 黒板を見ると、7月4日(木)と書かれていた。

 これが昨日の日付なのか今日の日付かわからないため、教卓の上にある日誌を見てみる。最終日付は7月3日(水)と記されていた。

 ということはやはり今日は7月4日。俺が神隠しに合うのは来週の月曜日ということになる。

 …全く、スマホがないと日付も碌にわからないとは。


 日誌を閉じて自分の席に着く。

 学校の椅子なんて久しぶりで新鮮だ。結構硬いな…。


 にしても早く着きすぎたみたいだ。朝の6時。

 誰もいないはずである。


 もうひと眠りしよう……。





 クラスのざわつきに目が覚める。

 時計を見ると時刻は8時前になっていて、クラスの大半が登校していた。

 その割には、知念少年に近づく者はいない。友達がいないのはガチらしい。

 まぁ、俺も真面目に学校生活とか送るつもりがないから余計な気苦労がなくていい。


「知念くん!」


 そう思っていると、教室の入り口から可愛らしい声がする。

 その方向を向くと、作中のメインヒロインである今野こんの美咲みさきが心配そうな顔でこちらを見ていた。


 やば……!生美咲めっちゃ可愛いじゃん……!

 クラスメイトの女子が有象無象に見えるほど、次元が違う美少女度合いである。

 ピンクの髪の毛がチャームポイントで、奇怪な動きで幽霊に突撃して死亡することからクソピンクちゃんという愛称でユーザーに親しまれていた。


 美咲ちゃんはこちらに近づいてくる。

 教室内が静まり返り、俺のところに到着すると同時にふわっと女の匂いが充満する。

 すげーエッチな匂いだ…!


「大丈夫だった?昨日……休んでたでしょ?」

「あ、う、うん。大丈夫、だよ」


 知念少年の口調を日記で思い出しながら返事をする。

 心配してくれているらしい。美咲ちゃんは、パンツのバリエーションが一番豊富なヒロインで、3人いるヒロインの中で一番開発から優遇されている。


「何か病気とか…?」

「あ、いや、ちょっと体調悪いくらいで特に……」


 首を傾げる姿は流石ヒロインと言わざるを得ない。

 潤んだ瞳もあざとさ200点満点である。


「そう?なら良かった!」


 今度は花が咲くように笑う。

 クソピンクちゃんなんて言ってごめんね…。キミが正ヒロインだよ…!


 圧倒的ヒロイン力に感激していると、美咲ちゃんが近づいてきて耳打ちしてくる。


「おめーがいなかったせいで昨日自腹で飯買ったんだけど?今日はちゃんとおめーが買って来いよ」


 え……?


 美咲ちゃんは一歩後ろに引いて、はにかんだ笑顔で俺に手を振る。


「それじゃー昼休みオカ研部でね!ちゃんと来てね!」


 美咲ちゃんの背中を見送る。

 教室に美咲ちゃんがいなくなり、クラスメイトはまた談笑を始めた。


 ………え?



 どうやらクソピンクちゃんは本当にクソピンクちゃんだったらしい。


 何故、知念少年の貯金があんなに少なかったのかもこれでわかった。

 クソピンクちゃんに搾取されていたのだ。

 あの台詞から恒常的に昼ご飯を貢がされていたっぽい。


 作中では全く、そんな裏の顔見せてなかったんだけど…。

 しかし、これで辻褄が合うところもある。


 最初は知念少年を探そう!と活動していたが、次第に名前も上がらなくなったのも理解できる。ようはATMを取り返そうとしていただけで、苦労に見合わないと判断して切ったのだろう。

 すげーあざといキャラだな…と思っていたが、まさかここまでこってこてのテンプレキャラとは思わなかった。

 クソピンクちゃんはやっぱり期待を裏切らない…!


 かく言う、転生前にエロシーンを見ようとしていたヒロインはクソピンクちゃんである。


 別に性格が好きとかではないのだが、とにかく顔とおっぱいが抜群にいい。

 それだけの理由だったのだが…。


 流石に、こんないたいけな少年から搾取してたとなると話が変わる。


 この少年がどんな気持ちでお金を払っていたか知らないのだろう。

 友達が欲しくて、ようやくできた居場所を守る為に必死になっていたのだろう。

 そう思うとやるせない。


 ……よし、クソピンクちゃんは見捨てよう。


 というかオカ研部辞めよう。

 幽霊図鑑が手に入ればオカ研部に用はない。

 むしろ主人公に会ってしまうと、物語が狂ってそれこそ変な方向へ行きかねない。


 昼休みはオカ研部で資料を盗もう。

 あとついでに、クソピンクちゃんにわからせてやろう。




 昼休み、オカ研部へ向かう。

 三階の北側に位置しており、周りには理科実験室などの特別室も多く、人通りは少ない。ここだったら薄気味悪いオカ研部を隔離するのにいいだろう。

 ちなみに、もちろんお昼ご飯など何も持ってきていない。


 オカルト研究部と書かれたおどろおどろしい書体の張り紙を見つけ、引き戸を引く。

 あまり広くないスペースに、資料が入ったキャビネットが大量にあり、中央にはテーブルとソファーが3つ置かれていた。奥の窓際には、資料を書いたり見たりするのに打って付けの別に椅子とテーブルが置いてある。呪視ではあのテーブルがセーブポイントであった。


