第5話 死の巨大化ゲーム――恐竜篇
地球史上、最大の生物は哺乳類のシロナガスクジラであるが、陸生に限れば、恐竜の竜脚類となる。いわゆる、ブロントサウルス、アパトサウルス、ブラキオサウルス、スーパーサウルスなどなどである。ちなみに前2者は同一種と考えられていたが、実は違うという最新研究もあるそうだ。
この大きくなれた理由として、
なぜ、こんなに大きくなったのかという話である。
一つは食べ物である。食べ物が進化を導くというのは一般的にみられることである。イルカが最も分かりやすい例だろう。頭の上に鼻が来たり、脳を半分ずつ眠らすなど、昆虫に負けず劣らずの進化を遂げているのであるが。それもこれも魚を食べたいがため。(ちなみに、第2話で挙げたイッカクもその仲間である。イルカとクジラは大きさで分類を分けているだけで、体の構造上、大きな違いがある訳ではない)
話を竜脚類に戻そう。体も大きいが首も長い。今の哺乳類で近いのを探せば、そうキリンさんである。高いところのものが食べられるよ。それどころか、独り占めだい、という訳である。
もう一つ。対肉食恐竜である。これは、現在でいえば、ゾウさんが取っている戦略に近い。皆無という訳ではないだろうが、ライオンがゾウを襲うことは、決して多くないだろう。
純粋に強さ比較なら、それでも、ライオンに分があるかもしれない。しかし、獲物をとるということは、ライオンにとっては日常のことなのである。例えば、ライオンがゾウを襲って致命的な傷を負う可能性を1割ほどとする。そうすると、確率だけでいえば、運が良くても10回襲えば、自分が死ぬことになる。よほどに、飢えで追い込まれなければ、取るべき戦略ではないことが分かる。
肉食恐竜の代表例といえばティラノサウルスである。分類でいえば獣脚類と呼ばれ、2足歩行を特徴とする。ティラノサウルスもライオンと同じだったろうか。あるいは、戦績としてはもっと増しだったかもしれない。
ここで、少し話がそれるが、なぜ、ティラノサウルスの腕が小さいのかを考えてみたい。腕が小さいこと、その理由そのものは分からない。しかし、進化上、体が大きくなるにつれ、腕が小さくなっていたことは分かっている。私自身の考えを述べると、より顎を巨大化するためとなる。
筋肉というのは備えているだけで、エネルギーを大量に消費する。なので、使わない筋肉はすぐに衰えるようになっている。これはまさに我々自身の体で実感するところであろう。そう。何より、飢えに備えなければならないのだ。
ティラノサウルスはより大きな獲物――これは竜脚類となろう――を捕らえるために、その体を巨大化させ、同時に顎及びそれを動かす筋肉も強大化させた。といって、ティラノとはいえ、飢えと無縁な訳では無い。足の方は獲物を追うために削る訳には行かない。なので、腕を小さくした。
ちなみに、あの腕がむしろ小さいゆえに、狩のときに役に立ったとの説もあるが、正直、信じがたい。人の尻尾しかり、飼い猫の尻尾しかり、使わないから、無くなったり小さくなるのである。例えば、ユキヒョウなどはその崖を上り下りするのにバランスをとるのに欠かせぬから、大きくて長いままである。
話を戻そう。竜脚類の巨大化がティラノサウルスなど肉食恐竜に対する罠となること。つまり、竜脚類に負けじと、自身を巨大化させる。しかし、巨大化させるほどに、個体数は減るのである。獲物の数も減っておれば、自らの数も減っている。それに加え、自らの生存に必要なのは、安定的な食糧の確保である。なるほど、竜脚類をしとめるを得れば、まさに大勝利、群れの皆にいきわたる食料を確保できるかもしれない。余りさえするかもしれない。しかし肉はすぐに腐るのである。そう、備蓄が効かないのである。
(生存戦略として、秋鮭が一斉に遡上するのに近いです。熊はまさにこの恩恵に預かるのですが、雑食の熊ですら、他の時期の食料確保には少なからず苦労する。そこで、ハチミツを狙うとなる訳ですが、これはまさに余談ですね。でも、ハチに刺され痛がりながらも、ハチの巣を食べる姿は、『甘い』って偉大だなと想わせる瞬間であったりします)
なら、竜脚類は放っておいて、もっと小さい獲物をターゲットに、となるのではないか。ライオンがゾウではなく、より敏捷ではあれもっと小さい獲物、でもたくさんおり、日常的に得られる動物を獲物としたように。
恐らくティラノなども同様であったと想う。あの小さすぎる腕は、そこでの苦闘を示しているように想えるのだが。
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