第3話:エッチできる券とエロ眼鏡
日記の内容から、この少年の生い立ちが見えてきた。
要約すると、金なし、親無し、友達なしである。
こんな可愛い見た目をして、知念少年は人生ハードモードを歩んでいる。
手に入れた情報の中に有力なものはなかった。
・親は3年前に死亡。死因は不明。親戚から援助を受けながら一人で生活している。
・知念少年はとても優しい性格だが、引っ込み思案なため友達と呼べる人はいない。オカ研も強引に入部させられてる。
・心霊関係の内容は7月1日を除いてなし。平凡な日常を送っているようだ。
・押し入れ貯金を発見した。10万円ほどあるが、毎月の仕送り額からして、この几帳面な性格の主人公からは少なく感じてしまう額だ。
大抵は意味のない内容が多く、クラスの子と仲良くしたいなぁ、とか遊びたいなぁ、とか見ているこっちが泣けてくるくらい素直でいい子の日記だった。
窓の外はすでに朝日が昇っており、雀の囀りが聞こえてくる。
日記から得られるものは少なかったが、当面の目標は決まった。
まず、来る7月8日に備えて、アイテムを入手すること。
そのアイテムとは『
これを持っていれば一度だけ幽霊を退くことが出来る。
入手できる場所も把握している。商店街の古ぼけた骨董品屋だ。
値段も1枚1,000円のため、買えるだけ買っておく。
ただし、何枚入荷されているかは日によってランダムだ。
そして、次は『
こちらは少し遠いが、商店街を抜けた先の神社にある。
この眼鏡をかけることによって、主人公でなくても霊視が可能になる。
本来はヒロインとの協力プレイが必要なシーンで使うものなのだが、神隠しの時に見えない何かに襲われるとなっては抵抗もできないため、こちらも確保をしておく。
「よし、学校はサボろう」
無断欠席である。
命がかかっているのだ。学校など行ってられるか…!
と、その前にシャワーでも浴びるか。
何せ徹夜した身である。体も少しべとべとしてる気がする。
箪笥から綺麗に畳まれた着替えを取り出し、タオルを持って風呂場へ移動する。
風呂も大分年季が入っているが仕方ない。
学ランを脱ぎ、下着に手をかけると、妙な違和感を覚えた。
…あれ、何かに引っかかってパンツが下がらない。
何だろう、と思いきり下げてみると、出てきたのは巨大なちんちんだった。
可愛らしい少年が持っていていい代物ではない。化け物サイズである。
そのくせ一本も毛が生えていないので、逆にグロテスクだ。
「……流石エロゲの世界」
軽く引きながら体を洗い、着替える。
私服姿になってみたが、完全に小学生である。しかしズボンの中には大人顔負けのモノを隠し持っている。
…色んな意味で補導されないように気を付けよう。
呪視はRPGとADVの要素を混ぜたようなシステムになっている。
探索パートでは3Dのキャラクターを操作し、アイテム収集やイベントなどをこなし、キャラクター達との会話を軸に物語が展開していく。
そのため、ある程度街並みや地理的な情報は頭に入ってるのだが……。
「まんまじゃん……」
外に出ると、見慣れた商店街が広がっていた。
配置されているお店も全く同じ。変に現実世界のお店をの名前をもじった『ワクドナルド』や「TATSUYA」なども同じである。
行きかう人々も、現実世界となんら変わらない。
さらに好都合なことに、知念少年のアパートは割かしいい立地条件だった。
目の前が商店街。
日記に合った通り、確かに商店街を通るのが学校に向かう最短の道のりである。
どのあたりで変な女がいたんだろうか…。
……っと、骨董品屋に行くんだった。
目的を思い出す。
骨董品屋はここからだと歩いてすぐのところにある。ありがたい。
店はゲームと変わらずボロボロで、閑古鳥が鳴いていた。
木製の扉を引くと、ギギギという木の軋む音と、ヂリンヂリンという嫌に耳障りなベルの音が響く。
店は狭いため、新聞を読んでいた老婆がすぐに目に入ってくる。
「あの、」
「ここは子どもの来るところじゃないよ」
声をかけようとするが、門前払いである。
確かに、見た目小学生の知念少年が入ってきたらそうなるであろう。
しかし、この程度で引けるほど、こちとら余裕はないのだ。
強気の姿勢で行くしかあるまい!
