じょしやきゅう!
こまち
つうがくろ!
今日は、アタシが今日から通う横須賀中央学園の入学式。
朝早くから、アタシの家の向かいに住む、幼馴染で、茶色い髪をポニーテールに結んだ中性的な声の女の子、中野響子(なかのきょうこ)が、今日から通う高校の制服のブレザーの下にパーカーを着た。彼女らしい制服のアレンジでアタシの家へ訪ねてきた。
「あ、おはよう。」
ドアを開け、響子に一言挨拶を交わす。響子はパジャマのままのアタシを一瞥すると。
「おはよう。寝起き……?」
と、第一声で語りかかる。
「そうだけど……ああ、入学式は今日か…」
起きたばかりでまだ眠気の残る目を擦りながら、だらしがなく力の無い声でそう呟くと、「そうだよ。入学式。だし、潮音とちーちゃん。待ってるよ?」
と。呆れたように口にする。二人は、500m程離れた家に住んでる、所謂幼馴染だ。
昔は四人で良く遊んでいた。中学時代も、四人で遊ぶ事はあったが、他三人が野球部だったのに対し、アタシはサッカーをやっていたから、多少のすれ違いはあったものだ。
そんな事よりも、「幼馴染が待ってる。」と言う言葉にはっと気付き、響子に質問を投げかける。
「やっべ……響子、今何時…?」
恐る恐る時間を聞く。正直、かなりヤバいと思っている。
朝九時までには完全登校。いつもより寝れると、完全に余裕をぶっこいて、昨日は夜更かしを決めてしまっていた。
「んー、8時…15分。」
「え!8時……15分?集合時間って、半だったよな?」
「うん。だって、さゆり朝弱いじゃん。どうせ昨日も夜更かししたんだろうなーって。
だから、少し余裕を持って来たの。」
完全にバレている。心を見透かされ、なぜだか悔しいと思うと同時に、響子が抜かりない人で助かった。と、相反する感情をいっぺんに抱く。
「わかったから。今から準備するから待ってて。」
気の抜けた返事をすると、玄関前の響子を背に、部屋へと戻って行く。
制服はよくある黒いブレザー。
中学の頃とは打って変わって。全く新しい制服に、これからの新生活の期待を込めて袖を通す。
中学時代は、部活の子達とも、あくまでチームメイトって感じで、そこまで仲良くはならなかった。
結局、幼馴染三人と遊ぶ時間が一番多かったのが事実で、今、その三人以外の、誰か、まだ顔も名前も知らない。「あたらしい友達」に期待を抱いてるのもまた事実だ。
制服に着替え終わり、時計を見ると22分。自業自得だが、当然、朝食を食べる時間なんてありやしない。
昼まで出し、朝食抜きでもなんとかなる。
むしろ、中学の時までは抜いてたし。それが自分にとっては『いつも通り』なのだ。
「おまたせー………」
「お、さゆり、制服似合ってんじゃん。」
響子が、半分、からかいのようにそう呟く。
「ありがと。」
褒められ慣れてないから。そんな言葉しか頭に思い浮かばない。
ほどなくして、響子が「いこっか。」と呟き、アタシもそれに応え、アタシの先を行く彼女に着いていく。
ーーーーー
「あ…おはよう…」
鮮やかな水色の髪をセミロングに伸ばした水色の瞳の彼女、芳槻潮音(よしつきしおん)がアタシ達に気付くと「おはよう」と、挨拶を交わしてくる。内気な彼女だが、アタシ達には打ち解けてくれていてる。
が、まあ、朝だからか、あまり元気の無いような。気の無い挨拶をアタシ達にかけてくる。
「おはよ。潮音。」
響子が軽く挨拶を返す。
「響ちゃん、おはよう。って、さゆりも!!」
驚いたような顔でこちらを見つめた金色の髪を腰まで伸ばしたログヘアーと、金色の瞳が特徴的な彼女、佐藤千春(さとうちはる)だ。
「驚くよね、普通。私も、まさか朝早くに来たのに出ると思わなくて、、、」
真剣に千春を見つめて響子がそう言う。
「ハイハイ。アタシの前でそういう話はやめてくれ。」
響子と千春がアタシをからかうような会話をするが、アタシがそれを止めさせる。
会話が途切れると、響子が「行こっか。」と呟き、校舎へ向けてへ歩き出す。
「そう言えば……さゆりちゃん…高校から野球始めるって話、本当……?」
