第49話 喧騒からの静寂
守を普通に現世に帰すのは面白くないと言い出したのは導さんだ。
通常なら死神が壁などに開けた現世への穴を通るのだが、守には何も言わずに足元に開けて落としてしまおうという案だ。
死神は呆れながらも了承してくれたので成功したのだが、予想以上に面白かったので守が帰った後、俺たちは爆笑してしまった。
「あいつ、めっちゃキョトン顔で!」
「ああいうのを豆鉄砲を食らったような顔って言うのでしょうね」
「あまり紀川氏で遊ぶな──と言ってもこれで最後か」
死神はため息をつきながら床を軽く蹴って穴を塞いだ。
いや、最後ではない。守がまた戻ってきたら、そこからまた遊ぶのだ。
「ところで野登、これからの三獣隊はどうする気だ。紀川氏を帰した後のことも報告しなければならないから、報告書を作成してほしい」
「では先に口頭で伝えておきますね。死神が魂を回収する際は紅緋が通常通り最前線に立ちます。あ、上には紅緋のことは上手く言っておいてください。そして匡は守君が戻ってきたら中級悪魔を狩るチームを組んでもらいます。これで上級悪魔の発生を予防できます。と、まあこのように動いていきます」
「狩崎氏は紀川氏が戻るまで待機、か。紅緋は本名だろう? 報告書と一緒に新しい名を教えてほしい。また後で取りにくるからな」
相変わらず死神は簡潔に要件を言って出て行った。
俺は守が来るまで待機なのはわかっていたが、そうなると暇だな。紅緋に手合せでも頼もうか。
「守君がいなくなって寂しくなりましたね、匡」
導さんに言われて素直に頷いた。だがすぐ此処に戻ってくるだろう。どうせ俺が迎えに行くことになるだろうし。
「それより、紅緋の名前はどうするんですか?」
「ああ、決めていますよ。狩崎紫音、と命名します。匡と兄妹のようですから同じ苗字にしてみました」
別に兄妹でもないのだが。此処ではあまり苗字を呼ばれないし気にはならないだろう。ただあの死神は呼び方を変えてくるだろうが。
「別にあいつを姉と思っていないんですけど」
「三獣隊では匡の方がお兄ちゃんではないですか。守君の時と同様、教育係をお願いしますね」
そう言われては否定できない。妹とも思っていないのだが、もう面倒なので止めておこう。
唯一の同族。敵なら敵。味方なら味方。そう割り切れるあたり、俺たちは似ているのかもしれない。
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