「ばあさん、『一生の護符』をあるだけくれ」
そう言うと、老婆は新聞紙を置いて、ギロリとこちらを値踏みするように見つめる。
俺も負けじと、眉間に皺を寄せて応戦していると、老婆はフッと笑って店の奥に消えていった。
すぐに戻ってきた老婆の手には5枚の護符があった。
「今はこれしかないよ」
「助かる」
お礼を言って5千円を手渡す。
それを見て老婆は更におかしそうに皺を寄せて笑った。
「面白い坊主だね」
「なんだ、足りてるだろう」
「ああ、ぴったりちょうどだ。ちょっと待ってな」
そう言って、また老婆は店の奥へ消えていく。
もう護符は手に入れたし、用はないんだけど…。
「これも持っていきな」
戻ってきた老婆は、そう言って俺に赤い筒を手渡してきた。
「何だこれ」
「万華鏡だよ」
「万華鏡?」
いらないんだけど。
こんなの作中に出てきてないし、今日日万華鏡で遊ぶ子どもなんていないぞ。
「それのお代はいらないよ。持ってきな」
返却不可のようだ。
老婆はもう用はないと言いたげに椅子に座って新聞紙を広げ始めた。
いらないんだけど…。
まぁ、何かのキーアイテムかもしれないし…。一応持って帰るか。
店を出る。
結構あっけなく購入できてしまった。しかも5枚である!日によっては1枚しかないとかザラなのだが、非常に幸先がいい。この世界で生き残るのなら護符は何枚あってもいい。
護符は全部で5枚。5回までなら、幽霊の即死から免れる。
……あれ、つまりこれって5回までなら幽霊と普通にエッチできるってこと?
いやいや、まてまてまて、頭を冷やせ。
ゲームだとエッチの後に護符を使用するかの選択画面がでるが、この世界の護符の使いどころもわからないし、もし使って何も起きなかったら俺そのまま死んじゃうし…。しかも幽霊によっては寄生して皮膚の一部に顔が出てきたり、謎の卵を腹に生んできたりするやつもいるため、エッチするだけでも大変危険だ。
やはり、この世界の幽霊とは接敵しないようにする。
こちらから災いに向かうことは止めておこう。
次は『霊視の眼鏡』を取りに行く。
霊が見えるというのは結構なアドバンテージで、主人公が主人公たる所以である。
何せ、ヒロイン側から幽霊を見ることも干渉もできないが、幽霊側はヒロインたちに平気で干渉し殺せる。
これも呪視のシステムのクソ仕様なのだが、ヒロインとエンディングを迎える場合、介護プレイが必須だ。
幽霊に気づかれて逃げようとしても、ヒロインはどこに幽霊がいるかわからず見当違いのとこに逃げようとする。
そこ!目の前にいるって!と思わず叫びたくなるような挙動だ。
そのため、霊視の眼鏡は結構キーアイテムだったりする。
これをかけていれば正確に幽霊の位置を把握でき、的確に隠れたりできる。
さらには、物理的な攻撃が可能となる。見えていれば干渉できる仕様で、ものを投げたりして撒いたり、ヒロインだけの能力だが、捕まっても一回目なら自力で撥ね退けることができる。
つまり、多少介護のレベルが下がるのだ。
今回俺の取得目的は別にヒロインの介護ではないのだが、主人公と同じ条件になれるのはデカい。
まぁ、後は単純にエッチな幽霊ウォッチングもできるので、拾っておかない手はない。ゲーム世界でも随分作りこみがされた美少女幽霊(異形もあり)だ。現実世界でどの程度のクオリティになっているか見てみたい。YES幽霊!NOタッチ!近づかなければただのエロい女の子たちなのである。
商店街を抜け、住宅街に差し掛かり坂道になっていく。
神社は山道にある。
アホみたいに長い階段があり、ゲームプレイ時も何この遅延行為…と思いながら登っていたが、この世界に受肉した身からしたら拷問である。
誰だよ、こんな訳わからん段差に設定したの……!
