第51話 後始末とザルな死神

「報告書はこれで全部だな」

 紀川氏を現世に帰し、後は野登から報告書をもらって上にわたせば通常業務に戻れる。

 上級悪魔が狩崎氏の二人のみだという事はとても嬉しい報告だ。だが上には上級悪魔は全滅させたと報告しなければ、狩崎氏らは確実に消されてしまう。

 これまでの功績を考えればそれもどうかと思うが、それが死神というものだから仕方がない。

「今回は貴女のおかげで上手くことが運べました。感謝していますよ」

 野登の感謝など毛ほども価値がない。もっと価値ある誠意をみせろと悪態をついたら、意外にもなんでも質問に答えると言ったのだ。あの野登が。

「なら私の疑問に答えてもらいたい。上級悪魔の記録は、構造などは全てどうやって調べられたのだ?」

 上級悪魔の記録の散見さは異常なほどだ。別の記録にわずかな付箋が貼られているように。一つにまとまっている記録は少ない。そしてそのほとんどは仮説に過ぎない。

 ただの仮説ではなく、確証たる記録の情報源が気になって仕方ないのだ。

「簡単ですよ。匡や紫音のように上級悪魔にした後、実験や研究をすればいいのです。上級悪魔に変化した直後は自分が何者かわからない赤子ですから、簡単に洗脳もできますし」

 その方法だと大量の魂を最低でも三回も死神は失っているのか。

 研究者の考えはよくわからないが、回収率のために、回収する魂を消失するのはどうかと私は思うのだが。

「では記録を残した刀浄氏とやらは研究員だったのか」

 野登からもらった記録は全て刀浄という名が記されていた。聞いたことのない名だが、極秘で研究させていたのかもしれない。

「本人はまだ健在なのか?」

「ええ。食堂にいますよ」

 別に存在しているからどうするわけでもなく、なんとなく聞いただけだったが、予想外な返答をされ思わず間抜けな声を出してしまった。

「言っていませんでしたか? 此処の食堂で働いてもらっている刀浄伊万里さんは元、死神で研究員だったのです。私が匡を育てる上で助言をしてもらおうと此処に来てもらったのです」

「聞いていない! では今回のことも全て伊万里氏に聞けば済んだことだったのか?」

「まあ伊万里さんも此処の仕事があるので、残した記録以外のことなら答えてくれるのですが、記録に残したことは教えてくれないのです。まあ、今回でもう上級悪魔と対峙する必要がなくなったので、記録も全て消す予定です。必要ない話ではありますが、その時の上級悪魔は正気を失って自傷行為をして消失したそうですよ」

 上級悪魔に関する記録は必要最低限のことのみ残し、発生方法などは全て消すようだ。

 その方が二度と狩崎氏らのような者が生まれずに済む。私も賛成だ。

「それにしても、紀川氏を仮死状態にしてから忙しかったな。上を何度欺いたことか……」

「今回の報告で上を欺くのも最後ですよ。守君が正式に此処で働くことになれば、三獣隊としての機能は完璧になるので、上もうるさくはなくなるでしょうし」

 こいつは最初からこうなることを予測していたのではないだろうか。

 だがこいつはいつもこうだから、今更考えても仕方がない。報告書の確認を終え、ため息をついた。

 そしてふと気になったことを聞いてみることにした。

「紀川氏が来たときは口調を変えたそうだが、戻したのか?」

「ええ。匡の一部だったのですから、なめられないよう少しでも威厳を見せようかと思ったのですが──匡とは違っていい子だったので戻しました」

 こいつを怒らせたらそこらの悪魔も倒せるのではないのだろうか。

 威厳など気にするような奴ではないと思っていたが、そうでもないようだ。

「それは良かったではないか。さて、私も早く上に報告して通常業務に戻るかな」

 イレギュラーなことが続いたので、通常業務が懐かしい。

 紀川氏が次にくる時は、もっと私の業務が減っていると良いのだが。そんな希望と報告書を抱いて、死神本部に戻ろうとした時、野登が珍しい事を口走った。

「お疲れ様でした。とても助かりましたよ」

先ほどの感謝といい、こいつが私にお疲れ様など縁起でもない。鼻で笑って強めに戸を閉めた。

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