第8話


 きっかけはシンデレラ。

 彼女に惚れた王子様が、ガラスの靴を頼りにシンデレラを探したところはいい。それはべつにいい。どうしても気になったのは、彼が彼女に惚れたシーン。あの時、彼女は灰被りシンデレラではなかった。義母や義姉に虐められている普段の彼女に惚れたわけではなく、綺麗で美しいシンデレラに彼は惚れたのだ。それが悪いわけじゃない。私だって、綺麗と汚いであれば綺麗を選ぶ。それが当然で、それが当たり前なんだ。


 次は美女と野獣。

 野獣が人間に戻るシーンに、私のなかで感動が生まれた。彼は野獣な自分が嫌だった。醜い自分が嫌だと言っていた。戻れたという事実が彼をどれだけ救っただろうか。野獣のままでも受け入れてくれた人がいること以上に感動したのではないかとすら私には思えてならない。だって嫌いな自分から抜け出せたんだから。


 外的要因で姿を変えられていた人間が元に戻る展開はいい。それはいい。だって彼らは戻りたがっていたんだから。


 じゃあ。

 どうして、人外が人間になる。


 彼らは自分が嫌いなのか。そうであればまだ分かる。私だって私が嫌いだ。自分ではない何かになりたいと思う気持ちを否定しない。だけど、いや、だからこそ、自分に誇りを持っている人外がどうして人間なんかに成り下がる。

 誇りなさいよ。自分が自分であることに誇りを持っているなら、持っている義務を果たしてくれないと、持っていない私はどうすればいい。自分が好きな自分のままで世界のほうを変えてくれないと困るんだ。だって私は持っていないから。持っているヒトが世界を変えてくれないのなら、私はもっと変えられない。希望くらいは持たせてほしい。私にだって夢くらいは見せてほしい。他力本願? 知っている、知っているから、知っているんだ。そんなことは私が一番知っているんだ!!


 などと。


「申し訳ございません! 申し訳ございません!!」


 言える勇気などなくて、私は再び地面に額を擦りつけていた。つい、で済む話ではない。私が死ぬのはまだいい。嫌だけど、いい。私のせいであの村にまで迷惑がかかったらどうしよう。生け贄にされて考えることじゃないかもしれないけど、迷惑をかけるということが嫌なんだ。それはもう、嫌なんだ。


「申し訳ございません!! 申し訳ございません!! 申し訳ございません!!」


「そこまで……謝らなくても、あの、顔をあげて、も……いいよ?」


「申し訳ございませんんんっ!!」


「どうしよう……これ……」


 声が枯れるまで私の謝罪は続いた。

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