第2話:タイムリミット
夢であってくれ…という願いは、背中に伝う汗の感覚が容易に吹き飛ばしてくれる。照らされる夕日の熱や、爆発しそうな心臓の鼓動が
俺は慌てて生徒手帳を拾い上げる。
……俺は『誰』なんだ?こんな可愛らしい少年なぞ呪視で見たことがない。
生徒手帳には
『
と書かれていた。
こんなキャラクターいたか……?
少なくともオカ研部にはいなかったはず。
男性キャラクターは主人公を除いて2人しかいない。
しかもその内の一人は幽霊部員……で……。
「……いた」
思い出した。
この子の名前はゲームの最序盤で出てくる名前だ。
オカ研部で『失踪した男の子』。
主人公が転校した直後に神隠しに合う不幸な少年。
そもそものオカ研部の活動目的は、この少年を探し出すことだった。
結果、それよりも大きな事件が起こり、この子の存在は徐々に忘れられていくのだが…。
最初の導入でサッと入ってくる少年。
俺はそんな
作中でも、この少年の描写は少ない。
オカ研部の部員が『すごく可愛い』だの『幽霊に連れていかれるのもわかる』だの評価をしているくらいで、この子の個人情報はほとんど公開されていなかった。
写真さえ出さない徹底ぶりである。
……待て、今は『いつ』だ。
主人公が転校してくるのは7月1日。
この少年が神隠しに合うのはその1週間後の7月8日である。
結局主人公と知念少年は相対せずに物語は進んでいく。
もう一度ポケットを探ってみる。
やっぱり…こいつスマホさえ持ってねえ!
出てきたのは財布と家の鍵とハンカチ。
それ以外は何もない。
貧乏そうだと思ったがスマホも持てない程か…。
立ち上がり、建付けの悪い押入れを開ける。
そこには学校の鞄や教科書などが置いてあった。
やはり必要最低限しかない。
そこに一つ、やたら分厚く赤い手帳があった。
手に取ると随分使い古されていて、表面の色が落ちている箇所がある。
タイトルはなく、開いてみるとそれは日記だった。
…この少年の日記か?
パラパラめくって最終ページを見てみる。
一番最近の日記の日付は…2022年7月1日。
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7月1日
美咲ちゃんのクラスに転校生が来たらしい。
すごくカッコイイと言っていた。羨ましい。ボクはカッコイイなんて言われたことない。
美咲ちゃんが佳苗ちゃんとタッグを組んでオカ研部に勧誘する算段を立てている。
上手くいったら雄二くん以外にも男の子が増える!雄二くんはあんまり喋らないから、お喋り好きな人だったらいいな。
そういえば、今日学校から帰る途中の商店街で、変な女の人がボクをジッと見ていた。
正直とても怖い。他にも人がいるのに、誰もその人に気づいてないみたいだったし。
目が合うと笑いかけてきたから悪い人ではなさそうなんだけど、やっぱり怖い。
明日からは通学の道を変えて行こう。
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あと1週間しかないのか…!
主人公はもう転入してきたらしい。この美咲や佳苗というのは呪視のヒロインたちの名前だ。
ここまで来たらやはりこの世界は呪視ということは確定だろう。
しかも後半の内容。明らかにもう変なものに目をつけられてしまっている。
この女が神隠しの原因なのか…?
それ以外にもこの日記が今日書かれたものなのか、それとも昨日書かれたものなのかもわからない。
何せ今は夕方。この少年が学ラン姿ということも加味すれば、帰ってきたばかりの可能性も高い。
そうなると、日記はやはり昨日のものか…。
その場合、今日の日付は2022年7月2日。
タイムリミットの7月8日まで、後6日しか残っていないことになる。
どちらにせよ、一日多くカウントするより、少ない方がリスクヘッジになるだろう。
この少年がどのようにして消えたのか、どこで消えたのか、詳細は何も知らない。
この日記で知念少年が『商店街は避けよう』と言及していることから、おそらく商店街で神隠しにあった可能性は低い。
逆をついて商店街通りまくるか……?いや、実際よくわからない女がいるわけだし、リスキーすぎる。
やはり、あまりに情報が少ない。
頼みの綱になるのはこの日記。
かなりの分厚さがあることから、恐らく数年分くらいの日記の量だろう。
時間は惜しいが情報収集が先決か…。
日記を最初のページに戻し、日付を見る。
日付は2019年4月1日と書かれていた。3年前から日記をつけているらしい。
同じクラスの美咲は主人公が転入してきたタイミングで高校2年生だというところから、中学2年生から書き始めたのか。
まずは、この子のことを知ることから始めよう。
俺は、常夜灯の紐を引っ張り電気をつけて、日記を読み始めた。
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