「おっそ」


 クソピンクちゃんはソファーにだらしなく座っており、胡坐をかいているせいか薄緑のパンツが見えてしまっている。クソ野郎と言えど、見た目は美少女。

 ……あ、反応勃起しそう。


「早く、パン頂戴。美咲の好きなメロンパン、ちゃんと買った?」


 手を伸ばして不機嫌そうにこちらに催促してくる。

 今すぐにでも転生前のエンディングの続きがしたい。すっごく股間がイライラするヒロインだ。


「は?買うわけねぇだろ。おかしいのは髪の毛の色だけにしろよ」

「……え?」


 知念少年からは出ないであろう台詞に、クソピンクちゃんは一瞬固まる。

 すぐに再起動し、顔を赤くさせて憤怒の表情になった。


「てめ、誰にたてついてるか――」

「うるさいよ。ちゃん?」


 しゃべる前に机に飛び乗り、そのままクソピンクちゃんの口を鷲掴む。


「もがっ!?」

「あのさ、どういうつもりか知らないけど、こんな優しい子からお金巻き上げるとかお前本当に終わってるな。顔と胸以外栄養いってないんじゃないの?」


 知念少年の手から逃れようともだえるが、意外とこの体の力は強く、容易に取り押さえられる。


「別にお金はもう返さなくていいよ。てかお前と関わりあいたくない。オカ研部も辞める。主人公様に腰でも振ってろよメインヒロイン」

「も、もがが!」

「もがもが何言ってるかわかんねぇよ。てか……暴れるな!」


 ソファーに押し倒して、両腕を拘束する。

 力で敵わないと理解できたのか、目は潤んで泣きそうになっていた。


「さ、叫ぶから!」

「勝手にしろよ。正直学校にもあんまり未練はないんだ。どうなったっていい。……何なら今ここで一発やってもいいな…。この間のお預け状態だし」

「ヒッ!!!」

「あ、ごめんごめん。やっぱりクソピンクちゃん顔はいいから反応しちゃったみたい。わかる?この

「あっ…」


 立派なテントを見せつけると、クソピンクちゃんは震えて涙を流し始めた。

 ったく。いじめなんかするなよな。本当にムカつく。


「ご、ごめんなさい…」

「あ?」

「謝るからぁ…許してください…」


 そう言ってクソピンクちゃんはめそめそ泣き始めた。

 人にあれだけ高圧的な態度を取る割に、恐ろしい速度で堕ちたなこのヒロイン。

 まぁ、クソピンクちゃんは極度のビビりだからこの反応も頷けるが。


 ……だが、知念少年に二度と関わらないようにもう少し追い込むか。


「自分が追い込まれたら泣いて謝るのか。随分都合がいいな。人には散々パシらせといて」


 制服も乱れていて、陶磁器のような素肌が露出している。エロゲヒロインは肌着を着ない派らしい。

 試しに片腕を離してお腹をなぞり、可愛らしい小さなへそを弄ってみる。


「ひゃっあ!!!!」


 お腹を触っただけなのに、クソピンクちゃんは大きくエビ反りになる。

 へそをクリっと弄るたびに身もだえて痙攣する姿は実に股間に悪い。

 しかし、流石エロゲのヒロイン。感度はすこぶるいいらしい。

 頬を上気させて、こちらを潤んだ瞳で見つめてくる。


「ら、らめ……おへそらめ……」


 少し楽しくなってきて、そのまま少し汗でしっとりしている首筋を撫でて、顎下を指でくすぐる。


「みゃあ!!!!」


 今度は真っ赤な顔で猫みたいに鳴きだした。

 プルプルと震えて、さらに膨らんだ俺のテントを凝視する。

 声も抜群に可愛いため、声だけで反応勃起してしまう。


 汗で額に髪の毛がぴったりと引っ付き、ただでさえエロい匂いが熱を伴ってムワッと鼻孔に通っていく。俺の尻から伝わるクソピンクちゃんの熱が最初よりずっと熱い。


 これ以上やると俺が腰振りそうだし、そろそろ終わらせるか。


「許すわけねぇだろ」

「んんっ!……ハァハァ……」


 あれ、この子発情してない…?

 なんか息めっちゃ荒いんだけど…。

 それに片腕が空いたというのに全く抵抗しなくなったし…。


「もう、二度と俺に関わるな。飯くらい自分で作れや。メインヒロインだろお前」

「んっ……は、はい。自分でつ、つくります……」


 やっぱりビビってるだけか…?よくわからん。

 元がエロゲなだけで俺が穿った見方をしているだけかもしれない。

 まぁ、もうここまですればいいだろう。二度と知念少年には近づくまい。


 クソピンクちゃんを解放する。

 ソファーでぐったりと涙目で顔を赤くさせて息が荒い姿は、事後感がすごい。


「もう出てけ。俺は今日の放課後からこの部活辞めるから、最後色々見ておきたいんだ」

「……ハァハァ」


 トロンとした目線だけをこちらに向けて、クソピンクちゃんはなおもぐったりしている。

 いや、その表情本当に股間に悪いから出て行って?


「早く!!!!」


 声を大きくすると、クソピンクちゃんはビクッと反応し、立ち上がる。

 乱れた服も直す余裕がないようだ。

 ドアまで小走りで行き、一度こちらを振り返る。


「せ、先生には言わないから……」

「好きにしろ。お前みたいなやつの言葉なんて信用できん」

「……ごめんなさい」


 扉が閉まり、足音が遠ざかるのを確認して、ソファーにダイブする。


「めっちゃいい匂いするやんけぇえええ!!!!!!あのヒロインふざけんなよ!一挙一動がドスケベ過ぎんだよ!!!!ボケェエエエ!!!!」


 俺の股間が落ち着くまで、そこから少し時間を要した。


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