潮音がアタシに語りかける。アタシが返事しようとしたが、アタシよりも遥かに先に、返事をしたのは響子だった。
「心配しなくても本当だって、二人で帰ってた時絶対言ってたし。」
「良く覚えてんな。ホント。」
呆れたように力無く返事をすると、そりゃ嬉しかったもん。と、響子は静かに笑う。
ーーーーー
そんなこんな、色々喋っていたら、通学路の坂を少し下った先、今日から通う創立75年の横須賀中央学園。とても大きく、小綺麗な校舎が見えた。
「クラス…どうなってるかな。」
響子がつぶやく。うちの学校は毎年250人前後が入学するため、例年クラス数は9つになるそう。
アタシたちの入学理由は単純で、家から最も近いのがここだったからである。
ここ、横須賀中央高校は、神奈川県の高校では、スポーツはそこまで強くはないものの、偏差値も中の中くらいで、就職、進学実績もそこそこで、この辺りなら、一番学校生活、私生活を切り離して行える安定感のある学校で、毎年、一定の人気はある。
さて、やはり、クラスは気になるだろう。
9クラスもあれば、全員が別のクラス。ということもありうる。というより、全員別のクラスである方が普通だと思う。
同じクラスでなくても全然構わないのだが、欲を言えば、幼馴染のうち誰か、一人でも良いから同じクラスであって欲しいとは思う。
現在は4月8日。流石に満開では無いものの、桜はいまだに綺麗に咲いている。
校舎内に入ると、玄関には、すでにクラス表が貼り出されていた。
アタシのクラスはどこだろうか。
50音順で名前が羅列されており、1組。2組と順に見たものの、そこにアタシの名前はおろか、他3人の名前すら無かった。
「あった!」
最初に声を上げたのは、響子。
「あら、響ちゃんは何組かしら?」
「私は2組…!」
2組……。さっき見たが無かったな…と思いながら3組を見る。
アタシは下の名前が「さゆり」と、三文字で、且つひらがなのため、案外すぐ見つかる。
上から探せば、すぐにひらがな『さゆり』が見えた。苗字はちゃんと駒形。
私は3組だ。
「あら、私も2組よ。」
次に声を上げたのは千春だった。
「中野響子(なかのきょうこ)」「佐藤千春(さとうちはる)」この二人の名前は、確かに2組にあった。
「あ…あった…!私は3組だよ…!!」
や行から始まるため、名簿を下から探したらすぐに見つかる、「芳槻潮音(よしつきしおん)」は、出席番号も下から2番目。アタシは潮音と同じクラスになる。
ひとまずは、各教室にて待機とのことで、わかったならはやく移動しよう。と声をかける。冷静を装うが、幼馴染が一人同じクラスに居る。内心はめちゃくちゃ嬉しい。が、抑えながら。声を出す。
アタシが先に歩き出すと、響子、千春、潮音と着いてきて、やがて響子、千春はアタシを追い抜き、潮音はアタシの隣へ。
「ちーちゃんと同じクラスで助かったよ。とりあえず幼馴染が居ればクラスで浮くことはないもんね…。」
「それ、アタシも思ってた。誰か一人幼馴染居たらなぁ…って。だから、潮音が居て助かったよ。」
前で進む響子と会話をしながら廊下を歩く。
「1年3組」の札が先に見える。
もう少し歩けば、アタシと潮音の教室だ。
周りはと言うと、友達と「クラスどこだったー?」などと話す声や姿がちらほら。
入学式の日だからか、全体的に浮ついた雰囲気だ。
「じゃ、私達こっちだから。」
そういうと、さっきの子が入った2組の教室へ、響子と千春は入っていく。
「私達も行こっか…」
潮音が呟く。『だな。』などと軽く返す。
教室まで少し歩く間、お互い話題も特になく、無言のままだったが、それでも気まずくはなく、むしろ心地良いくらいだった。
ガラガラ……
やけに取っ手の大きいドアを右へスライドすると教室が広がる。
目の前には、中学の時よりやや広い教室と、これから一年、一緒に過ごすクラスメイト達が見えた。
じょしやきゅう! こまち @tomori_desu
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