徐々にゴールである鳥居が近づいてきて、頂上に到達する頃には息も切れ切れ、汗まみれになっていた。
せっかくさっきシャワー浴びたって言うのに…。
恨めしい気持ちで神社を見るが、厳粛な空気感に少し落ち着く。
やはり空気が違う。山のせいなのか、それとも人がいないせいなのか、冷たく腹の底に沈殿していくような空気。
深呼吸をしてみると、大分落ち着いてくる。
息を整え、改めて見てみると、古びた本殿は人があまり来ていないのか中々に風化していた。
賽銭箱もところどころ木が折れている箇所もあり、誰かに盗まれているだろうなと思う程荒れ果てている。
やはり人がいないためか気味が悪い。
早めに退散しよう。
目当ての物は神社の裏手の小さい祠の中にある。
祠は石造りのもので、苔がこびりついている。最近人が触った形跡は見当たらない。
なぜこんなところに眼鏡があるかは謎なんだが…。
「…あった」
祠から古びた箱を拝借して、その中にある上等な布に包まれた物を取り出す。
布を開くと、大正時代の作家がかけてそうな丸眼鏡があった。
レンズも汚れて居なく、綺麗だ。
これが、霊視の眼鏡…。結構重いな。
これ常時つけてたら耳千切れるんじゃないか…?
試しに眼鏡を付けてみる。
ゲームプレイ時も神社の中では幽霊は一切現れなかったため、問題もないだろう。
「あ、度は入ってない……み……た……」
目と鼻の先に、大きな白いワンピースがあった。スカートが揺れている。
頭上から黒い髪が垂れてきていて、見下ろされていることに気づく。
顔は見えないけど、かなりデカい。知念少年の身長を差し引いても、普通の人間のサイズではない。何せ俺の目線の先に女性の太ももがあるのだ。
顔を上げると、つばの広い白い帽子被った美女が、真っ黒な目を渦巻かせながらこちらを見ていた。
「ぽ…」
女性は首を傾げてにっこり微笑む。
「ぽぽぽぽ?」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!」
走り出した。人じゃない。絶対に人じゃない!
この眼鏡をかけて見えたのだから間違いなく幽霊の類だろう。
本殿から鳥居へ回り込み、一気に階段を下りていく。
「ぽぽぽ!」
「うわぁああああああああああ!!!!!!」
とてつもない速度でついてきた。
一切顔を動かさず、ホバー移動しているかのように俺の横に並走してくる。
何こいつ!?何が目的なの!?
並走してくるだけで、特に何かしてくる様子はない。
と言うか滅茶苦茶楽しそうに微笑んでいる。その笑顔の意味を理解できず、恐怖は更に加速する。
叫びながら、横を見ずに真っすぐ走る。
階段を下りきった後もスピードは緩めず、商店街も爆走する。
待ち行く人が何事か、と俺を避けるが、あの大女が見えないのだろう。
ようやく家が見えてくる。
正直足はもう限界だ。
階段を駆け上がり、鍵を急いで取り出す。
こうしてる間にも、横で大女がこちらを見て笑っているんじゃないか、と想像して鍵を上手くさせない。
手が滑り、鍵が地面に落ちる。
急いで取り、顔を上げると、ドアの方へ影がかかっていた。
……長い、女の影だった。
今、背後に、いる!!!!
「ぽ……ぽぽぽ?」
「びゃああああああ!!!!」
急いで鍵を開け、ほぼ目をつむりながらドアを閉める。
鍵とチェーンをかけて、押し入れに直行し、布団を取り出して全身にかぶる。
何だあれ…!
何でぽぽぽしか言わないんだよ…!怖すぎだろ!
あんなデカい幽霊作中に出てこなかったぞ…!
しかも家の前まで追ってきてるし!
……俺、このまま死んじゃうの?ここでゲームオーバー?
余計なことして神隠しの日程早まったとか…?
ホントにクソゲーだよ呪視は!
ふざけんなよぉぉおおおお!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます